答え / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説です。僚×香(リョウ香)菅田将暉さんの『まちがいさがし』を聴いて浮かんだストーリーです。

概要

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「さて…どうしたものか」

香は目の前の光景にそんな風に呟き、想像したよりも冷静な自分に驚いていた。ここ数週間の体調不良と定期的に来ていた生理が遅れていることで、ある程度予想がつき、いま現実に『そうです』と言われるまでに心の整理をする時間があった。

妊娠

この事態に香の取る行動は2つである。1つは伝手を頼ってアメリカで産む。もう1つは新宿で産む。どちらを選択するかは、妊娠の原因をつくったもう1人の僚次第だった。

(……この男がこんなに驚くとは)

傭兵部隊では保健体育の授業がなかったんだろうな、と唖然を絵にかいたような表情をしている僚に香は笑い

「あんたにあげる選択肢は2つよ。ここで産んでほしい?それともアメリカで産んで欲しい?アメリカにいるさゆりさん、立木さゆりさんには連絡して『いつでもいらっしゃい』ってOKもらってるから」

「……俺に『責任取れ』とか言わない、のか?」
「言ってどうなるのよ。責任取るっていっても、あんた戸籍ないじゃない。経済面も心配しないで。いまの御時世、子どもを産むだけならお金はあまりかからないし、当面の生活費は絵梨子が先払いしてくれるって言うし」

「産まないって選択肢は?」
「ない」

「ま、俺も産むななんて言わねえよ。そんなこと言ったら明日の朝日を拝めねえもん」
「そうかもね」

愛されちゃって、と香は未だ平らな自分の腹を叩く。そこに自分の子がいる。その事実を僚は未だ上手く消化できない状態だったが、妙な嬉しさが確かにあって

「種の存続本能ってやつ、俺にあるとは思わなかったわ」
「あら、じゃあ嬉しいって思ってるんだ」

意外、と言う顔をする香に「冷てえ女だな」と僚は笑いながら幼少期に思いをはせる。傭兵時代、幼少期は炊き出しや武器の手入れが仕事だったが、食事のときは大人たちと一緒だった。

部隊の男も女も性には奔放で、男女の営みの何が楽しいのかと聞けば種を継ぎたいという本能だと言って笑っていた。まだ見ぬ自分の種には執着するクセに、目の前の子をなす相手には無頓着。ハチャメチャだったが明日知れぬ身の彼らは限られた環境で生を謳歌していた。

そんな環境で女が子をなすことも少なくはなかった。そんな彼女たちは部隊から消えていたので僚がその先を知ることはない。しかし「子どもは欲しかったんだよね」と笑っていたから逞しく育て上げたに違いないと思っている。

そんな彼女たちを見て、自分の母親もこうだったのかと想像したのは一度や二度じゃない。男の場合は知らぬ間に自分の子がこの世に生まれ堕ちてたってことがあるが、腹に子を10ヶ月間宿す女にとって自分の子を知らないということはあり得ない。僚にだってその腹に10ヶ月間自分をしまっていてくれた女が絶対にいるはずなのだ。

「俺、ガキんとき親父に『何で間違いの方に生まれてきたんだ』って言ったらしいんだよ。そんなことも覚えていないくらい小さなガキの愚痴なのによ、親父は酒を飲むたびにそういって俺をからかってさ」

僚のこんな昔話は珍しいと思いながら、香自身も同じ思いをしてきたことを思い出した。父がいて、兄がいて、優しい二人の存在で母親がいないことの寂しさに苛まれることはなかったが不意に母親の欠如に虚しさを感じていた。

「母親がいる子ども時代が正解なら…私はあんたと逢えなかったかもしれないわ」
「なかなかロマンチックなことを言うじゃん。間違いとか正解とか他人の物差しじゃ計れねえよな」

「…あんたは私を表の世界に戻すのが正解って思ってたみたいだけどね」「あ~あ、あのときお前を表に戻しておけば俺は今ごろ絶世の美女とウハ…バ、バカ!コンペイトウを召還するんじゃねえ!

手元をキラッと煌めかせた香を僚は慌てて制止する。「バカ」と呟いたものの武器の召還をやめた香にホッと安堵の息を吐いて

「これも遺伝するんかね」
「あんたみたいな男に引っかかったらね」

「俺みたいな男、そうそういるかよ」とふて腐れながら僚は香を見る。シュガーボーイの頃は10人のうち9人が男と言う様なガキだったが、いまの香は艶やかな女の色気を放ちすでに子のいる母親の雰囲気も醸し出す10人のうち10人がイイ女という女になった。

(でも、この目は変わらない)

どんなに変わっても、初めて出会ったときに僚の心の琴線を弾いたそのまなざしは変わらない。出逢った日からわずかに僚の運命は動きだし、亡き兄の代わりに香が相棒に名乗り出た日からすごい勢いで僚の運命は変化した。

常識を吹っ飛ばす激しさもありながら、凪いだ海のように穏やかに僚を優しく包む香。そしてすぐ、香との生活に退屈に感じるほど僚の中で香の存在は当たり前になった。

この生活は間違いだと頑固に思う自分の心の隅っこで、正しさなんて捨てて死ぬまで傍に置いておきたいと僚は思っていた。そんな自分に嫌悪しながら、別れの日を想像した寂しさが僚の恋心を払拭するどころか成長させてしまっていた。

「さあて、次は人の親か。全く、運命って奴は目まぐるしいな」
「ゆっくりやっていきましょうよ、今度はどちらも初心者なんだし」

僚の手を取った香はそのまま腹部に手を当てる。未だ何も感じるはずがないのに、香の腹に触れた部分が僚はとても熱く感じた。

(間違いも正解も関係ない…答えはここにすでにあるんだから)

香とならやっていける、そう確信した僚は香に上着を取ってくるように命じ

「教授のとこで作戦会議だ」

「…分かった、というか既にうちは香に妊娠を聞きつけた奴らで酒盛りをしている。そろそろ閉店時間だから僚に責任もって回収させろ」

電話を切った海坊主に妻の美樹が寄り添う。酒に強い彼女にしては珍しく、その頬は祝い酒で薄く紅色に染まって、楽しそうにクスクス笑っていた。

「いまから新宿中の香さんセコムは厳戒態勢ね」
「全くこの街の奴らは…」

俺も武器庫の確認をしないとと優しく笑うセコムの1人である夫に美樹は楽しそうに笑った。

END

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