甘い夜 / スキップ・ビート!

スキップ・ビート!

スキップ・ビート!の二次小説で、蓮とキョーコは恋人同士の設定です。

概要

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「ただいま」

合鍵を使って蓮が玄関扉を開けると、

鼻を直撃する甘いチョコレートの香り。

時間を作っては互いの部屋を行き来しているため、

今ではキョーコの自宅も蓮の自宅も、

2人にとって勝手知ったる我が家な状態。

いつものところにコートをかけて、

甘い香りに包まれながら廊下を進めば、

「おかえりなさい」

エプロンをつけた蓮の可愛い恋人のキョーコの笑顔に蓮の顔が甘く蕩ける。

「もう少し遅くなるんじゃ?」

「と、思ったんだけどね。予定より早く進んだんだ」

蓮はにこにこ笑いながらキョーコの隣に立ち、

見上げるキョーコの唇にチョンッと軽いキスをして、

「甘いね」

自分の唇をペロリとなめての感想にキョーコの顔も赤くなる。

「完成したの?」

「固まるのを待たないと。ラッピングは明日です」

ふうん、と冷蔵庫を開ければずらりと並ぶ大量のチョコレート。

義理や社交辞令と分かっていても業界の男共に人気な『京子のチョコ』。

そこら辺の店のものよりよほど美味しいと、

『京子のチョコ』をもらった者は自慢気に語りつつ、

貰えなかった者の羨望の眼差しを堪能する。

それがここ最近の芸能界のバレンタインデーで、実際に今日の蓮の仕事場にも京子のチョコを楽しみにする輩が数人いた。

(俺のものなのに)

ドロリと蓮の心の一部が淀み、

醜い嫉妬が顔を出す。

「もっと味見させて。せっかく早く帰ってこられたんだから」

チョコよりもよほど甘くキスをせがむ蓮を、

キョーコは笑って受け入れた。

(今日の撮影の相手って『彼女』とだよね)

バレンタイン・イブの撮影でチャンスだからと、

「今夜は絶対に蓮を誘う」と彼女は仕事仲間に自慢していた。

盗み聞きなんて不作法と分かっていても、

キョーコはその場から離れられなかった。

「今日の撮影はどうでした?」

彼女にデートに誘われなかったのかと素直に聞けなくて、

キョーコは遠回しに聞いてみる。

「いつもよりNGが多かったな。だから一応遅くなるって連絡したんだけど、まあ、必要なかったね。電話のあとはサクサクッと撮影が進んだから」

― あんだけ早く帰りたいオーラを出せば当然だ ―

ここにいない社の言葉を思い浮かべながら蓮は笑う。

何だかんだと言っても、あちらも某有名ホテルでの逢瀬に間に合えたのだから文句はないだろうというのが蓮の考えだった。

「食事は?」

「食べた。こんなことなら食べなかったけどね」

キョーコの作るご飯の方が美味しいと、

蓮は冷蔵庫に入れるために並んでいた最後のチョコたちの中から一粒つまむ。

「あ」

制止するキョーコの声は間に合わず、

チョコレートは蓮の長い指を離れて蓮の口の中に消えた。

「ひとつ足りなくなっちゃったんですけど」

「社さんのを減らせばいいでしょ」

「社さんには特にお世話になってるのに」

「じゃあ俺のを減らして」

キュラキュラな蓮の笑顔にキョーコは呆れた視線を返す。

「もう別にできてるって知ってるくせに…卑怯者、似非紳士」

キョーコの言葉に蓮はにこりと笑うと

「似非紳士らしく力加減なく思い切り愉しもうかな」

「明日も仕事なので、加減してください」

「努力はするよ」

ニッコリ笑ってキョーコを抱き上げ、

近くに来たキョーコの白い首筋に鼻先を埋める

「こんな甘い香りをしてたら努力しても無理かも」

「…明日一番に渡したかったのに!」

ふくれるキョーコの頬にキスをして

「明日の朝、直接冷蔵庫からもらうよ」

「朝起きられない前提ですか!?」

「仕事、昼からでしょ?」

「!? 何で知って…あっ!!」

―ごめん―

両手を合わせる社の姿がキョーコの頭に浮かぶ。

「チョコレートみたいに甘く融かしてあげる」

「その笑顔が怖い…んっ」

キョーコの苦情は蓮の口の中に消えた

「おはよう」

すでに服を着てコーヒーを持ってきた蓮に、

「バケモノ」と呟きキョーコは布団にもぐる

「8時には起きあがれるはずだよ?」

「その調整能力が怖いんです!!」

もうやだっ///と、

さらに布団に深くもぐるキョーコに蓮は笑い

「それじゃあ俺は仕事にいくね」

「…いってらっしゃい」

「目覚ましは8時にセットしといたから…あれだけしたし、また寝るでしょ?」

蓮の明け透けな言葉に枕が飛んで来たが、

狙いはそれてぼふんっと壁にあたり、

床に落ちるとへにゃっとつぶれた。

その姿が今のキョーコのようで、

蓮は込み上げる笑いを押さえられなかった。

「冷蔵庫。青い包み、ですから」
「…手渡しは?」

「させなくしたのは誰ですか?…でも一番最初は譲れません」

照れる可愛いキョーコに蓮は顔を緩ませて

「ありがとう。大事に食べるよ」

静かに扉を閉めて、

まだ甘い香りが漂うリビングを抜けて、

冷蔵庫の扉をあけると唯一紺色のラッピングがされたチョコレートと

「・・・」

キラキラと繊細かつ豪奢にラッピングされた、

間違いなく奏江宛と分かる煌びやかなチョコレート。

サイズも蓮より確実に大きい。

「友チョコの方が気合い入ってないか?」

数秒前の蕩けるような笑みが苦笑いになったのは

冷蔵庫だけが知る秘密のはなし。

END

甘い夜 / スキップ・ビート!

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