らんま1/2の二次小説で、乱馬×あかね(乱あ)です。
原作終了から少し進んで大学生、恋人同士の関係です。
旧タイトルは「甘仕草」でしたが、こちらの方が良いとブログ移転に伴い改題しました。
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「男の子なんだから独り暮らしを経験してみなさい」というのどかの言葉により、大学進学を気に一人暮らしを始めた乱馬の部屋の前。
拳に力を込めたら一発で壊れるんじゃないかという色あせた古い扉をあかねが叩くと、少しくぐもった乱馬の声が届く。
「悪い、いま手が離せないから勝手に入れよ」
勝手知ったる我が家ほどではないが、この約二年間で乱馬がひとりで暮らす部屋に慣れたため躊躇なく勝手に入った。
ふわりと自宅にあった、乱馬が父親と暮らしていた部屋に似て、少し違うニオイがした。
「…あれ?」
入ってきた扉を閉めて、後ろ手でカギをかけようとしたら固くて動かない。
「あ、それ壊れてるんだ」
不器用の自覚があるので壊さないようしつつも、ガチャガチャと格闘するあかねとは対照的にあっけらかんとしている乱馬。
「え、大丈夫なの?鍵開けっ放しで出かけるの?」
「出かけるときはカギかけてっけどよ、強盗とか入ってきても俺が勝つし」
玄関扉の外側に自分で付けた南京錠をぷらぷらと揺らしながら笑う乱馬に「そうだね」とあかねも笑う。
まあ、築30年を超える古い物件。
1Kのアパート。
男子学生の独り暮らし。
強盗だって入る家を選ぶだろう。
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「これ、おばさまから預かった書類。あとこれも…冷蔵庫空きある?」
「あかねが来るってんなら空けとくに決まってんだろ」
「私はフードデリバーじゃないんだけど」
あかねは笑いながらいくつかのタッパーを出す。
これは独り暮らしじゃあ栄養が偏ると言ってのどかとかすみが作ったもの。
好物の入ったタッパー1つ1つに歓声を上げながら、乱馬は1つ1つ丁寧に冷蔵庫に入れていく。
「乱馬って結構几帳面だよね」
「あのスチャラカ親父と10年以上一緒だったんだぜ?反面教師でしかないだろうよ」
「そういっても、あんたの性格っておじさまに似てるわよ?」
「どこが!?」
心底嫌そうな顔。
無意識なのか咄嗟に両手が頭に行ったところを見ると、一番の心配は頭髪かとあかねは内心笑う。
美人の母似の乱馬とはいえ、その部分の未来はまだわからず、どうやら不安が拭えないようだった。
「お調子者で優柔不断ってこと。扉の外にまだ猫飯店のお皿があったわよ」
「……浮気はしてねえぞ?」
「そこは信じてる」
信じていても、面白くないものは面白くない。
実家暮らしのあかねと、独り暮らしの乱馬。
いままでよりも過ごす時間が減って、お互いの知らない時間はどうしても増える。
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「あっかねちゃーん」
一方でやましいことが一切ない乱馬は余裕だった。
付き合いが長くなり、可愛い許嫁との関係もそれなりに進めば、あかねのヤキモチなど”可愛い”の要素しかない。
クスクス笑うのを止められないまま、そっぽ向いたあかねの顔を覗き込む。
背中を丸めて、それでも足りないと思い、しゃがみこんで下からあかねの顔を覗き込む。
「…ずるい」
「ん~?」
いつもは自分より高い位置にある乱馬の顔が下りてきて、『ほら、聞いてやっから』って声が聴こえるみたいに、全てを受け入れてくれるように優しい目でのぞきこむ乱馬にあかねは弱かった。
「ずるい、ずるい、ずるい///!!」
勝ち目が無くなったあかねの悪あがき。
乱馬はハハハッと楽しそうに笑い、真っ赤になったあかねの顔をその大きな両手で包んで軽くキスして離れる。
「それじゃあ行こうぜ」
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今日は高校1年のときのクラス会だった。
天道家からの道筋に乱馬のアパートがあったので、のどかからの頼まれごともあり一緒に行くことになっていた。
トレードマークのおさげは変わらない。
愛用している中華服も変わらない。
それなのに
(この人は本当に”あの”乱馬なのだろうか…)
乱馬の唇が触れた自分の唇を意識しながら、あかねは隣を歩く乱馬を見上げた。
今はあかねの頭よりかなり上にある乱馬の顔。
その横顔からはもう少年の面影が拭いとられ、代わりに精悍な男性がちらついていた。
高校3年生の夏、「呪泉郷の泉が元に戻った」と案内人の娘・プラムからの連絡を受け取った乱馬は一人中国に旅立った。
「早乙女君、君は行かなくていいの?」という友人・早雲の言葉をパンダ姿で聴こえない振りをする父・玄馬を放って。
そして夏が終わる頃に乱馬は帰ってきた。
水を被っても男のままの乱馬。
喜んだり、おもしろがったり、多くの人に水をかけられ怒る乱馬を見て、もうあの“らんま”に逢えないのを、あかねはちょっとさみしく思ったりした。
その後すぐ、乱馬は三人娘にあかね以外を選ぶことはないことをきっぱりと告げた。
とうとう宣言してくれたことに喜びつつも、
「よく言えたわね」
今までの優柔不断を責めるようにあかねが本音を溢せば、
「一人で旅してたら色々考えちまってよ。それに……呪泉洞に行ってみたら”あのとき”のこと、思い出した」
そう乱馬はポツリと告げた。
ちなみに三人娘と言えばはっきりと振られた形になったので乱馬を諦め………たわけがなかったが、前ほどの勢いは明らかに失っていた。
そもそもこの三人、小太刀は若干怪しいが、勘が鈍いわけではない。
乱馬があかねを好きであろうことを大体察知していた。
それでも乱馬の天邪鬼で優柔不断な性格を読んで押しまくればいずれ落とせるかもしれないと思っていたし、そこは今でも思っている。
なびきに言わせるともう趣味の域のようなもので、シャンプーと右京はそれぞれムースと小夏といういわば”キープ”がいるので恋愛ゲームを楽しむ余裕もあるのだった。
「あの店だっけ?」
乱馬の声にあかねはハッとし、乱馬の指差す方を見て頷く。
二十歳そこそこの学生たちの同窓会には丁度いい居酒屋チェーン店の看板が光っていた。
「酒、かあ……みんな飲むよなぁ」
「乱馬、お酒苦手だもんね。大介くんがお酒を飲めるようになったらやるって宣言してたクラス会だからみんな飲むと思うけど、飲まない子だっているよ」
「……あかねは?」
「んー、乱馬がいるから飲もうかな。酔っぱらったら連れて帰ってね」
よろしくね、と可愛く微笑んだあかねが、店の前にいた友人・さゆりを見つけて駆けて行くのをぽつんと佇んで乱馬は見送る。
「はぁ~~~~」
いつも通りのあかねの横顔を見ながら乱馬はため息を吐く。
お互いに昔より少しだけ素直になり、そのせいか乱馬から見るあかねの可愛さは数倍増加。
多少離れてきても、可愛い顔で可愛いことを言われれば昔のように顔が真っ赤になる。
(アイツの方が絶対にずりぃ!あんな可愛い顔で甘えるなんて反則///……ってか、連れて帰るって天道家、俺の部屋、どっちのこと言ってんだよ!)
サラリーマンや学生が最初の一杯を求めて歩く路上にうずくまり悶絶する乱馬。
これは想像に盛り上がっているだけで、頭の冷静な部分ではあかねが天道家のことを指したのは間違いない。
何しろこの二人、未だキスだけの清純なお付き合いなのである。
『3年以上許嫁してんのにばっかじゃないの?』と呆れたのは乱馬の未来の義姉。
『まあ、乱馬君も元々女の子だったし…そういう興味はとうに薄れちゃったんだろうねぇ』とまるで枯れた老人を見るような憐れむ目を向けたのは未来の義父。
『男の子らしくないわ』といってオロオロ慌てたのが実母。
(周りがゴチャゴチャうるさいから返って手が出せねえんだっつーの!)
最近の乱馬は実はこれが嫁入り前の娘に手を触れさせないという早雲の策略なのではと疑っていた。
天道家に行けば安産祈願のお守りを供える神棚に熱心に祈りをささげる早雲の姿が見れるので、乱馬の疑いは全くの杞憂だと分かるのだが。
とにかく乱馬はあかねに関しては未だ天邪鬼であるくせに、妙なナルシストな部分が邪魔して爽やかに格好よく誘いたいなんて思ったりしていた。
実際に、何度か泊まっていかないかと誘いかけようとしたものの、
名前を呼んで振り返るあかねの、自分を100%信頼した感じの純真無垢な可愛い笑顔を見せられたら『送ってく』というのが関の山だった。
とにかく乱馬はあかねが可愛くて仕方がないのである……………ということを、乱馬が頼んだ烏龍茶が実はウーロンハイだったというお約束の展開で、すっかり酔っ払った乱馬が愚痴りながら惚気たことであかねはもちろん、元クラスメイト全員が知ることになった。
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「ちょっと乱馬、しっかり歩いてってば!」
「ん~あかね、あっかね、あっかねちゃーん」
同窓会が終わり、二次会に行く人たちから「来るな」と追い出されたあかねは酔っ払って千鳥足の乱馬をアパートに送り届けた。
その後の二人がどうなったのか?
それは神のみぞ知るところである……と思わせ振りに締めたいが、鍵の壊れた部屋で照れ屋のあかねが了承するわけはない。
後日、
「鍵が直ったからって誘うのか?がっつき過ぎじゃねえか?」
悶々とする乱馬を、多くの知人が大学キャンパスで見かけたそうな。
END
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