シティーハンターの二次小説で、奥多摩後のリョウ×香です。
もう恋人ですが、「I LOVE YOU」的な決定だがないので恋人同士一歩前とします。
獠の性格を知っている以上、香は決定打は無くてもいいかと思いましたが、やはりそこはきちんと。
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side 香
「似合うから」とデザイナーの友人が作ってくれたスーツとスーツに合わせて選んでもらったヒールの高い華奢な靴。
滅多にしない化粧の香りに混じるのは、背伸びする行為の背中を押すために少しだけふりかけた香水、香なりの精一杯のお洒落だった。
いつもより高い位置に頭があるから、いつもより遠い足元から聞こえるヒールの音はいつも通り他人の足音に聴こえた。
「香ちゃん、珍しい恰好をしているね」
馴染みの情報屋のおじさんたちの言葉に曖昧な笑顔を返しながら、ヒールを鳴らして馴染みの界隈を抜けてここにたどり着いた。
振り返ればいくつものビルの向こうに馴染み深い新宿の摩天楼が見えた。
少しの休憩。
数メートル先にある木の扉で封された洒落た外装の店に足を踏み入れる。
古いというよりもクラシカルな雰囲気で、カランッと味のあるカウベルの音が出迎えてくれた。
音はセピア色の店の奥に溶け込んでいく。
「いらっしゃいませ…おひとり、ですか?」
カウンターから聴こえた声は意味深な一拍をおいていた。
頷く香を笑顔でカウンターの前のスツールに招く。
女としては背の高い香だったが、それでもこのスツールの高さには少しまごついてしまった
デモ『アイツ』ナラ
自然と浮かんだ男の顔を振り払い、注文を待つマスターにジン・トニックを注文する。
酒の種類なんて知らないから、いつだったか教えてもらったただ1つのお酒を注文した。
デモ『アノ女性』ナラバ
彼女はきっと自分に似合うお酒を知っていて、こんなお店でも戸惑うことなく注文できるに違いない。
そんな考えを木のカウンターが優しくたたくグラスの音が散らしてくれたから、感謝を笑顔に込めてグラスを手に取ろうとして
「…ぁ」
小さく漏れた声に 「どうかなさいましたか?」と優しく声をかけられたが、香は何でもないと笑ってごまかしてグラスに指を絡める。
指先が結露で濡れるとグラスが涙を静かに流す。
何も塗っていない無防備なツメが琥珀色の照明に照らされる。
いつもと違う自分になれるように完璧に飾り立てたつもりだったのに、残っていた素の部分が、いつもの自分が、やけに野暮ったく見えた。
アノ女性のキレイに飾りたてた一部の隙もないツメ
あのツメが食い込んでいたのは見慣れたアイツのジャケット
いつもの違う自分になって、いつもの街から離れれば、この記憶を振り払えると思ったのに、記憶はしっかりと付いてきてしまった。
払拭できない新し過ぎる記憶 新宿から離れたら忘れられると思ったのに記憶はしっかりと付いてきて
「ばか」
何に対する想いか解からぬまま呟けば、グラスの中の氷がカラリと応えてくれた。
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