想い出の花束 / YAWARA!

YAWARA!

YAWARA!の二次小説で、夫婦になった松田と柔の未来捏造です。

本作は3月イベントでいただいたナツ様からのリクエストで、イメージソングは「ハルノヒ」(あいみょん)です。

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「耕作さん?」

スマホの液晶画面に踊る文字に首を傾げ、

電話に出れば些か慌てた声で現在地を問う松田に柔は笑った。

「改札口を出たとこね?……はいはい、分かってまーす」

心配性と過保護を織り混ぜた松田の言葉に苦笑しながら通話を終えて、

柔はいつものジョギングコースから逸れて待ち合わせ場所となった駅に向かった。

長く暮らした街でも歩き慣れない道は柔の好奇心をくすぐり、

可愛らしい外観の住宅地に咲く鮮やかなミモザ

日溜まりに丸くなって眠る黒猫

そこかしこにある春の風景に足取りが軽くなった。

予想より少し早く目的地に着き、

人の行き交う場所から離れて、

銀色に光る改札口が見えるベンチを見つけて腰掛ける。

電車の到着のタイミングなのか、

改札口を抜ける人の群れは疎密を何度も繰り返す。

待ち人である松田は日本人男性としては平均的な体躯だから、

来たかも

違った

今度こそ

ジェットコースターのように期待と落胆が柔の心の中で浮き沈みを繰り返していた。

そしてふと、

自分がこうして”待つ”のは珍しいことに気づく。

『よっ』

いつも自分の行く先で待っていてくれたのは松田の方だったと。

(もちろん煩わしいと思ったこともあったけど…ね)

恋愛感情なんて全くない頃は、

記者と取材対象だった頃は、

柔にとって行く先々にいた松田は邪魔でしかなかった。

視線の先でニカッと笑う、

あの先手を打ったことを誇る様な表情にうんざりとして、

イラッとしたことは少なくない。

「ふふふっ」

あの顔を見て嬉しく感じ始めたのはいつからだっただろうか、

あの顔を見てホッとするようになったのはいつからだっただろうか。

『本当に二人にはやきもきさせられたんだからー』

当時をよく知る親友の富士子には呆れたように当時を語られる。

電光石火で結婚(一本)を決めた富士子にしてみれば、

柔の恋愛は亀のような鈍間さであったであろう。

じれったさ満載だっただろう。

『でも今はいい想い出よね』

(富士子さんの言う通り、振り返ればあのストーカーみたいな取材攻撃もいい想い出よね…多分)

「あ、柔さん」

物思いにふけってぼやけていた視界が松田の声でクリアになり、

焦点のあった視線の先では人波に上手に乗って改札口を抜けてくる松田がいた。

春の陽の影響か、

恋心のなせる技か、

柔の視界では松田がキラキラと輝いていた。

「お義母さんからジョギングコースに行ったと聞いて驚いたよ。大丈夫?気分が悪かったり……立ち眩みとかはない?あ、あそこで休憩してから帰ろうか」

心配が加速してオロオロし始めた松田に柔は笑い、

目立ち始めた腹部を優しくなでる。

「大丈夫よ。お医者さんからも運動しなさいって言われているし」

「柔さんの場合…その『運動』が適度のレベルを超えているような気もするんだけど、ね」

妊娠が分かって直ぐの頃、

妊婦の散歩に付き合ってヘトヘトになったことを思い出した松田は苦笑する(柔はケロッと平気なものだったが)。

「あなたのパパは心配性ね。でも、そうね、せっかくだからカフェに寄っていきたいな」

「おすすめの店があるの?」

「全然、駅は滅多に使わなかったもの。だから想い出作り、ね」

「お好きな席へどうぞ」

春の陽気にふさわしい弾む声に出迎えられて、『こっちにしよう』と先に行く柔のあとをついていく。

ひらひらと揺れる藍色のスカート。

普段は膝丈のスカートを好む柔だが、冷えは禁物と富士子に薦められたのは程よい厚みのロングスカート。

最初は見慣れない姿だったが、

自分の子を宿したと柔から聞いてから数か月、

柔の変化と共にいろいろなことに慣れてきたと松田は感じた。

結婚したのだからいずれ子もとは思っていた。

”いつか”と思う遠くの未来に向かう足音は、

前触れもなく加速して、

その”いつか”まではあと少し。

「どんな子になるのかな。男の子でも女の子でも柔さんに似るといいな」

春の陽気に誘われていま思っていることを素直に告げると、

松田の言葉に柔はきょとんとして優しく微笑む。

松田から見て柔は既に母の顔をしていた。

あの日の女子高生が随分と大人になったな、と思いつつ

その成長に少しでも寄与できたことが松田は嬉しかった。

そして思う、柔のような子に育てるのに自分の手で足りるのか。

松田から見て虎治郎も珠緒もそれはそれは大きな存在で、

自分には無理だと怯える気持ちもあったりする。

「私は耕作さんに似た子が欲しいな、優しくて強い子になって欲しいもの」

「俺? 俺…かあ、俺なんかよりも柔さんに似た方がいいよ」

「耕作さんは謙虚を通り越して自己評価が低すぎ」

松田の俯きがちな視線ににゅっと飛び込んできたのは柔の小さな手で、

大きさとは裏腹にやや強い力で鼻をつままれる。

「この子だって絶対に耕作さん大好きになるもの。子どもに四六時中ひっつかれて困っても助けてあげないから。うんと困って、みんなにすっごく必要とされているすごい人だって自覚すればいいんだわ」

「…べた褒めだね」

「べた惚れしてますもの」

松田の目の前で柔の顔が、目が、アスリートの目に変わる。

強敵に相対することに悦ぶ表情。

未来に怯えるよりも挑むその姿に、

滲み出る強者のオーラに松田は見惚れ、

この人と共に在ればどんなことでも大丈夫と思う自分に苦笑して

「柔さんは本当に男前だね」

「…褒めてる?」

なんか褒められている気がしないと眉間にしわを寄せる柔に松田は笑って、

「たくさん兄弟を作ってやろうね。俺一人っ子だったから兄弟に憧れてるんだ」

「私も一人っ子だからそうだけど…まず一人目を産むのが先だよね」

これからひとり

いつかはふたり

もっともっと増えて欲しい”大切なもの”

「柔さんとならそんな未来が望めそうだ」

「おそろいね、私もそう思った。取材に夢中になったら家族総出で帰れコールをしてやるんだから」

ここ数日取材に夢中で帰宅がおざなりだった松田はちくりと刺した柔に首を竦め、

「お帰りって笑ってもらえるうちに帰るように努めるよ」

幸せな未来に目を細めた。

END

想い出の花束 / YAWARA!

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コメント

  1. はるか より:

    久しぶりに覗きに来ました!
    お久しぶりです。

    やっぱりnaohnさんの語るストーリーに安定して癒されます。

    目を瞑れば想像(妄想)できてしまうこの表現力は抜群ですね。
    二人が幸せそうで、こっちまで幸せな気分になります。

    シティハンターやセーラームーンも好き!

    もし今度何かネタを探すようでしたら、YAWARA!で『竹内まりや/カムフラージュ』をnaohnさんバージョンで読んでみたいです。
    (勝手なリクエストすみません!!)

    お邪魔しました!

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