シティーハンターの二次小説で、原作終了後の獠と香です。
恋人同士になったものの未だ清い関係の獠の語りです。
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『今夜は帰るなよ』
見ていなかったテレビに顔を向ければ、
真剣な目で女の腕を掴む男と潤んだ瞳で男を見上げる女がいた。
「”今夜は帰るな”…ねぇ」
好きな女が出来て、
想いを告げて、
共に過ごす時間を得ようと努力する恋人たちの、
この姿を『普通』というならば俺の場合はどうなんだろう。
というか……この女、信じられねぇ
すやすやと小さく寝息をたてながら俺の膝の上で眠る香。
しかも熟睡。
警戒心なんて全くない、ゼロだ、ゼロ。
俺とお前は世に言う恋人同士なんだぞ?
男と女なんだぞ!?
……そう言ってやりたいけれど、
素直にそう言える性格ならばこうまで拗れて来なかっただろう。
同居から始まった俺たちの関係。
今更そこに色艶を織り交ぜようというのが無理なのか?
…いや、これは男として自然な本能だろう。
「ん……」
俺の膝を枕にする眠り姫。
膝枕はやっぱり女の腿が良いのだろう、男も女も。
香は固い枕がお気に召さないらしく唸りながら姿勢を変える。
『美人』と形容して一切問題ない端整な顔が天井を向く。
とっくに成人を過ぎたのに、
年齢に似合わない無防備に晒された無垢な寝顔と御対面。
何も塗られていないのに艶のある桃色の唇……
… キス…してぇ
香は女なのだと認めてしまえば、
この胸に巣食う思いを認めてしまえば、
男の本能が困ったくらいの勢いで湧き上がる。
仕方がねぇだろう、俺は男なんだから。
男の中でも…まあ、自分の欲望に対して結構素直な人間だって自覚もある。
しっかし…
槇ちゃん…お前、妹にどんな情操教育してきたんだよ。
惚れた腫れたで騒ぎ合った男の膝で、
安心してすやすやと眠る赤ずきんを作るんじゃねえよ。
「香…」
いい加減起きろよ。
いや未だ起きるな。
相反する考えが俺の頭の中でグルグル回る。
気づけば香の顔は目の前。
どうやら無意識に顔を近づけていたらしい。
本能ってこわ~い。
薄く開いた唇から洩れる寝息が俺の前髪を揺らす。
女独特の甘い匂いに香独特の匂いが混じる。
唇同士の距離は目測3センチ。
唇に触れる香の寝息。
もう1センチ近づけたところでピタリと止める。
流石にキスしたら目ぇ覚ますよなあ。
いくら鈍いって言っても自分の身体に、
それも比較的敏感な顔面に何かが触れりゃあ気付くだろう。
キスして起きたら… ビンタか…
ハンマーじゃなければ良いけど…
こんな俺の地獄は天国と常に隣り合わせだ。
真っ赤なずきんをかぶった白雪姫の目を覚まさずに唇を奪えれば天国、
それで起きたら……運任せ。
俺の顔が影になって、
香の唇はさっきまでの鮮やかな桃色から渋い色合いに変わっている。
賭けてみる気にさせられる形のよいふっくらした唇。
頭の中でカウントダウン開始。
ゆっくりと、慎重に顔を降下させる。
残り1センチ。
普段は存在さえ信じていない神に都合よく幸運を祈って俺は目を閉じる。
暗くなった視界。
次の瞬間に俺の唇は柔らかい感触を感知する。
ビクン
同時に俺の膝の上で香の体が震える。
重なった唇の隙間から香が息を勢いよく吸うから、
香もこの状況を理解したことが解かる。
さて…どう出る?
どうか神様。
こんな時ばかり神様に祈るのだから人間はわがままだ。
でも神様ありがとう。
いまのところビンタなし、ハンマーの衝撃もきていない。
もしかして、時間差攻撃か?
…なんて、日に日に高度化する香の技を思い出しながら、
激痛を恐れつつ薄ら目を開けてみる。
……あれま♡
視界いっぱいに広がるのはギュッと瞑られた香の眼。
少し顔をひけば薄紅色に染まる頬が見える。
気づけば華奢な体は震えているし…
しがみ付く様に俺のシャツを握る香、
緊張の塊のような香にようやく気付いた俺。
あはは、俺も緊張してやんの
人間ってのは単純だ。
自分よりテンパっている奴を見ると妙に余裕がでてくる。
現に緊張する香を見て俺の体から緊張が抜けた。
緊張が抜ければ気もでかくなうもんで、
香の短い髪の間に指を滑り込ませて形のいい後頭部を手の平で包んだ。
「…っふ」
香が呼吸できるように俺は自分の顔と香の顔の傾きを変える。
まるで溺れているかのように、
生じた隙間を使って香は必死に息を吸う。
俺の腕の中で身体を強張らせて緊張と羞恥で震える香が愛おしい。
「はっ…」
熱く荒い呼吸を聴きながら甘い口付けを繰り返す。
どうやら俺があけたのは天国の扉だったらしい。
それにしても…ヤバい。
このキスはクセになる。
柄にもなくこの俺がキスだけで満足してる。
新宿の種馬が聞いてあきれる。
恐らくこのまま柔肌を探っても、
この先に進んでも大丈夫な可能性が出てきたというのに。
しっかし……止めるタイミングがつかめない。
さあって、どうすっかなぁ…
- END -
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