シティーハンターの二次小説でリョウ×香(奥多摩後の恋人同士)です。
サンデーでの連載が中心の高橋留美子先生原作『らんま1/2』の乱あ要素も入っています(『らんま1/2』を知らなくても読めます)。
どちらも『短い髪の女』が好きだなと妄想していたら出来上がりました。
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その男が視界に入ったのは偶然で、一目見た瞬間に『変わった雰囲気のある男』だと思った。
そもそも俺の視界に『男』が入ってきたことが珍しい。
何しろ俺は自他共に認める女好き。
男を1秒見るくらいなら、その1秒を足して2秒女を見たい。
この性格はすったもんだの挙句ようやく香と良い関係になった今も全く変わらない。
男の年齢は20歳になるか、ならないかというところ。
そいつが視線を送っているツレらしき美少女が俺のレーダーに反応しなかったところを見ると恐らく高校生。
多国籍かつジェンダーレスな新宿で男の三つ編みなんて珍しくもないから、あの男の何が俺の興味に引っかかったか解らないが、俺は趣味のナンパの手を止めてその男を見ていて苦笑した。
「悪いな。そいつ、あの子のツレなんだ」
「僚ちゃん! なーんだ、残念。それじゃ、またお店に来てねん」
男の前を通りかかった顔見知りのホステスが逆ナンを始め、組まれた腕と押し付けられた豊満な胸に男が見るからに狼狽える様子に助け船をだす。
ちなみにこの男のためじゃない。
この男に向けて可愛い笑顔を浮かべていた美少女のため。将来の美女を悲しませるのは俺の趣味じゃない。
その美少女は少し離れたところで、最近人気があると香が言っていた何とかって菓子の行列に並んでいる。
「ありがとう……ございます」
「気にすんなって。しっかしお前もあの彼女もそんな容姿(ナリ)してっからナンパには気を付けろよ?新宿は初めてか?」
「俺は。アイツは何度か来たことがあるらしいけど……で、何でここに居座ってんだよ」
「またお前がお姐さんたちにナンパされたら可哀想だからガードしてやってんの。感謝しろよ、俺は男のガードなんて普段はやらないんだからな」
「ケッ、要らねえよ」
「そういう台詞はさっきの姐さんを自分であしらってから言うんだな」
ぐうの音も出ない男の反応に素直なガキだと俺は内心笑う。
こうも素直なガキは珍しい。
生意気そうな素振は年相応にあるが、世間ずれしていない、いうなりゃ純情ボーイって感じだ。
さっきのホステスの猛勢にドギマギしていた男の様子を思い出すと笑える。
「何笑ってんだよ、おっさん」
「二十歳の男を捕まえて何言ってんだ、クソガキ」
クククッと笑って俺はポケットから煙草の箱を取り出し、中の1本を咥える。
「路上喫煙は禁止だぜ?」
「酒と煙草と女の味を楽しんで一人前だってのに今時の若いもんには同情しちまうね……1本いっておくか?」
「要らねえよ、って勝手に………チョコレート?」
「相棒に罰金なんて余計な出費はするなって言われてんだ」
「へえ、常識あるいい相棒じゃん」
「俺の相棒は今も昔も口うるさくて」
どうやらこの男は甘党らしい。
パチンコの景品でもらったシガレットチョコをあっという間に食べ終えたとき、ふと香の気配を感じて周囲を見渡すと100メートルほど離れたところに香が立っていた。
それを視界に納めた瞬間
「あの人、おっさんの恋人?」
隣の男の言葉に俺は驚く。
”良く分かったな”と俺が言葉ではなく目で伝えれば
「分かるよ。おっさんの雰囲気が変わったから」
「へえ…今どきのガキにしては良い勘してるでないの」
言葉では茶化したものの男の感覚に俺は驚いた。
自慢じゃないが裏の世界で仕事をするようになって以来感情を顔に表すことは滅多にない。
何かを見るときだって必要以上に視線の先を読まれないのがクセになっている。
「ガキじゃねえ」
「ガキだろ。見たところ今度の春に大学生。それを機に独り暮らしを始めるってとこか?あの子と同棲……ってこたぁねえな」
男が持っていた大きな紙袋の中を覗けば、どう見ても男の一人暮らしに必要なものしか入っていない。
嘆かわしい…いつあの子が泊まりに来ても良いように女の子に必要なものも買っておけと助言したい。
「何で分かる」
「そりゃ分かる。どう見てもあの子未開通だもんな……未開通、良い響き…っ」
香との初めての夜を思い出して柄にもなくジンッとしていたら、ヒュンッと風を切る音がして思わず頭を後ろにそらす。
ポトリと小さな音がして俺がくわえていたシガレットチョコの先端が地面に落ちる。
その先端をぶった切ったのは1円玉、飛んできたのはこの男の方向。
「危ねえな!当たったらどうすんだ」
「当てるつもりだったから。そんな目であいつを見るんじゃねえよ」
「オマエな!女をエロい目で見なくなったら男として終わってんぞ?お前、あの子に限らずイイ女を見て触りたいとかヤリたいとか思わねえのか!?」
「いたいけな青少年に何をほざいているか!!」
「おほほほほ、この男が下品なことをいってごめんなさいね」
香の1トンハンマーの下から這い出ると、香と、香に呆けた目を向ける男がいた。
頬が薄ら赤いところをみると香に軽く逆上せているようだ。
そりゃあ香はイイ女だ。
何と言っても俺が手塩にかけて、今までの生涯で培ったノウハウを活かして育て上げているといっても過言ではない。
あんな可愛いツレがいるとはいえ、今の香の醸し出す色気にガキが呆けるのも無理はない。
「しっかしこの男が男の子といるなんて不思議…実はあなた、女の子だったりするの?」
何を言っているんだ、この女は。
確かに俺が男と時間を潰すなんてことは珍しい…滅多にない……今までにないことだが、どう見てもこれは男だ。
確かに可愛い顔をしているが男だ。
「……完璧に男だ」
「そりゃそうよね」とタハハと笑う香に俺は心底呆れつつ、ちらりと視界の端に入った男のツレの美少女に近づく男の影に気づく。
隣の男もそれに気づいたのかピリッと気をはるのが分かった。
目の前の香から気を離せるなんて相当あの美少女に惚れてんのね、このガキ。
「香チャン、あそこにいるスッゴイ美少女が見える?あの子1人でいるとナンパされたりしそうなんで一緒にいてあげてくんない?」
「あのショートカットの子よね、了解」
おせっかいで気の優しい香は親指を1本立てて勇ましく行列の方に向かう。
「オッサン、ナンパの確率を上げただけじゃねえか?」
「ん?軽い兄ちゃんたちならアイツ1人であしらえるし、この新宿でアイツに変な気を起こす奴はいねえよ」
俺の庭である新宿で香に対してバカな真似をする奴はいない。
あちこちに俺の情報屋がいるし、それの何十倍もの数の香の親衛隊がセ〇ムよりも厳重に香を見守っている。
行列で美少女と挨拶を終えた香が俺の方を見て看板を指さし”あんたも食べる?”と合図を送るから、大きく×を作って返事をした。
そんな香と俺のやり取りを見ていたガキは感心したような目で
「おっさんたちって夫婦なのか?」
「いや、一緒に住んじゃいるが夫婦じゃねえよ。まあ、同棲中ってやつか、羨ましいだろ?」
「別に、俺も一緒に住んでるし……といっても居候だけど、俺ら一家3人でアイツんちに」
「…そりゃおちおち自分で処理もできねえな」
「いたいけな青少年に真昼間っから猥談をもちかけんなよ、オッサン」
「で、ソッチの処理はできてんの?」
「まあ……なんとか」
「ふうん……まあ、お前さんなら相手に不足しなさそうだもんな」
ガキの経験なんて聞いても楽しいことじゃねえが、俺の言葉にぷいっと横を見る男の頬が羞恥で赤くなっているのに気付いて俄然興味がわく。
「もしかしてお前さん、そういうことは好きな奴とだけとか?」
「…わりいかよ」
「べっつにぃ」と言いつつも俺の口元の緩みが止まらない。
マジでいるんだ、こういう奴。
香が好きなドラマの中だけの話だと思ってたわ、俺。
「いやあ、青春だねぇ」
「バカにしてんなよ、オッサン!あんたこそどうなんだよ?」
「俺?まあ、お前さんの想像なんて軽く超える経験を色々な女としてきたかな。俺の場合は、お前さんの年の頃は特殊な環境にあったしな」
「特殊な環境……ってのは俺も負けてねえと思うんだけどなぁ」
「まあ、良いんじゃねえの?色んな女と何百、何千って経験したって、コレと思う女との経験しちまえば記憶からすっかり抜けちまうしな」
俺の言っていることは誇張でも何でもない。
色々な女として、その中には一生忘れられねえなって経験もあったが、香と初めて一緒に過ごした閨の数時間がそんな記憶に上書き保存されてしまった。
「あ、俺も結構純情じゃん?」
「…純情って意味を勘違いしてるぜ、絶対」
男がため息を吐くと、丁度香が美少女と店内に足を踏み入れるところ。
あと少しでこの時間は終わる。
「そういや、この店がどこにあるのか知ってるか?」
「んあ? ああ、それならあのビルの3階。何、このランジェリーショップに行くわけ?DT君が大丈夫か?」
「ガキだからってバカにしてんなよ!下着どころか生だって見慣れてるわ!」
「……お前、そこまでの行っていてDTって逆にすげえな。俺には絶対無理」
「おうよ!……本当に何でそこまで行ってんのに未だなんかな」
「お前が素直にじゃないからじゃねえ?」
自分のことは棚の上に華麗に放り投げて言えば、男は観念したような溜息。その重みから見ると相当身に覚えありとみた。
「たまには素直になればぁ?素直になっちまえば今までの苦労は何ってくらいトントン拍子にいくぜ?脱DTも直ぐだな」
「……マジ?」
「マジマジ」
ああ、こいつマジで素直。
俺なんかすっごく良いことした気分、今夜は香にご褒美もらおうっと。
「……今日のあんた妙にしつこいんだけど?」
黒いシーツに未だ火照って薄桃色に染まる白い体を横たえて、俺を蕩けた瞳で睨む香は目の毒でしかない。
毒に侵され第2回戦を挑んでも良かったが、不意に昼間あったあの男を思い出してその気分は萎えた。
「ボクちゃん今日は男とたくさん話して疲れちゃった」
「ああ、あの子。僚も珍しく気に入っていたわよね。ツレの女の子も今どき擦れていなくて可愛かったわよ」
私たちの周りって海千山千、それはそれは世慣れて擦れた人間が多過ぎるからと香が笑い、「その筆頭はあんただけどね」と香はその長くて細い指で俺を指さす。
指の先端にある桜色の妙な艶めかしさに惹かれて、俺はぱくりと第二関節まで口に含み、さっきまでの自分たちを揶揄するように舌を絡める。
ああ、こんな甘いマジライを教えた女はいつ、誰だったか。
「……っ」
パラパラとめくった俺の桃色の過去も香の息をのむ音だけで真っ白に塗り替えられちまう。
ああ、心底惚れた女ってのは本当に厄介だ。
「誰のことを考えているの?」
ピリッと嫉妬の効いた香の声が俺の物思いを吹き飛ばす。
誰のことも思い出させないほど俺を溺れさせている無自覚な女は赤く染まった眦で俺を睨む。
ゾクゾクゾクッと粟立つ俺の素直な背筋、それなのに口は天邪鬼。
「昼間あった美少女のこと。ありゃ、すっげえ美女になるぞ」
”たまには素直になればぁ”という俺の声が聴こえる。いまココで!?ってタイミングでの台詞がリバウンドしてくるから
「お前に負けないくらいのな」
俺の言葉に香は一瞬キョトンとしたあと、ふわっと嬉しそうに微笑んで俺の首に腕を回すと、香から俺にキスして第2回戦の始まりの合図をくれた。
END
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