死がふたりを分けたら

シティーハンター

シティーハンターの二次小説で、奥多摩終了後で、獠と香は恋人同士です(リョウ香)。

万葉集「 なかなかに黙(もだ)もあらまし何すとか 相見そめけむ遂げざらまくに」 (大伴家持)をイメージしました。歌の意味は、「最後まで添い遂げることができないのだったら、かえって恋をしないで黙っていればよかった」という最愛の人を亡くして嘆き哀しむ様を綴った歌です。

最愛の人を亡くす、ということでどちらかというとAH要素が強くなってしまいました。

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鼻をくんっと動かして雨のニオイを感じた獠は、考えた後で踵に重心をかけてくるんっと回った。進行方向の先は冴羽マンション。

昔ほど気乗りがしなくなったキャバクラ回り。

情報収集のためと言い聞かせて通う日がくるとは、と自分の変化に戸惑った後は笑いだけが残った。

「もうすぐ降ってくるな」

皮膚を刺激する雨の気配を言い訳にして、獠は帰る足を速めた。

 「ただいま、っと」

いつの間にかついたクセで帰宅を告げながら玄関で靴を脱ぐ。

「…香?」

慣れた手順で夜用のトラップを仕掛けようとして、ふと家の中に香の気配がないことに気付いて手を止めた。

湿度が高く熱い部屋には香の残り香が強く残り過ぎ、香の不在に気づくのが遅れたのだ。気配を探らず嗅覚に頼り過ぎていた自分を叱咤して、これだから湿気は嫌いだなどと負けず嫌いにも獠は思った。

これから帰宅するであろう香のためにトラップは起動させずにリビングに向かうと、『お帰り』と記憶の中の香が言うから

「ただいま」

答えが無いと分かっているのに帰宅を告げる挨拶が口から出て、そんな自分に苦笑した獠はソファに腰を下ろす。

ふわりと舞った湿気混じりの埃が香の匂いを降らせ、それはまるで雨のようで、

(ジャングルを思い出す)

あの時のむせ返る緑の臭いとは似つかないのに、降り注ぐ香の匂いは獠の記憶を揺さぶった。

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