バッド・コンディション / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説で、原作終了後(奥多摩後)の獠と香は恋人同士です。

旧題「病魔退散」です。

「ビタミンが風邪を予防する」や「煙草がビタミンを破壊する」という記述がありますが、風評で聞いただけで科学的な根拠を確かめたわけではありません。ご注意ください。

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「冴羽さん、一人?香さんは風邪が未だ治らないの?」

美樹の質問に獠は肩を竦めるだけで応え、いつも通りブレンドを注文しながらいつものカウンターの席に座る。

昨今の禁煙・分煙ブームでもキャッツアイは全席喫煙可。

いつも通り煙草を取り出した僚はいつも通り火を点けようとしてふと隣の席を見る。隣の席には誰もいない。

「もう3日、いえ、4日くらい経つ?」

「あー、そんくらいかな」

視線の先で何を思ったのかバレたと慌てる内心はひた隠し、

何でもない風を装って獠はポーカーフェイスで答える。

そんな男の矜持<プライド>に気づいているのかいないのか。

美樹もそうやすやす胸の内を悟らせないで、

眉根を寄せて片頬に手を当て、

いつも香が元気よく入ってくる扉をみてため息ひとつ吐く。

「香さんの笑顔を見ないとなんか元気が出ないわ」

「そんなに良いもんかねぇ」

ぷっか~と呆れた様に紫煙を天井に吹きかけた獠の前に海坊主はいつも通りコーヒーを置いた。

「いつもより早かったな」

喫茶店を出た獠の気配が遠のくのを確認した海坊主がポツリとつぶやくと、

夫の言葉に隣で作業していた美樹が首を傾げ、

そんな妻に海坊主は黙って目の前の、僚が飲み終えて空になったカップを指さす。

「奴がここに来て帰るまでの時間だ」

「あら、測ってたの?」

「測る必要もない」

それほど速かったのだと、夫の言外の言葉を理解した美樹は、

「相変わらず素直じゃないわね」

そういってクスクス笑った。

(調子が出ねえ)

それは全てのリズムが半拍遅れているような感じに、

何もかもがしっくりこない状態に、

獠は日課のナンパを早めに切り上げて冴羽ビルに戻ると敷地に足を踏み入れる前に気配を殺す。

香と自分がWで仕掛けたトラップに注意してビルの共同玄関の扉を開け、

階段を進みながら「あと少し」と逸る気持ちを必死に抑えて自宅の玄関扉の前にたつと、

ふう、と息を長く吐いて中の気配を探る。

香の気配はリビングにあった。

ギイッと軋む古い扉を恨みながら玄関の扉を開けてそっと閉める。

老朽化と度重なるトラップの発動で鳴き床となった廊下を静かに進めば指先に触れられる距離にリビングの扉。

獠はそれまでの慎重さをかなぐり捨てて勢いよく扉を開き

「獠!?」

リビングのソファでくつろいでいたらしい香の吃驚した声をBGMに歩を進め、

立ちあがってすぐ脇の客間に向かった香の体を捕まえる。

「何も……そこまで徹底しなくていいんでない?」

言葉はちゃらいが僚の目は笑っていなかった。

僅かな怒りさえこもる声音に香は「だって」「でも」と目を泳がせたものの、

グッと喉を詰まらせ次の瞬間には咳込み始める。

「ったく」

そんな香の背を獠は優しくさするが

「りょ……いい、うつ……」

体を折りながら咳き込んで苦しそうなくせに、

そんな香が獠の手を振り払うように離れようとするから獠は香の体を腕の中に閉じ込める。

「…もう移っても良いから」

至近距離にある獠の顔にギョッとした香はいっそう暴れたが、

絞り出すような獠の声に抗うのをピタリと止めた。

裏稼業は体が資本。

裏世界のナンバーワンの異名を持つ獠が体調を崩せば隙を狙う輩はたくさんいる。

たかが風邪と言えども五感を鈍らせるものは命取りの原因でしかない。

それをお互いに解っているはずなのに。

「早く治すというから待ったが今日で4日目…獠ちゃん、もう我慢の限界」

ぎゅうっと香を抱く腕に力がこもる。

「リョウちゃんもう我慢の限界。接触禁止だけでもつらいってのに…顔も見られないってどういうわけ?」

文句なのか愚痴なのか。

おそらく獠すらも答えを持っていなかっただろうが、

「もう勘弁して」

そういって囁く獠に香は困ったような嬉しそうな複雑な表情を浮かべた。

「全く…全然治ってねえじゃん」

自分の膝枕で眠る香から体温計を抜き、未だ高い熱を表示する体温計に獠は眉を顰める。

「…ったく、安静に寝てないからだぞ」

常に香は自分よりも獠が優先で、

自身が高熱でもふらふらと家事をこなしていた。

獠としてもそんな香に家事をさせようとは思っていなかったが、

無理矢理休ませようにも香と顔を合わすこともままならず言えずにいた結果だった。

「俺も大人げないねぇ」

情けねえ、と後悔しながら熱で湿る香の前髪を優しく梳く。

1日、2日と時間がたつほどにどんどん狂いが大きくなる。

手はどう動かしていた?

足はどう動かしていた?

基本的なことさえも調子っぱずれのリズムで狂わされた。

(こんなに香ちゃんに依存していたのね、ボキ)

すべての原因は香だった。

香と顔をあわせなくなって4日目の今日に限界が来た。

そして香を満喫中のいま、

自分にとって今や香が不可欠な存在なのだと痛感していた。

今は閉じられたているけれど、いつも、どんな時も香の瞳は前を見ている。

どんなに怖い目にあっても、たとえ辛い思いをしても、香は決して膝をつかず獠の隣に立ち続けた。

明日も香の笑顔を見たいと思うから今日まで生きてこられたのだと、

自分の心に素直になった今の獠なら解かる。

「しっかし…こんなことでオアズケを食らうとは」

『風邪が治るまで接触禁止』

自分のためとは解かっているけど、

香が苦しんでいるのに何もさせてもらえないのは嫌なもの。

当初は意地になって「別にいい」なんて虚勢をはった自分を情けなく思いつつ、

男心が分からない香にも怒りたくなる。

「…どっちもどっちか」

ふう、とため息を吐いて傍に置いてある煙草と灰皿に手を伸ばしかけたが

- 煙草ってビタミンを破壊するんだって -

肌に悪いとかそんな事だと思ったけれど、

喫煙の害について香が言っていたことを思い出し煙草をテーブルに戻す。

「これで俺が風邪ひいたらオアズケ延長?…悪夢だよなぁ……早く寝よ」

もうこんな苦行に僕ちゃん耐えられない、

と僚は茶化しながらも本気で覆いながら抱き上げた香と共に寝室に向かった。

END

バッド・コンディション / シティーハンター

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