はるか様からのリクエスト、YAWARA!の二次小説で(松田×柔)。
イメージソングはZARDの「Today is another day」です。
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「どうして此処にいるんですか?」
遠距離恋愛の相手である松田に会えて、うれしいはずなのに柔の口から出たのはこんな台詞。
言って直ぐに「嗚呼、可愛くない」と柔は内心で一人反省会。
しかし、柔にも言い分があった。
いま2人がいるのは柔道の大会(会場の外)。
『関係者以外立入禁止』だが富士子の手引きでここにいる(富士子により周囲は人払い済み)。
柔道の大会会場に、スポーツ記者の松田がいるのはおかしくない。
しかし松田はアメリカ赴任中のはず。
いくら推している柔道のオリンピック選考会とはいえ、簡単に帰国できないはず。
さて、寂しかったのなら、いまここに松田がいることを素直に喜べばいい。
しかし「恋する乙女の心情」が複雑であることは古今東西の理である。
思いかえせば数か月前のこと。
恋人の存在が強調されるクリスマスとバレンタインに、「日本に帰って来ないの?」と柔が聞けば、松田の答えはいつも「忙しくて帰れない」だった。
「忙しい」が松田の常套句。
仕事だからと我慢した。
それなのに「柔道の試合なら帰ってこられるか?」と思ってしまう。
もちろん、これだって松田の”仕事”なのだ。
柔だって分かっているのだが、
(松田さんって、私が柔道の選手じゃなかったら絶対に見向きもしなかったわよね)
恋する女にロジカル思考はまずない。
とにかく柔道に対する嫉妬という、いわば理不尽なものに襲われ、それを松田にぶつけているのだった。
つまりこれは八つ当たりだった。
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「無理言って担当記者を代わってもらったんだ」
これでこそ松田である。
柔の揺れる乙女心にも、理不尽な八つ当たりにも気づかず、(仕事にかこつけて)柔の試合を見に来れたことを純粋に喜ぶ。
きらきらとした松田の顔は柔も好きだ。
しかし、「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔に一本背負いをきめたくなった。
「柔さんに会えたし。代わってもらって良かったよ、本当に」
無邪気ともいえる松田の発言に柔のささくれだった気持ちが落ち着く。
八つ当たりに気づいてさえもらえないのは虚しかったが、やっぱり惚れた男の嬉しそうな顔には弱い。
それに逢えたのはやっぱり嬉しい。
忙しくしていれば時間はすぐ過ぎる。
クリスマスもバレンタインも平日、仕事や稽古だってあった。
朝稽古、仕事、夕稽古を毎日繰り返す柔の1日は普通のOLより密で忙しい。
稽古のときに松田のことを考えれば滋悟朗から容赦なく投げ飛ばされるだろうし、IT時代に遅れ気味の柔が仕事中に松田のことを考えればピーッピーッと警告音の嵐である。
しかし「今日も逢えない」を繰り返し続ければ、1日だってとても長い。
街中で後ろからくる足音に『もしかして』と期待して、振り返ったら別の人だったなんてことだって1回2回の経験じゃない。
(…寂しかったんだから)
子どもじゃないのだから、24時間365日松田のことだけ考えていられる生活ではない。
松田のことを考える時間なんて1日のうちのほんのわずかな時間で、へとへとになって眠りについて、目を覚ませばまた違う1日が始まる。
松田がいたってこんな生活は変わらない。
松田にだって仕事があり、柔の様に松田だって24時間365日柔のことを考えていられるわけではない。
もし仮に、お互いがお互いを忘れても生活に一切の支障はないだろう。
起きて、ご飯を食べて、やることやって生活費を稼いで、眠る。
生命を維持する活動にお互いは必要はない。
でも柔は知っている。
柔道は柔にとって自己を形成する土台で、幼い頃から重ねてきた稽古と天性のセンスで支えてながら、柔道という1本の太い柱が柔の全てに関わっている。
その土台を唯一揺るがすのが松田だった。
ユーゴスラビアの世界選手権を思い出した柔はフルリと体を小さく震わす。
数々の試合をこなしている柔だが、初めて自分の柔道が分からなくなる、
自分の土台がぐらついて、まるで自分が消えてしまう様な恐怖を感じたのだ。
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「そう言えば、これ読んだよ。柔さんの素がひき出せててすごく良かった」
そういって松田がバッグから出したのは1冊の雑誌。
自分で話を振っておきながら、その雑誌のヨレ具合に松田はいささか恥ずかしくなった。
何度も読んだのが分かるほどページの端はよれ、柔の笑顔が映っているページは開いたままクセになっている。
柔の素が分かるページは読んでいて楽しかった。
松田自身がステキだと思っている柔のチャームポイントを他の人が知ることは、恋人として自信がつきつつある松田にとって誇らしいことでもあった。
ただ、インタビュアーが気になった。
- あいつ、口が上手いからね~ -
素の柔に近づくやつがいる。
鴨田から邦子の知人だと聞いて、それとなくどんな奴かと聞いてみれば女性だった。
同性の近しさによるものだと安堵もしたが、柔を疑った自分が恥ずかしかった。
「これ読んでさ、柔さんも頑張ってるから俺も頑張ろうって思ったんだ。そしたら書いた記事が評価されてね、未だ公表されていないけど賞もとったんだ。小さいけど賞は賞だから、編集長からご褒美って休みをくれたんだ」
不安に苛まれて雁字搦めになっても無駄だから仕事をして自分を上げよう。
そう割り切ってやった仕事が賞をとるという点に松田はやや情けなさを感じたが、せっかくの休みを不意にしない図太さもしっかり身につけていた。
「休み?」
「そう」
「仕事で、日本に来たんじゃ?」
「柔さんに会いに日本に来たら仕事があったから。 ここなら直ぐに会えると思って、ちょうどいいから引き受けたんだ」
そういって『PRESS』と書かれたカードを振って見せる。
そして今までの柔の態度と言葉からある推測を導き出して
「もしかして、”柔道”にヤキモチ妬いた?」
「///!! 違います!ただ…相変わらず松田さんは粘着質でしつこい記者だなって、しみじみ、心底思っただけです///!!」
「……顔を真っ赤にして否定されても」
真っ赤な柔の顔を驚いた目で見ていた松田だが、じわじわと全身を侵す嬉しさにくすくすと笑う。
松田の指摘の笑い声に柔の顔が真っ赤になる。
「柔さん、俺のこと本当に好きなんだなぁ」
「違います///!!」
「だーかーら、そんなに赤い顔して否定されても説得力ないよ。かえって”好き”、”大好き”、”愛してる”って言われている気になる」
「そこまで言っていません///!!」
「そこまで…ってことは、ある程度は思ってくれてんだ」
「~~~///!!」
大事な試合前に柔の集中を邪魔してるな、と松田は内心思いながらも、顔を真っ赤にして否定する柔の姿が可愛くて笑っていると
「猪熊さん、そろそろ時間……って、何やってるの?」
「富士子さん///!」
天の助けとばかりに富士子に駆け寄った柔の背中に「頑張れ!」とエールを送った松田はスマホを取り出して
「優勝祝いだから奮発しちゃってもいいよな」
そういって柔が載っていた雑誌に出ていた『恋人たちにオススメ』というレストランの予約をした。
コメント
ありがとうございます!
その他のYAWARA作品はどうすれば読めますか?
ゆう様
こんにちは。
その他のYAWARA作品も続々と移転しますので、気長に待っていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。