過去の君 -time is gone- / YAWARA!

YAWARA!

YAWARA!の二次小説です。

梅ちゃん様からのリクエストで、”柔ちゃんが高校性の設定で松田さんと付き合っている設定”です。イメージソングはDEENの「このまま君だけを奪い去りたい」です(懐かしい曲です)。

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「…ん」

どこか夏のような匂いのする空気に鼻をくすぐられて、公園のベンチでうたた寝をしていた松田の眼がゆっくりと開いた。

「ここは…?」

覚えのある空気だけど確かにある違和感。この違和感の正体が分からないまま、どこか夢のようなこの違和感が遠退いていき目の前の風景を受け入れていく。ここは懐かしい、遊具の位置も全て分かっている公園。ここが松田の指定場所で、ここでいつも”彼女”を待っていた。

「…んだよな?」

春の風に乗って松田の耳にチャイムの音が届く。これは”彼女”が通う高校のチャイムの音。しばらくすると静かな街に高校生の若々しい声が響き始め、松田は「はて?」と首を傾げた。

「俺もオッサンになったのかな…やけに年の差を感じる。まるで俺たちの子どものよう…”俺たち”…って、未だ早いだろ」

頬を赤く染めて拳でこめかみを叩いていたら、そんな松田の耳に高校生の声と共に軽やかな足音が届く。これはきき間違えようのない足音。

「お待たせしました」

鈴の音が鳴る様な柔の声。記憶の通りなのに確かな違和感に松田は思わず顔をしかめる。

「…何でそんな顔してるんですか?」
「いや…柔さんってそんな声だったっけ」

「…普通忘れます?」

声を忘れるなんて失礼極まりない。頬を膨らませた柔に松田は慌てて両手を振り、パンッと両手を合わせて急いで謝る。

「それじゃあパフェで赦してあげます。ちょうどここに行きたかったの」

雑誌のある1ページをみせて、「行きましょ」と楽しそうに笑う柔の顔が突然歪み、同時にまわりの風景も同じように歪んで…

「耕作さんっ!」

柔の声に松田の眼がパッと開き、パチパチっと瞬きをして夢と現実の間を縫って現実を思い出す。

「…老けたね」
「…それ、お互い様」

「だって懐かしくなって」

松田の眼がちょっと離れたところで談笑している女子高生たちに向く。視線の先の彼女たちは昔の柔と同じ制服を着ていた。

「高校生の柔さん可愛かったなぁ」
「…可愛くなくなってごめんなさいねぇ」

「いや、今の柔さんはキレイだよ」
「耕作さん…」

「あの夢も捨てがたかったけど…まあ、あり得ないかな」

高校生の柔はしつこい松田が嫌いで会うたびに嫌そうな顔をしていた。あの夢のように甘い笑顔を向けてくれる”彼女”はいなかった。でもあの柔があったから今の柔がいるわけで。

「あの頃の柔さんも好きだったよ」
「…今は?」

「分かっているくせに」と松田は笑って、柔道をやめてから伸ばした髪を腕に絡めて

「愛しているよ」
「耕作さん…///」

照れ臭そうに可愛く笑う柔に松田は頬を緩めて白い肌の頬に手の平を滑らし、キスの予感に柔は眼を閉じて松田の顔が近づいたとき

「思春期真っ盛りの高校生の前でやめろよ」

「いい年して恥ずかしい」と呆れたような男の子の声に2人の顔が離れて、2人同時に声のした方を見れば、ピカピカの制服に身を包んだ男子高生

「親父、それ以上は家でやってくれない?」
「…そうするか」

「お前の入学式も見たしな」と松田は体を起こして立ち上がって息子の前に立ち、柔似の瞳に映る自分の現在の顔に笑う。もしあのとき、高校生の柔に松田が好きだと告げたら目の前の息子はいなかったかもしれない。そう思うと怖いようなおかしいような。

「お前はどうする?」
「ばあちゃんのところ行ってくる。帰りは遅くなるから」

「気がきく息子で助かるよ」

息子の髪をぐしゃぐしゃと撫でまわし、「せっかく一緒に美味しいもの食べに行こうと思っていたのに」と渋る柔の腰に腕を回す。あのときは柔を奪い去ることなんてできなかったけど、今の松田にはそれができた。

(羨ましがるんだろうな)

驚いて目を丸くしている昔の自分を想像して笑う。あの頃の自分には想像できなかった今の自分。でも、心震えるほど柔が愛おしいのは変わらない。

「耕作さん、人が見てる」
「まあ、良いんじゃない?」

有名人の柔の姿にざわめく周囲を縫いながら歩けば、腕の中の柔はうつむきながら歩く。目立たない様に小さくなって歩くクセはあの頃のままで。

「もう、早く帰りましょう」
「お、積極的ですね」

「バカ///!」

駐輪場に停めたバイクに駆け寄り、ミラーに掛けておいた松田の黒いヘルメットを柔が投げつける。そして自分の赤いヘルメットを持ち上げて、柔は慣れた仕草で装着する。

「それじゃあ行きますか」
「実は…この瞬間が大好きなんだよね」

「え?」


「耕作さんに奪い去られる感じなんだよね」
「…同じ家に住んでいてどこに奪い去るんだか」

「いいの」と笑って柔が松田の腰に腕を回す。高校生の頃と変わらない温もりが背中から伝わる。

今もあの日のまま

好きで好きで
自分の出来うる限りの力で守ってあげたくて

抱きしめたくて
抱きしめて欲しくて

「あの頃に戻りたいなんて微塵も思わないね」

抱きしめあいたい
決して戻ることのない今の瞬間を大切にして

END

過去の君 -time is gone- / YAWARA!

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