シティーハンターの二次小説で、リョウと香は恋人同士です(リョウ香)。 バレンタインデーの話です。本作では「僚」の字を使っています。。
概要
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「きゃあ!」
煌びやかな空間に華やかな歓声が沸き、「何だ?」と疑問に思った男性客が顔を巡らせばそれぞれの席についていた嫋やかな夜の蝶たちが申し訳なさそうに柳眉を下げて微笑む。
「彼が来るといつもこうなんですよ」
淑やかな風情の美女に怒る男は少ない。それに騒ぎといっても耳障りな賑わいではなく、この華美な空間に色を添えるだけのものだったから
「新宿の蝶たちが騒ぐほど色男なのかな?」
「お客さんには敵いませんわ」
経験を重ねた新宿の蝶たちは艶やかに微笑み透明なグラスに琥珀色の酒を注いだ。
「あ~ぁ、また負けたぁ」
ソファにぐったりと身を預け天を仰いだ僚は、お手上げとばかりに両手を上げる。
「僚ちゃんったら、もう賭けるものないわよ」
「うんにゃ、あと一個ボンボンあるはず…」
抗議しかけた僚の言葉は、口の中に残るチョコレートの香りに尻つぼみに消えていく。「ゲームやりながらつまんでただろ」と顔を顰める僚に同じテーブルにいたミックがにやりと笑う。
「見てないで止めろよなぁ」
とほほ、と項垂れる僚に周囲の蝶たちが煌びやかに笑う。
「どうやって”負け分”を支払ってもらおうかなぁ」
「はいはい、何でもお聞きますよ」
お好きに、とまな板の上の鯉の心境で僚は笑いかけ「俺の身体で、なんてどうだい?」と囁く。そんな僚の言葉に彼女は目をぱちくりとさせ、理解と同時に顔を赤らめると思いきや僚の予想に反してくすくすという笑いとともに断られる。
「なんでぇ~?悪い話じゃないと思うんだけどなぁ」
「イヤですよぉ。この一帯のお姉さんに殺されちゃう」
ベッと彼女は年に似合わぬ幼い仕草で舌を出し、はたと気づいて両手で手を打った。それはそれは楽しそうに
「それじゃあいくつか質問に答えて欲しいなぁ」
「あん?」
彼女の言葉に僚は訝し気な顔をしたが
「良いでしょ?」
ね?、と強請る彼女に悪い気はせず、その笑顔の裏に隠れるたくらみに興味もわいて、僚はニヤッと笑って了承した。
「何なんでしょう…こりは?」
僚の目の前には美女が2人。ひとりは艶やかなドレス姿、もうひとりは清楚ながら色香溢れる和装姿。
「何してんの、二人ともぉ?」
お店は?、と訊ねる僚に
「誘われて抜け出してきちゃった」
「大変魅力的なお誘いだったもので」
ドレス姿の美女は新宿で3本の指に入るクラブのナンバー1ホステス。和装姿の美女は一見様お断りの高級クラブのママ。夜の新宿の住人で知らぬ者はいない佳人の微笑みに店内にいた全男性客の目が釘付けになる。
「それでは第一問」
「”第一問”?」
「「どちらがお好きかしら?」」
「…へ?」
タイプが違う二人の美女の色ある視線に僚は間抜けな声で応えた。微笑んでいるけれどその瞳の奥に見え欠ける剣呑な光に「怖ぁ」と隣のミックは背筋を丸めた。
「「どっちが好き?」」
あら負けてしまったわ、と和装の美女がさほど残念そうになく帰っていくと次は同じようなドレス姿の女性が2人現れる。
「あー………こっち?」
僚は長い髪のキャバ嬢を指差すと、「やっぱりねぇ」とか「うーん…そう来たかって感じだけど」と店内のあちこちで声が湧く。2人のうちの1人、僚に選ばれなかったショートカットのキャバ嬢が席を立ち
「じゃあこっちの彼女とあっちの彼女とは?」
自分の代わりに黒髪のキャバ嬢を座らせる。彼女たちの意図に気づいた僚はため息を吐いて 「いつまで続くの?」とぼやけば、「私たちの気が済むまで」という答えにならない答えが返ってくる。
「それじゃあ、こっち」
女の気紛れを期待した僚は長い黒髪の方を選ぶ。そんな僚に「ほんと、素直じゃないね」と高見の見物するミックは笑い、 「煩せぇよ」と元相棒を僚はジロリと睨んだ。
「おお!」
僚の輝く瞳の先にはお宝ふたつ。1つは大胆に肌蹴た肩からわずかに見える水玉の可愛らしい下着。もう1つは少し恥ずかしげな雰囲気添えて僅かに姿を見せる紺色のレースの下着。
「「どっちがお好き?」」
可愛いタイプのキャバ嬢とキレイなタイプなキャバ嬢が、それぞれの雰囲気にあった下着を見せている。
「あー…どっちかと言えば……こっち、かなぁ」
今までは比較的きっぱりと断定していたくせに、ここにきて初めて曖昧な回答を見せる。そんな僚の隣でミックはクククッと堪えきれない笑いで肩を震わせる。
(そりゃ悩むよなぁ)
ミックの脳裏に浮かんだのはヒヨコのパンツと総レースのパンツ。どちらも彼女のタンスの引き出しで同居していた。楽しいなぁと笑っていたミックの花の下が、周囲の男性陣と共にガクッと下がる。
次に現れたのは照明に輝くキメ細かい肌を隠す白いレースの下着の片鱗。もう一つはその白い肌とは対照的に引かれた黒いレース。
「「どっちがお好き?」」
小悪魔を具現化したようなウインク添えて甘い声で問いかけられる。匂い立つように咲く花二輪に、質問も忘れて僚もさぞやが舌を伸ばしているだろうとミックは思っていたが
「…ここで悩むか?」
うーんと眉間に皺をよせ唸る僚にミックは呆れた。そして…
「はいはい、そろそろお開きにしなさいな」
せっつかれても答えを出せない僚に会場がシラケる寸前に店のママがパンパンッと手を打って散会の合図をする。店の子たちの一部はごねたりもしたが、各店舗のナンバー1たちは引き際を理解しつつ、満足そうに笑った。
雑誌を読んでいた香は深夜の電話に眉を潜めて受話器を取る。そして受話器から聞こえた嫋やかな声、高級クラブをきりもりする和装の美女に相応しい美声に首を傾げる。
『夜分に申し訳ないんだけどプレゼントを贈ったから受け取って欲しいの』
「プレゼント、ですか?」
『ええ、冴羽さんに』
「ああ、バレンタインの。分かりました」
もはやお中元と変わらないそれに香は了承の返事をして電話を置いた。僚が帰ってきたのはその3時間後、真っ赤な包みが冴羽アパートに到着して5分も経っていないときだった。
「あんだ、これ?」
訝しげな僚に香は荷物の送り主のことを告げる。先ほどあった彼女の、そんな素振さえなかった姿を思い出しつつ
「チョコだろうなぁ」
と箱を振る。赤い箱は予想取り軽く、趣味の良い彼女だからさぞ美味しいものを選んだだろうと辺りを付けたが、ひらりと落ちた品の良い白いカードに描かれた文字に首を傾げる。
For your Valentine
「間違ってないか?」と変な言い回しに僚は首を傾げ、カードを脇に置き白いリボンに指をかけ…思わず漏れた僚の吃驚した様な戸惑った様な声に香は首を傾げて僚の広い肩越しにのぞきこめば
「…なに、これ」
チョコレートかと思いきや大きな箱の中はレースの海
「…下着、だな」
茫然としたままレースを抓んだ僚は条件反射で
「待て!! 落ち着け、話せばわかる!!」
「え? え、何?」
僚の突然の大声に香はハッと我に返り
「俺が盗んだんじゃない!!」
「……解かってるわよ」
身に覚えがあり過ぎる僚の狼狽っぷりに香は呆れ、下着を一枚手に取って白い紙片を僚に示す。
「全部タグが付いたままの未使用品。綺麗に包まれてるし…これを、僚に?」
赤いレースの下着たちは中央でハート型に、それ以外も花咲いた様にハートで飾られている。
「そう…だな」
安堵と羞恥を織り交ぜながら、僚は下着を一つ二つとつまみ出し、そしてあることに気付く。全て同じサイズの下着たち、そのサイズの女は数多いるだろうが、そのうち確実な一人は一緒に箱を覗き込んでいて
「うわ、セクシー…ほとんど紐じゃない?」
大胆にデザインされた真っ赤な下着に同じくらい真っ赤に顔を染めていて
「なるほど、”あれ”は正しかったわけか」
『For your valentine』、日本語で言うならば「あなたの恋人へ」を意味する。
「何か言った?」
「う~んにゃ、でさ」
何?、と首を傾げる香に向かって手を伸ばし
「香ちゃんからはないわけ?」「…欲しいの?」
チョコ、と言外に訊かれて
「俺のValentineだろ?」
もちろんと素直に言えなくて誤魔化してみれば、より熱烈な告白になっていて
「…え?」
驚いた香の顔に僚はしまったと思いつつも、すでに口から飛び出た言葉はもう回収できなくて
「僚……」
揺れる少女の様な無垢な唇
目の前で揺れる女の艶やかな瞳
僚の腕の中にある可愛くて、そして抜群に綺麗なもの
「それって…」「……ああ」
誤魔化すことも嘘吐くことも出来なくて素直に認めれば…認めたのに
「…どういう意味?」
香が目をくりっとさせて不思議そうに見返してきた。
「俺のバレンタインデーってこと?僚にとって2/14ってそんなに大事なんだぁ、まあ男のプライドかかってるもんね」
唖然とする僚を香はくすくす笑いながら押し退けて「仕方ないなぁ」と香が自室に向かう後姿を僚は何も言わずに見送って
「………日本人って」
パタンッと扉が閉まって香の姿が見えなくなると、僚はガックリと肩を落とした。
END
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