らんま1/2の二次小説です。
原作終了後の高校卒業間近、乱馬は中国で完全な男に戻っている設定です。乱馬とあかねの関係は両片思いの恋人未満です。
集英社での連載が中心の北条司先生原作『シティーハンター』のリョウ香の要素も入っています(『シティーハンター』を知らなくても読めます)。
どちらも『短い髪の女』が好きだなと妄想していたら出来上がりました。
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初めての駅で降りる。
滅多に電車など使わない上に普段来ない街の空気は異様に落ち着かないが、隣を歩くあかねは「久しぶり」と言っているから初めてではないようだ。
その男を目に留めたのは偶然だったが、一度目にするとたびたび俺の視界に入った。
あかねの買い物は長くなると察した俺は、まず自分の用事をすませることにした。
高校を卒業したら念願の一人暮らしを始めるが、軍資金は乏しいのでまずは必要最低限のものに留めておかなければいけない。
「自分の部屋のことなんだから自分で選びなさいよ」
そう言いつつもどこか楽しそうに生活用品を選ぶあかねに主導権を渡したものの、俺の用事は30分足らずで終わった。
満足げなあかねに口の端が緩むのをこらえつつ店を出たとき、一人の男に気づく。
その男は店に入る前とは違うタイプの女に声をかけていた。
色々な女に声をかけているところを見るとナンパのようだが…違和感がある。
あの男からは別に高校のクラスメイトのように『彼女欲しい』という切羽詰まったオーラはない。
その証拠に袖にされても凹む様子なく次にチャレンジしている。
男の年齢は30代…20代ってことはないだろう。
何かスポーツをやっているのか、体の線はしっかりしている。
格闘技をやっているからだろう、俺の目は顔より体に行きやすい。
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「乱馬!お姉ちゃんに頼まれた人気のスイーツ買ってくるね」
あかねの言葉にハッと視線をあかねに向けたが、あかねは俺の返事なんて別にいらなかったようでルンルンと楽しそうな足取りで長蛇の列の最後尾に向かっていた。
甘いもんは好きだから興味はあるが、並んでいるのは女ばっかりだから諦めて近くのガードレールに腰かけて待つことにしたらケバい女に話しかけられた。
「ねえ、あなた1人?」
女になったときに何度か化粧はしたことあるから慣れているはずなのに、濃い化粧のニオイに酔いそうになる。
3人娘に似た強引さで腕を組まれたから離れようとしたが、3人娘とは違うので力の入れ方に戸惑っていると
「悪いな。そいつ、あの子のツレなんだ」
俺の視界のあちこちでナンパしていた男が入ってきた。
2、3言話しただけであっさりと手を振って去っていくケバい女に俺は唖然とするしかなかった。
助けてもらったので一応礼を言えば、男は意外と人好きしそうな顔でにっと笑う。
ああ、こういうのをちょい悪オヤジっていうのか。
こういう雰囲気の男には遭ったことがないから妙に新鮮な気分だった。
「気にすんなって。しっかしお前もあの彼女もそんな容姿(ナリ)してっからナンパには気を付けろよ?新宿は初めてか?」
「俺は。ツレは何度か来たことがあるらしいけど……で、何でここに居座ってんだよ」
俺の隣に座ってニヤニヤ笑う男に思わずつっこむ。
別に男からなんかイヤなものを感じるわけじゃあないが、間合いに入られたままで気持ちが悪かった。
だから心底嫌そうに言ったのに
「お前がナンパに困らないようにガードしてやってんの」
「ケッ、要らねえよ」
「そういう台詞はさっきの姐さんを自分であしらってから言うんだな」
助けてもらった情けなさにぐうの音がでない。
居心地が悪くて俺は一歩男から遠ざかり、パーソナルスペースを自ら拡げるしかなかった。
その間も男は大きな背中を震わせて笑っていやがる。
「何笑ってんだよ、おっさん」
「二十歳の男を捕まえて何言ってんだ、クソガキ」
いやいや、二十歳(はたち)はあり得ねえだろ。
俺、18だぞ?
2つ違い……いやいや、少なく見積もっても10歳は上だ。
オヤジたちやジジイたちとは違う大人な雰囲気がある。
ん? あの人たちしか「大人の男」の例がない俺って不孝だな。
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自称二十歳のオッサンはクククッと笑ってジャケットの内ポケットから煙草の箱を取り出し、中の1本を咥える。
様になる仕草に少しだけドキリとして、それがまた悔しくて脇にあった看板を俺は指さす。
「路上喫煙は禁止だぜ?」
「男は酒と煙草と女の味を楽しんで一人前だってのに、今時の若いもんには同情しちまうね…ここで経験しとくか?」
俺は煙草は吸わない。
あのニオイが気持ち悪い……というのに、この男はあっという間に間合いを詰めて、俺の口に煙草を押しつける。
「勝手に…って、チョコレート?」
カッとなった頭にふわんっと漂う慣れ親しんだチョコレートの香り。
「未成年に強要なんてしねーよ」、という男を睨みながら舌で唇を舐めれば、チョコレートの匂いと味がした。
「相棒に罰金なんて余計な出費はするなって言われてんだ」
「へえ、常識あるいい相棒じゃん」
「俺の相棒は今も昔も口うるさくて」
そういう男のどこか哀しみを帯びた優しい表情。
その相棒ってやつを本当に大事にしてんだと思った瞬間、隣の男の気配がガラリと変わった。
目線だけ動かして男の視線を負えば、100メートル離れたところにショートカットの美人がいた。
女性にしては高い身長。
あかねたち姉妹の読む雑誌の中のモデルのように飾り立てた細い針金のよう女ではない。
大介やひろしの読む男向け雑誌の中のアイドルのようにセクシーダイナマイトな女でもない。
透き通った水のようにクリアで飾りっ気のない女の人だった。
「あの人、おっさんの恋人?」
俺の言葉に隣の男は”良く分かったな”と言葉ではなく目で伝えてくる。
そこまで空気が変われば寝ててもわかると応えれば、「へえ…今どきのガキにしては良い勘してるでないの」と茶化された。
ガキ扱いされて気分は良くない。
「ガキじゃねえ」
「春から大学生で、それを機に独り暮らしを始める、ってとこか?あの子と同棲…ってこたぁねえな」
俺のすきを突いた男は俺の紙袋の口に指を入れ、くいっと口を広げて中身をチェックされる。
見える範囲だと、まな板、包丁、鍋、フライパンが1個ずつ。
明らかに男の一人暮らし用品。
「何で分かる」
それでも、全否定されると反論したくなるのが俺の中の天邪鬼。
「そりゃ分かる。どう見てもあの子未開通だもんな……未開通、良い響き…っ」
ブチッと俺の脳内で何かが切れる音がした瞬間、俺はズボンの後ろポケットに入れてあった小銭の中から1円玉を瞬時に探り出して指ではじく。
ヒュンッと風を切って飛んだ1円玉は、男のくわえていたシガレットチョコの先端を切り落とした。
「危ねえな!当たったらどうすんだ」
「そんな目であいつを見るんじゃねえよ」
この男の脳内にあかねが映るのが赦せなくて思ったよりも低い声が出たが、男はそれに怯むどころかくわっと目をむいて
「オマエな!女をエロい目で見なくなったら男として終わってんぞ?お前、あの子に限らずイイ女を見て触りたいとかヤリたいとか思わねえのか!?」
驚いた。
男の赤裸々な台詞ではなく、
「いたいけな青少年に何をほざいているか!!」
男の背後で、男が恋人だと言った女が、あかね張りの怪力を見せたことに。
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「おほほほほ、この男が下品なことをいってごめんなさいね」
一発で男を伸した美女に俺は「はあ」と曖昧な返事しかできなかったが、陽光がその淡い短い髪の毛の上でキラッと光った。
思わずあかねもいつかこんな風な大人の女になるのかななんて思ってしまった。
最近あかねはキレイになった。
それに気づいたのはほんの数か月前、あかねに「やりたいことが決まった」と言われたときだった。
将来を決めたその瞳はあかねをグッと大人っぽくして、いつも健康的だと思っていたその白い肌に大人の艶っぽさが加わって色気を感じた。
その健康的な色気というものが、今この目の前にいる美人と重なった。
そういや俺、誰かを美人って思うのって初めてだ。
あかねは可愛い系だし、女になった俺もどちらかと言えば可愛い系だったし。
「しっかしこの男が男の子といるなんて不思議…実はあなた、女の子だったりするの?」
美人の言葉に俺はドキッとする。
思わず首筋にお袋の持つ研ぎ澄まされた刃があたるのを想像してしまった。
いやいや、もうあれはない。
何しろ俺はこの前の夏休みに中国に行って体質改善したのだ。
「完璧に…男だ、ぞ」
男だと力強く主張したかったが、美人に見つめられてドギマギしてしまった。
ああ、格好悪い。
なんて自己嫌悪した瞬間に嫌な予感がしてあかねの方を見ると、その近くでひそひそ話し合う2人組の男が目に入る。
あかねの方をチラチラ見てはニヤけている。
俺がその場を離れようとしたとき、伸されていた男が美人の名前を呼んで
「あそこにいるスッゴイ美少女。 あの子こいつので、1人でいるとナンパされたりしそうなんで一緒にいてやって」
「あのショートカットの子よね、了解」
心配しないで、と美人は俺にニコッと笑ってあかねのところに行く。
ああいうところ、おせっかいで気の優しいところがあかねに似てる。
親指を1本立てて勇ましく行列の方に向かうところも。
しかし…
「オッサン、ナンパの確率を上げただけじゃねえか?」
「ん? あの程度の男たちならアイツ1人であしらえるし~」
…そんなに強いのか、あの美人。
まじまじと俺が美人を見ていると、行列であかねと挨拶を終えた美人が男の方を見て看板を指さし”あんたも食べる?”と合図を送っている。
隣の男は大きく×を作ってこたえるから、2人の慣れたやりとりに
「おっさんたちって夫婦なのか?」
と思わず聞いてしまう。
「いや、夫婦じゃねえけど一緒に住んでる、同棲中ってやつ♡ 羨ましいだろ?」
「別に。俺も一緒に住んでるし…といっても居候。俺ら一家3人でアイツんちに住んでる」
「…そりゃおちおち自分で処理もできねえな」
学校の男共なら『あの天道あかねと1つ屋根の下』ってシチュエーションに騒ぎうらやましがるって言うのに、男は歳をとるとこうも変わるのか。
俺がいま踏んでいるステップをとっくに経験しているからか?
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「いたいけな青少年に真昼間っから猥談をもちかけんなよ、オッサン」
「で、ソッチの処理はできてんの?」
この手のことを話すのは慣れていないけど、放っておいてもこのネタは続くと感じた俺は話にのることにした。
「まあ……なんとか」
「ふうん……まあ、お前なら相手に不足しなさそうだもんな」
自慢じゃないが、あの3人娘は俺がその気になれば相手してくれるだろう。
まあ、代償もでかいだろうが。
ひろしたちだって「あんだけ迫られて何で手を出さないんだ」って異星人を見るような目で俺を見ていることがある。
俺だって興味がないわけじゃないが、あかね以外に触れたいと思うことがない。
何だよこれ、呪い?
高校の男共は「誰でも良いから経験したい」って感じなのに、何だって俺はあかねしかダメなんだ?
「ああ、あ~んなこと♡や、こ~んなこと♡は『好きな女とだけ派』か」
「…わりいかよ」
俺は考えていることが完全に顔に出るタイプ。
この手の男に下手なごまかしは余計かっこ悪いと思ってしぶしぶ認めれば、「べっつにぃ」と言いつつ口を震わせ笑うのを堪える男。
ああ、もう!
大笑いされた方がマジでまし!
「いやあ、青春だねぇ」
「バカにしてんなよ、オッサン! あんたこそどうなんだよ?」
「俺? まあ、お前の想像なんて軽く超える経験を色々な女性としてきましたよっと。まあ、俺の場合は特殊な環境にあったしな」
「特殊な環境……ってのは俺も負けてねえと思うんだけどなぁ」
水を被れば女になるなんて冗談みたいな呪いにかかっていた奴は世界広しといえど珍しい存在だろう。
おまけに父親はパンダ、レアとしか言いようがない。
男の言う”特殊な環境”とは俺のそれとは違うようだけど、そうあっては堪らないけど、俺とちょっと似ているかもしれないと思う。
それほどまでにこの男のまとう空気は異様だ。
人ごみの中ではそれに紛れるように自分を偽っているからわからないが、こうして言葉を交わすとその異様な空気があらわになるんだ。
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「まあ、良いんじゃねえの?色んな女と何百、何千って経験したって、コレと思う女との経験しちまえば記憶からすっかり抜けちまうしな」
俺もこんな男になりたい……なんて気持ちが一瞬で吹き飛ぶ。
何百とか何千とか何だよ、マジかよ!
異常だろ!?
うらやしいって思わない俺も異常だけど!
でも、俺も早く…
「あ、俺も結構純情じゃん?」
「純情って意味を勘違いしてるぜ、絶対」
こんな男が純情だったら俺って何?
天然記念物?ギネス記録?
自分で突っ込んで思わずため息を吐く…と、丁度あかねが美人と店内に足を踏み入れるところ。
あと少しでこの時間は終わる。
そういえば次のお使い先が分からないってあかねが言っていたな。
「そういや、この店がどこにあるのか知ってるか?」
「んあ? ああ、あのビルの3階。 ここ、ランジェリーショップだけどDT君が大丈夫か?」
「ガキだからってバカにしてんなよ!下着どころか生だって見慣れてるわ!」
「お前…そこまででDTって逆にすげえな」
なぜなら見慣れているのは俺の乳!
「おうよ!」と威勢よく応えて逆に凹む。
何だよ、俺のって…どんだけアブノーマルなわけ?
……まあ、あかねのも見たことがないわけではないけど
「……本当に何でそこまで行ってんのに未だなんかな」
「お前が素直にじゃないからじゃねえ?」
やっぱりか。
身に覚えはありまくり。
「たまには素直になればぁ?素直になっちまえば今までの苦労は何ってくらいトントン拍子にいくぜ?脱DTも直ぐだな」
「……マジ?」
「マジマジ」
…マジか。
一人暮らしになったらもう少し素直になってみようか。
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「今日の乱馬、なにか変よ?」
大学2年の冬、ようやく俺は素直になってあかねと一線を越えた。
それ以来異常なほど超順調な俺たち。
今までの騒ぎはなんだったのかってくらい、順調に恋人のステップを踏んでいる。
紺色のシーツに未だ火照って薄桃色に染まる白い体を横たえて、俺を蕩けた瞳で睨むあかねは目の毒でしかない。
毒に侵されて次に挑んでも良かったが、いつか名前も覚えていない場所であったあの男の、予言めいた言葉が脳内にエコーしているのでその気分は萎えた。
「べっつに。シャワー浴びて飯でも食いに行くか?」
うん、と笑うあかねからは甘くじわりと浸食してくる妖し気な雰囲気は消える。
残るのは、いつもの陽の光のもとでみる可愛い笑顔だけ。
「いつものファミレス、苺フェアやってるの。半分ずつ分けて食べない?」
「お前この時間だってのによく食うよな」
「運動しているから大丈夫」
「まあ…確かによーーーく運動したよなぁ」
乱れたシーツで体を隠されていたあかねの胸元をグイッと引っ張れば、白くきめ細かい肌に無数に咲かせた赤い花。
「そっちじゃない///」
「苺なら俺はこっちが良いけどな」
あかねの鉄拳が頭に落ちてくるが、予想はついていたのでひらりと避けて、『隙あり』とわずかに腫れていつもより紅い唇にキスをする。
にっと笑う俺に帰ってくるには赤く染めた目じりでのひと睨み。
ああ、グッとくる……こんな甘いマジライを覚えたのはいつだったか。
「……バカ」
俺の桃色の想い出に、あかねの可愛い悪態が新しい1ページを加えてくれる。
ああ、もうかなり脳内あかねで占められているのに。
あの3人娘だってそれなりにインパクトもあったはずだが、記憶の彼方へと追いやられつつある。
「何考えてるの?」
ピリッと嫉妬の効いたあかねの声が俺の物思いを吹き飛ばす。
誰のことも思い出させないほど俺を溺れさせている無自覚な女は、赤く染まった眦で俺を睨む。
ゾクゾクゾクッと粟立つ俺の素直な背筋、それなのに口は天邪鬼。
「追加でもつ焼き定食も食おうかな。スタミナつけないとな、お前のためにも」
俺の言葉にあかねは一瞬キョトンとしたあと、顔を真っ赤にして「バカァ」と一発握りこぶし……いや、照れ隠しなら平手にしろって。
左からみたらムーミンになった顔を抑えながら、ぷりぷりと怒りながら小さなユニットバスに向かったあかねを追いかけた。
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