天邪鬼な腕 / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説です。 僚×香(リョウ香)で原作終了後の設定で、2人は恋人同士です。リョウには「僚」の字をあてています。

概要

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小さな物音で目を覚ました僚は長年の習性で音の気配を探り、すでに身体に馴染んだ気配に力を抜き息を吐く。パタパタとスリッパが床を叩く音。水の流れ落ちる音。

(変わったもんだ)

ゴロリとベッドの上で寝返りを打った僚はうつ伏せになり、下の階で漸く恋仲になった同居人の動き回る音を聴く。自分の領域で他人が立てる物音なんて以前は不快でしかなかったものが今では心地よくさえ感じてしまう。

密林で獣が唸る声や銃声の木霊するとは違う。人間が生活する幸せの音。

(つっても…まあ、限定してっけどなぁ)

自分の心のうちだけだからか、やけに素直に心情を吐露しながら僚は今度は仰向けになる。香との普通の生活は心地よいが、今でも依頼人が同じビルで暮らすときは落ち着かない。

『香チャン』

依頼人がいる不快感で眠れない身体はだるくって、少しでも落ち着きたくって、癒して欲しくって

『…良いだろ?』

依頼人に隠れてこっそり香に擦り寄るも

『今は仕事中なの///!  ケジメをつけなさい!』

香に叱られて、ここで強引にいこうものなら恥じらいハンマーに潰される。

(つれないねぇ)

香にとって僚は初めての恋人だというのに、リアリストな香は公私の境界線をビシッと引く。

- りょ…ぉ/// -

 仕事中でなければ閨の中で体を火照らせ、嬉しそうにキスに応えるくせに。仕事中はベッドを共にすることはおろか、キスひとつまともにさせてくれない。盗むように奪えばコンペイトウを食らこととなる。

(香チャンは真面目だからなぁ)

うーん、と思いながら寝返りを打って僚は隣に空いたスペースを侵食する。ひと1人が余裕で横になれる広さ。そこは僚が香を抱いた日からずっと香の指定席になっている場所。

ベッドの半分は僚がごろごろしてシーツに皺が寄っているが、半分は主がおらず綺麗なまま。

「俺も意外に可愛い奴だな」

たはは、と笑いながら照れ隠しで何度目か解らない寝返りを打てば

「……ん?」

スリッパの音が階段を昇り、香の気配が自分のもとに近づいてくることに気づく。

(どうしたんだ?)

僚が内心首を傾げていると寝室の扉が開き、目から入ってきた情報にクッと僚の喉の奥から笑いが漏れる。

(寝呆けてやがる)

僚の目に映ったのは眠たそうに目を擦る香の姿。足元はふらふらと覚束ないが、香は迷う事無く僚のベッドの僚が無意識に空けてあった場所の収まる。ゴソゴソといつものように横になり、モソモソといつものように僚の身体に自分を添わす。

「素直じゃないのはお互い様だな」

不器用な二人。言葉よりも行動の方がよっぽど素直、香は僚の身体の隣で安心したように眠っている。その寝顔は柔らかな笑みさえ浮かべている。

「…ったく、一緒に寝ないっつたのはお前だろ?」

僚の素直じゃない口を利き、僚の素直な身体は柔らかい香の身体に腕を回す。でもそれはお互い様。

 『風邪をひいたから今日は自分の部屋で寝るね』と言って自室に消えた香はいま僚の腕の中にいるのだから。

「まだ……熱があるな」

香の身体にまわした腕が感じる香のいつもよりも高い体温。腕の中の香を見れば香の頬は火照っている。

( …俺の所為なのかねぇ )

日課のナンパから帰れば玄関先で香が仁王立ち。ヤキモチ?、なんて一瞬思ったが 『仕事もしないで何遊んでんのよ!』とハンマーに思いっきり潰された僚は自分の甘い考えが虚しくなった。

『あんたのツケを私が払うことになったのよ!』

香の言葉にキャバ嬢姿を想像した僚は焦ったが、託児所で働くと聞いて僚は安心した。聞けば託児所の保母さんがインフルエンザにかかり、その補完要因として僚のツケを盾に迫られたらしい。ガキ相手と送り出した僚だったが、香はしっかりとインフルエンザを貰ってきた。

「香ちゃんは本当に真面目だねぇ」

裏の世界はもちつもたれつ。店の方も本気で僚から取り立てようとは思っていない。それでも彼らが取り立てにやってくるのは、香が素直に反応するのが面白いからでしかない。そんな彼らの思惑も判らず、香は毎晩真面目に働いていた。

-僚のツケなんだからパートナーの私が清算しないとね-

怒る香に首をすくめつつも、香の行動が僚には面映かった。

- 相棒のしたことに責任もつのは当たり前でしょ -

「…当たり前、か」

自分と同じスピードで生活し、同じものを見ながら、一緒に生きてくれる相棒兼恋人 。香は僚にとって空気のように いて当たり前の不可欠な存在。

「小せぇ手」

これはずっと取ることを躊躇していた香の手。僚にとって大切な、世界で唯一の宝物。香は僚が、僚自身も知らず探していたただ一人。その一人に逢えるのを自分でも気付かないほど、心の奥底にある深層心理で期待していた。 自分の全てを預けることができるたった一人との出会いを。

(まさかそれが銃もロクに扱えない女だなんてな)

出逢ったのは表の世界で生きてきた香、相棒になっても僚は香に銃を持たせなかった。持つ必要が無かったわけではないが、僚が香に望んだのはそんなことではなかった。

香に逢うまで僚は色々な人間を相棒にしてきた。中には女だっていた。スナイパーとしての技術に加え容姿も申し分のない女たちだった。ついでに言えば、彼女たちはベッドの中でも申し分が無かった。

命のやり取りで高揚した状態で抱き合う。それは至福の瞬間であるが、僚の体の下で女が”愛している”と囁けば、それまで獣の様に女を求めていた熱が冷嘘のように冷めて脳内で点滅するのは『THE END』の文字。寂寥感だけ僚を襲う。

女の温かで柔らかい身体でも、愛という言葉でも満たされない僚の心の隙間。性欲という熱が冷めれば一層心の隙間は拡がっていく 。

これ以上はただ虚しくて、僚が体を離せば女は驚いた顔で僚を見返して、未だ熱気の篭る寝室で服を着る僚の背中を見つめる。『帰るの?』と一縷の望みをこめて尋ねられた女の声に、『Bye』と僚は冷めた心で心地の良い闇に姿を消した。女よりも闇が僚の心の隙間を埋めてくれた。 命を賭けるスリル、敵の体から噴き出る血飛沫が僚に生を意識させた。

(…切り裂きジャックと変らない)

血と闇を好む僚の中の獣は日本に来ても鎮まることは無かった。今は亡き香の兄槇村に逢わなかったら今もあのままだったと確信している。きっと全相棒の槇村は僚が死ぬまで忘れられない正義感の塊の様な男。

(兄妹揃ってよくもまあ)

牙むき出しの獣に手を出した兄。獣を躾けた妹。『香を頼む』と最期にそう言って、僚の腕の中で息絶えたのは僚に初めて出来た親友という槇村の願いは僚の絶対となった。そして僚は香と逢い、僚は香に興味を持った。

(ん? …『興味』って…ちょい待て)

僚は眉を潜めて思考を巻き戻し

(んーあれが、恋の始まりってことになるのか?)

俺も意外にベタだな、と僚は赤くなった頬を照れ臭そうに掻きながら

「そうなると槙ちゃんがキューピッドってかぁ?」

真っ白な羽を生やし金色に光る輪を頭上に浮かべた槙村を思い浮かべ

「やめやめ、槇ちゃんは天使って柄じゃないっしょ」

楽しくない想像を僚は頭を振って追い出そうとして、体に伝わった振動の所為か僚の腕の中でかの天使が大事にしてきた女が身動ぎする。色素の薄い睫毛が動きゆっくりと無垢な瞳が現れる。

「…りょお?」

僚を瞳に映し、柔らかく微笑む香に僚の心臓が跳ねる。遠くない昔にも経験したときめきにも似た感情。

「……何で私、ここにいるの?」

ここがどちらを指すのか。僚の部屋か、僚の腕の中か解からないが

「ごめん」

原因を理解した香は「部屋に戻る」と少々慌てながら起きようとして、僚の腕が腰に回されてくるりと視界が回ってベッドに戻された。

「逃げんなよ」 

僚はクツクツと喉の奥で笑いながら、香とそして自分に言い聞かせる様に囁く。何度でも言い聞かせないと臆病な僚はまた香を突き放すかもしれないから、香は全身全霊を賭けて愛しいと思う世界で一番大事な女なのだと自分に痛感させる。

彼女は自分の心を殺して突き放しても守りたいと思うもの。

「未だ怠いんだろ、もう少し寝てろ」 

らしくない想いに僚は照れ赤く染まった頬を見られない様に香を抱き込む。僚は照れた顔を女に見せる男じゃないから。

「でも、移っちゃうよ?」「それならそれでも良いさ」

それでお前が楽になるから、なんて思うだけで恥ずかしくって。『どうしちゃったの、俺?』なんて幸せに苦悩しながら僚は香を抱く腕に力を込めて

「もう少し、寝ようぜ」

このまま、と口には出さずぎゅっと抱きしめた腕に力を込めて伝える。僚は自分の中の天邪鬼を良く解かっていた。

(自分ながら扱い難い奴だな)

本心を隠すためとはいえ、香に投げ付け来た暴言の数々はただただ香を傷つけてきた。それでもめげなかった奇跡の産物である香を抱き枕の様に抱き込めば

「今日の僚、なんか駄々っ子みたい」

 どうしたの?、と腕の中の香が少しくぐもった声で訊ねるから

「別に。ただそんな気分なんだろ」

誤魔化す様な僚の言葉に「変な僚」と香は笑う。らしくない自分を僚は十分に理解していたから「話は終わり」と眠ろうとする身体で伝える。

柔かい温もりを抱いて僚は目を閉じると「しょうがないな」とそう語る腕が僚の身体をぎゅっと抱きしめた。

END

天邪鬼な腕 / シティーハンター

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