スキップ・ビート!の二次小説で、蓮→←キョーコです(両片思い状態)。
概要
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「これまでの人生で一度もお詣りに来たことがなかったんですか?」
ビックリと顔に描いたキョーコに蓮は笑い、どこかウキウキした様相で周囲を観察する蓮にキョーコは笑った。
「行ってみたいと思ったけれど、年末年始はいつも仕事があったし」
「でもこんな何もない時期に来ても」
「空いてていいよ。神様だって願いを叶える余裕があるんじゃない?」
それではこの男は神様が相当余裕にある時に作ったのだろうとキョーコは思いながら、手水で指先を清める。そんなキョーコに倣って蓮も手に水をかけたものの、キョーコの板についた所作にほうっと目を奪われる。
「最上さんは慣れているんだね」
「京都にいるとお詣りは日常の一部なんで。こっちに来ても未だに大事なことの前はお詣りに来るんです」
そんなキョーコにとって蓮のウキウキとした姿は、いつものクールな姿と相まって新鮮だった。
「あの箱は何?」
「あれは賽銭箱です」
「さいせん…?…それって何?」
この人は本当に日本人だろうか、と何も知らない蓮に首を傾げつつ神様に渡すお金だと説明した。キョーコの言葉に蓮はこっくりと頷くとコートのポケットから財布を出して、そんな蓮を横目にキョーコも同じようにバッグからキレイな五円玉を取り出す。
(よしっ)
両手でしっかり硬貨を握り締めてから賽銭箱に放り投げる。輝く硬貨は陽光をきらきらと反射させながら賽銭箱の奥に沈む。コン…コンコン、と木箱と硬貨が衝突する音にキョーコは子どもの頃を思い出した。
― ご縁があるようにしっかりお祈りするんよ ―
幼馴染の母親にそう言われながら渡された五円玉。大好きな幼馴染と同じものを持っていることが嬉しくて、キョーコはそれをギュッと握りしめて2人手をつないで神社に向かった。
(…ああ、思い出って悲しくなるほどキレイ)
”ゲイノージンになる”という幼馴染を思い出しながら、その時自分が幼馴染のお嫁さんになるこまで思い出してしまったとき
「…最上さん?」
冬の風では説明できない冷たい空気にキョーコは息をのむ。隣の蓮はさっきまでのウキウキ顔はどこへやら、キュラキュラした似非笑顔で怨キョが狂喜乱舞する黒いオーラを纏っていた。怨キョはこれが大好物だが、本体としては怖い以外の何物でもなく、キョーコは目に涙を浮かべてぶるぶると震えることしかできなかった。
「ごめんね…ちょっと疲れていたみたいだ」
年末忙しかったからね、と自嘲気味に笑う蓮にキョーコはホッと肩の力を抜いたが「そういえば不破君はいま全国ツアー中だよね?彼も年末年始なく忙しいね」とほほ笑む蓮の勘の良さにキョーコはヒヤリとした。
「さ、お詣りの続きをしよう」
蓮の言葉にうなずいて、両手を重ねて目をつぶる。幼い頃は”幼馴染のお嫁さん”を願っていたけれど
(…今は)
眼を開けたキョーコはちらっと横目で蓮を見て、自分を見ていた蓮と目が合って慌てて目を閉じる。『だめだよ』と怨キョたちがキョーコに囁く声が呪詛のように響く。
『恋は人を愚かにする……忘れないで、過去の苦しみと悲しみを』
『恋なんてしぎゃだめよ、私たちは誰からも愛されない…泣くのはあなたよ』
(でももう遅い)
恋に芽生えた蓮への想いは地獄まで持っていく覚悟だった。だからいまさら神様に恋の成就なんて願わない。
(敦賀さんの幸せも願えないなんてひどい女……え、ええ!?)
私が貴方の幸せを願っていないことを知ったらどう思うだろう、なんて鬱屈した想いは目の前の衝撃的な攻撃で吹っ飛んだ。
「つ、敦賀さん、待っ……ひっ!」
キョーコが大きな声で慌てて止めたものの、「ん?」とキョーコの方を向いた蓮の指は実行に移す。ヒラヒラと落ちていく数人の諭吉を見てキョーコは悲鳴を上げた。
「一体いくら放り投げているんですか!」
目視できただけで5人いたと慌てるキョーコに対し、何で慌てるのか分からないと根っからセレブな蓮は首を傾げて「手持ちで10万円…足りないなら追加するけど?」とのたまいながらコートの内ポケットに手を突っ込む蓮を慌ててキョーコは留める。
「足ります、全然足りています!」
(むしろ…神様の横っ面を札束で張り倒している感じ)
諭吉を10人飲み込んだ賽銭箱をジッと見るキョーコの耳に「絶対叶えたいから」と意志の篭もった蓮の声が届いた。恋愛のことだったりして、とキョーコが自分の想像に心を痛めていることに気づかれないように平気を演じる。
「そうですか」
「本来なら自力で叶えないといけなんだけどね…神様の力も借りたいくらい必死なんだ」
「それじゃあ私もお手伝いします」
「百人力だ、ありがとう」
嘘をついてごめんなさい、とキョーコはきれいな所作で手のひらを重ねる。何も願わず考えず、ただ瞑想した後の最後の一礼はいつも以上に頭を下げて苦痛にゆがむ表情を神様から隠した。
「おみくじ、引いて行かない?」
「良いのが出る気がしないんで…敦賀さんはどうぞ」
それじゃあ遠慮なく、と蓮は1回分の硬貨を払って念入りに引く。蓮がどんな結果を引いたのかうずうずしているキョーコに蓮はくすりと笑い、一緒に見るように仕草で見せる。
「総合運は『吉』…いいのかな?」
「吉がついているから良い方ですよ」
キョーコの言葉に蓮は気を良くした蓮は一気に紙を捲り、同時に現れた2つの結果に二人は対照的な顔をする。
蓮は恋愛運の並びに刻まれた大凶の文字。『可能性は現在皆無。一年間は実ることなし』 と書かれていて(何だ、これ!?)と思い当たる節のある具体的な占い結果に項垂れたものの隣のキラキラした笑顔が気になって
「そんなにこの結果が嬉しい?」
「はい!だって大吉ですよ?『自分の可能性を信じて突き進め、成せば成る』なんて」
「は?……あ、ああ仕事運、のこと、ね」
恋愛音痴のキョーコの目には恋愛運入らず、まさかこの恋愛運の結果に蓮が項垂れているとは思いも知らないのだろう。恋愛回路が壊死している鈍感娘と言われるだけある。
(うん、確かに大凶だ……でも、1年間って限定されているってことは未来があると思ってもいいんだよな)
「あの…本当に結ぶんですか?」
大吉なのに勿体ないですよ、と訴えるキョーコを他所に蓮は枝に触れる。その枝は沢山のおみくじを結ばれて重そうに風に揺れていた。
「最上さん、ちょっと手伝って」
おいで、と手招く狼に「何です?」と疑うことを知らない無垢な兎は歩み寄る。そんな兎を蓮は軽々と抱き上げて、「敦賀さん!?」と目を白黒させるキョーコを右腕に座らせるようにして持ち上げる。
「目いっぱい高いところに結んで」
背の高い蓮に抱え上げられキョーコの手は高い枝の先端にも余裕で届く。
「…そんなに結果では気に入らないんですか?」
良いと思うのに、とぼやきながらもキョーコは丁寧に枝を選びながら、向上心があまり高いと追いかけるのも大変なんだよなとブチブチ思いながらも器用に枝に結んだ。
END
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