寒い朝 / 彼方から

彼方からの二次小説です。

古いマンガですが「彼方から」でイザーク×ノリコの原作終了後です。

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「…寒い」

 昨夜暖められた空気は寝ている間にすっかり冷えて、明け方に目を覚ましたノリコは寒さから逃げる様に布団に埋もれた。

(今日も寒そうだなぁ)

起きなくてはいけないと解かっていても、吐く息の白さに眉をひそめてしまう。ちらりと隣を見れば規則正しく高くなったり低くなったりする山。それはイザークの大きな体で盛り上がった布団の山

好奇心、それとも悪戯心か。とにかくその手の類のものが込み上げてきたノリコはモソモソと、物音に注意しながら布団の中を移動した。移動してイザークの体と自分を隔てるものが無くなればイザークの香りが一層強く香る。

「温かい」

イザークの匂いがする温もりに手を伸ばす。イザークの広い背に触れれば、ノリコの小さな手を規則正しい呼吸が押し返す。何でか嬉しくて。何でか楽しくて。ふふふ、と笑ったノリコはピトッとイザークの背中に自分の体をくっつけて

「えいっ」

大きなかけ声と共に、イザークの広い背中を抱き締める様にノリコは目一杯力強く腕を回した。ふふふと笑って、ぴとっとくっ付いたイザークの背中に頬ずりをする。 触れ合う場所の全てが温かくて、嬉しくて堪らないノリコは笑いをこらえることができなかった。

「何をしているんだ?」

ノリコの細い腕の中でイザークの体がぐるんと回転すると、ノリコの頭上からイザークの呆れたような声がふってくる。顔だけ上に向けてみれば、イザークの顔は未だ眠そうだった。

「起こしちゃった?」
「…まあ」

大きな声と衝撃を与えて起きないわけがないのに。笑いながら「ごめんね」というノリコにイザークは苦笑する。

「だって温かいんだもん」

説明になっていない答えにイザークは首を傾げつつも、自分の胸元にぴとっと体を寄せて背中に腕を回すノリコに悪い気はしないし、なんとなくそういう気分だったのだろうと納得した。

「ホントだな」

イザークがノリコの体に腕を回せば抱きしめられている方が変わる。今度はノリコがイザークの腕の中にすっぽりと納まる。

「もっと温かくなった」

布を通して伝わってくるお互いの体温。それは何て幸せなひととき。

「昔さ…」

目の前でふわふわと揺れるノリコの髪を撫でつけながらイザークは昔話に興じる。珍しいイザークの昔話にノリコは俄然興味がわいたが、あまり良い想い出ではない可能性もあり反応に困っていた。

「近所に犬を飼っている家があったんだ。その家には俺と同じくらいの男の子がいてさ。寒い日にその犬を抱いて寝ているって言ってて」
「…何か展開が分ってきた」

ノリコの眉に浅く皺が寄るものの、イザークは意に介さずノリコの長い髪の先っぽで軽く結われた髪をふる。束ねられたノリコの淡い色の髪の毛はイザークの想い出の中の犬の尻尾に似ていた。

「すごく羨ましかった」

イザークはずっと孤独だった。家族ですら傍にいてくれなかった。物言わぬ犬でも良いから、寒い夜はその温もりにすがりたいと何度思ったかしれなかった。

「もう起きる」

イザークとしては昔を思い出し、幼少期の自分の心の支えに似ているという意味も篭もっていたのだが、ノリコとしては近所の犬と同一視されたとしか思えず

「ノリコ?」

起き上がろうとするノリコの顔を見て、その膨れた頬にイザークは自分の失策を悟った。イザークはもともと人との付き合いは得意じゃないし、言葉が足りないなんて日常茶飯事だった。だから説明しようという意志はあるが、上手く説明できる自信なんてなかった。

「もう少し眠ろう…傍にいて欲しい」

ノリコの細い腕を優しく引いて、その細くて柔らかい体をやや強引にイザークは布団に引き戻す。それがイザークの精一杯だった。

「いつまで?」「…さあ」 

抱き締めても御機嫌斜めのノリコにイザークは内心苦笑するも、温かいノリコが傍にいることが何とも言えない安心感を与えてくれた。お互いの鼓動を聞きながら温もりを分け合えることの幸せを改めて思い出す。

「寒い朝はこうしてくっついているのが好きなんだ」

「んもう…」

『好き』なんてイザークは滅多に言わないから、イザークが甘えることなんて滅多にないから、免疫のないノリコは瞬く間にノックダウン。

「ズルい」

言葉は反論しつつも、ノリコの体はイザークの腕の中に舞い戻る。イザークの温もりに包まれたらノリコの不機嫌なんて長続きはしない。案の定、言葉の終わりは笑い声だったと気付いたイザークは口の端だけで小さく笑って

「温かいな」

ノリコの身体を抱き締める腕にちょっと力を籠める。その温もりを閉じ込める様にして「もう少し一緒に寝よう」と甘く囁く。

二人で同じ夢を見よう

温かく甘い夢を共にずっとずっと一緒に見よう

END

寒い朝 / 彼方から

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