シティーハンターのリョウ×香で原作終了後(奥多摩後)です。
概要
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「僚」
しばしの沈黙
「僚」
「…あんだよ」
2回目の香の呼びかけに僚は渋々応えたが
「……僚」
「だから、何だ……い゛!?」
イライラと僚が振り返った先には1トンハンマーの柄を握り仁王立ちする香。その顔は般若の様相。
「あんたが、そう、イライラ出来る、立場なの?」
まるで物分りの悪い子供に言い聞かせる様に一語一語を切りながら話す香。一語一語の間にある怒りの滲みっぷりがことのほか怖い。
「あ…あの……香チャン?」
「誰の所為なの?」
香の目がスッと細まるその迫力は凄まじい。僚の背をツッと冷や汗が伝う。
(A国の敵、一個小隊…一個中隊でもいい!そっち相手の方がマシだ)
「冴子さんの『一発』に乗せられて結局タダ働き…誰の所為かしら?」
「…ごめんなさい」
僚は小さくなって土下座する。裏の世界No.1の称号を疑いたくなるその情けなさに香は頭痛がした。
「で、どうするのよ」
「どうするって…言ってもなぁ」
僚がちらっと視線を送るのは無残にも穴だらけになった愛車のミニクーパー 。
「あのたくさんの穴も修理しなきゃ、よねぇ?」
「…どうにかする」
「ふうん…どうにか、ねえ」
香はに~っこりと笑った笑ってはいるが、その目は決して笑っていない。
「うちにそんな余裕は無いの、ご存じよね?」「……はい、重々承知しております」 「今は冬。暖房費もかさむわよね?」
香は幼稚園の先生のように僚に言い聞かせる。その表情は聖母とは程遠い、噴火前の活火山を連想させる異様に静かな笑顔。
「誰かさんは”寒いから~♪”って何軒の居酒屋梯子するし」
「……(汗)」
「あと何軒のツケが残ってるか分ってるの?」
香の鬼気迫る目に勝てるわけなく僚はぐうの音も出ずうな垂れるだけだった。
分った、と僚は香の目の前に三本指をたてた。
「この先3回、男の依頼を受ける」
「…ふうん」
「…飲みに行くのも週に三回にする」
「何なの、その中途半端さ」
変な妥協に香の顔が緩む。呆れながらも香が納得していることが分かる表情に、僚は香を説得できたことに安堵して、焼け焦げのあるコートのポケットに手を突っ込んだ。
(…ん?)
僚の指先が感知したのは冷たく硬質な感触。一瞬でその正体を悟った僚は隣を歩く香と、少し遠くにあるが夜道でも明るくて目立つ看板を見比べる。
「なあ…香ちゃん、腹減らない?」
「…空いたけど?」
香の目も僚と同じもの、深夜の夜道を明るく照らすコンビニエンスストアを見る。
「でも家から浚われたから私は財布も持ってないわよ?」
「俺もスッカラカン」
「…ダメじゃん」
「それがさ、ほれっ!」
僚はニカッと笑って100円玉を3枚出した。コンビニの照明を反射して鈍く銀色に光る。
「残ってた。肉まん程度なら買えるだろ」
顔をパッと輝かせてコクコク頷く香の両手に僚が冷たいコインを落とすと、さっきまでの疲れた足取りは何処へやら。行ってくるね、と元気よく自動扉の向こうに消えて行った。
(…現金な奴)
明るい店内で嬉しそうに肉まんを注文する香。嬉々とした笑顔で買うのはたかだか肉まん2つ。飽食の日本では珍しい光景。
「ん~~、温かぁい」
自動ドアの音と共に香の嬉しい声が僚に届く。はい、と一個を僚に渡してもう一個は自分で頬張って
「やっぱり冬は肉まんよねぇ」
「はいはい」
何度も言うがたかだか肉まん。それを幸せって顔をして美味しそうに頬張る香を見ながら僚は苦笑した。安い幸福とは思わなかった。この日常がどれだけ貴重なものなのかを僚自身過去の経験で痛いほど学んでいるから。
「ほら、帰るぞ」
歩き出した僚を慌てて追いかける香。幸せそうに肉まんを頬張る二人の姿を冬の月が照らしていた。
END
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