安全地帯 / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説です(旧サイトから移転)。リョウ×香で、本サイトではリョウの字に「僚」をあてています。

概要

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香はいつもと同じように元気良く入口の扉を押し開いた

「こんにちは、美樹さん、海坊主さん」

後追いのようにカウベルが高らかに鳴った
妹のように思っている女性の来店に美樹が微笑む

「いらっしゃい、香さん。いつもので良い?」
「うん」

香は笑顔で頷いていつものカウンターの席に座った
わざわざ遠回りして右から
まるで左側に誰かが座るかのように

やがて目の前に出された珈琲に香はいつも通り礼を言った
そして大切なものを扱うかのように両手で掲げて珈琲の香りを楽しむ

一口分の珈琲が喉を通ったとき、美樹の隣にいた海坊主が口を開いた

「僚の消息は辿れたのか?」

核心を突いた飾り気のない言葉に美樹は息を飲み夫を咎めるように見る
そんな美樹とは対照的に香は呼吸するように自然と首を横に振る

「新宿中の情報屋に協力してもらっているんだけどね」
「表の方は?」
「冴子さんも協力してくれているんだけど全然」

報告しながらも香は珈琲の香りと味を楽しんだ
いつもと同じ笑顔で今日の出来事や依頼の有無を2人に報告する

「大丈夫、香さん?」

あまりに普通な状態の香を怪訝に思いながら、美樹は伺うように声をかけた
そんな美樹の心配を腐食するかのように香は明るく笑った

「大丈夫よ、さあ帰って夕飯の準備をしなきゃ」
「え?」
「ごめんね、慌しくて。これ、珈琲代」

香はパタパタと帰り支度を整えると、風のように去っていく
香と入れ違いに入ってきた冬の風が温かい店内を舞った

「またやっちゃったわ」

***

「ごめんなさい、香さん」

両手を重ねて香に頭を下げる冴子
突然の切り出しに香は目を丸くした

「どうしたんです、冴子さん?顔を上げてください」
「あのね…僚」
「ああ、僚ですか?」

香は合点がいったように一度軽く頷いた

「僚なら昨夜飲みに行くって言って未だ帰ってませんでしたよ」

明るくいう香の顔を冴子はジッと見て赤い唇を動かした

「嘘」

温もりを持たない言葉に香の肩が微かに揺れる
香はすっと笑みを引っ込めると、真剣な目で冴子を見つめ返した

「何故?」
「香さん、あなた判っているんでしょう? 僚が昨夜は飲みになんて出掛けてないって」

香は口を開くことなくジッと冴子を見つめた

「裏の、殺しの仕事をしていたんだって」

“殺し”という単語に香の目が微かに動く
ジッと冴子の真剣な目を見た香はもう誤魔化しが利かないことを悟った

「やっぱり昨日は冴子さんからの依頼だったんですね」

軽く頷いたあと冴子は事件の概要と依頼内容を香に説明した

「警察官として法を蔑ろにしていることは恥じているわ」

冴子の白い歯が赤く塗られた唇にくい込んだ

「でもそれ以上に現在の法では裁けないアイツが許せなかった!!」

体内に燻る憤りを逃がすかのように冴子はカウンターを拳で叩いた
そんな冴子の拳に香はそっと手の平を重ねた

「大丈夫、僚は帰ってきます」
「でも…現場に僚と思われる血が残っていたの」

冴子の言葉にも香は動じなかった

「海坊主さん、傷ついた野生動物は身を隠して怪我を治すんですよね?」
「あ? ああ」

突然話を振られた海坊主は訳のわからないまま頷いた
香はその答えに満足したようにニコリと笑った

「僚は野生動物だもの。何処かでケガを治して帰ってきますよ」

***

「痛っ!」

香の笑顔を思い出していた美樹は誤って紙で指を切った
キレイな指にじわりと血が滲む

誤って怪我をした自分に情けなさを感じ
香に何もしてやれない自分に情けなさを感じ

全ての苛立たしさを発散させるように美樹はおもむろにエプロンを脱いだ

「美樹、どうした?」
「ファルコン、お店をお願い。私、香さんの様子を見てくる」

美樹は海坊主の返事を待つ事無く外に出て行った
後追いのようにカウベルが扉の開く音を告げた

***

「美樹さん、心配しているよなぁ」

買い物を終えてリビングにその袋を置いた香は電話をジッと見た

(大丈夫、って一言言えばいいんだけど…上手く言えるかなぁ)

香は右手を心臓の上に置いた

1週間前に冴子から報告されたときから巣食い始めた不安
時と共に不安は成長し、今では強がらなきゃ正気を保てない程だった

「少し落ち着いてから美樹さんに電話しよう」

そう決めると香はキッチンに向かった
慣れた手付きで次々を夕食を作り上げる

「作り過ぎたかな」

30分後、1人分とは到底思えない料理の種類と数に香は苦笑した

「冷蔵庫に入れておけば3日はもつわよね」

気を取り直して普段保存容器を入れてある扉を勢いよく開ける
しかしそこには普段は無駄なくらい多くある保存容器が1つもなかった

慌てて冷蔵庫に向かい、扉という扉を開ける
そこにぎっしりと並ぶこの1週間で作り過ぎた料理の数々

(こりゃ保存容器が無くなるわけだわ)

香は苦笑するとキッチンの上の方の棚を見上げた
未だ使わないからといって仕舞い込んだ保存容器の数々を思い出す

「よっ」

掛け声と共につま先で立ち、右手を高く天に向かって伸ばす
しかし先に住んでいた家主に合わせて設定された扉の取っ手には届かず
右手はメトロノームのように右に左にと空中で揺れるだけだった

すうっと冷たい空気が香の背後を通った

「僚、ちょうど良かった。高い位置にあるからとっ………て」

振り向いた香の背後に人など居らず、誰もいないリビングがそこにあった
じわりと景色が揺らぐ

香は背伸びをやめると冷蔵庫に体重を預けた
力の抜けた足は支える力を失い、ずるずると香の体はくず折れた

「りょお…早く帰って来てよぉ」

香のか細い声が広い空間に木霊した

***

息を切らして冴羽アパートに到着した美樹はいつもの窓を見上げた
在宅を示す室内灯にホッと胸を撫で下ろす

深呼吸を繰り返して息を整える

「え!?」

足を一歩前に踏み出そうとした美樹は突然肩を叩かれた驚いた
傭兵育ちの美樹の背後から近づける人間なんて多くはない

慌てて振り向いた美樹の目に長身の男性が映った

「あ…」

***

「香」

優しい声と温かい手の平の感触に目を濡らした香はパッと顔を上げた
未だ滲む視界には見慣れた男の見慣れた笑顔

「僚っ!!」
「かお………うわっ!!」

香はパッと笑顔を浮かべると腰を浮かせて僚に飛びついた

しゃがみ込むような体勢だった僚
飛びついてきた香の体を抱きとめたものの、バランスを失いそのまま後ろに倒れる
ドサッと大きな音を立てて転がりながらも僚の両手は香の背中に回されたままだった

胸元で温かい身体を抱きしめながら僚は見慣れた天井をじっと見ていた

やがて香の身体の震えが落ち着くと僚は腕の束縛を解いた
腰の位置をずらして香を胸元に抱えたまま上半身を起こした
僚の目の前には未だ目を潤ませて僚を見る香

(この目がずっと見たかった)

僚は香の目元に口付ける
涙の塩気が僚の舌を刺激した

ふわりと優しい香りが僚の鼻に届く

(帰ってきたんだ)

住処にたどり着いた野生動物はホッと身体の力を抜いた

途端に右肩に激痛が走り顔を歪めた
その仕種を見逃す香ではない

「肩…ケガしてるの?」
「ああ、ドジッちまった……手当てしてくれるか?」
「当たり前でしょ」

***

「送ってくれてありがとう」
「レディを夜道一人で帰すなんて出来ないからね」

自宅まで送ってくれたミックに美樹はお礼を言った

「ミックがあそこにいてくれて良かったわ。再会を邪魔するところだった」
「まあ、リョウがカオリを離すとは思えないけどね」

かつてのパートナーである僚を思い苦笑するミック
ケガした僚を発見し、意識朦朧とした僚を山小屋で看たのはミックだった

「目を覚ました途端、新宿に帰るだもんなぁ」
「クスクス…野生動物も飼い主が出来るとそっちでケガを治したいのね」

美樹の言葉に意味がわからず首を傾げる美樹

「今度説明してあげるわ」

そう言うと美樹は再度ミックに礼を言うと自宅に入っていった
何だかんだと香を心配いしていた夫に傷ついた獣の帰還を教えるために

***

「洋服、脱げる?切っちゃおうか?」
「止めろよ、この服気に入っているんだから」

辛そうな顔をする香を和ませたくて軽口を叩く
そして余計な心配をさせないように歯を食いしばってTシャツを脱ぐ

「かなり深い位置まで刺されたみたいね…ドクのところに行く?」
「いや、いい。血が止まればこっちでもあっちでも同じこった」
「そう……じゃあ、消毒だけするわね」
「ああ」

消毒用エタノールに浸された脱脂綿が傷を拭う
強烈な刺激に僚は顔を顰め、詰めていた息を少し吐いた
そんな僚を横目で見ながらも香は事務的に手を動かす

「これで…大丈夫だと思うけど」
「ああ、サンキュ」

一通り治療が済むと僚は洋服を整えてソファに寄りかかった
目を瞑って大きく息を吐き出しながら身体をソファに沈めていく

「僚、お帰りなさい」

聞きたいことは数々あった
しかし香はそれだけ言って僚の唇に自ら唇を落とした

初めての香からのキスに僚は目を大きく開いて身体を強張らせた
数秒のふれあいの後少しだけ唇を離して香は囁いた

「会いたかった」

香の言葉に僚は目を細めた

「俺も会いたかったよ」

お互い一番伝えたい言葉を言うと同時に唇を近づけた

END

安全地帯 / シティーハンター

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