シティーハンターの二次小説で、僚×香のクリスマス設定です。
概要
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「ん…」
朝日の刺激に僚は薄っすらと目を開けた。完全夜型の僚にとっては迷惑なことに、朝の眩しい光がカーテンの隙間から入り込んでいる。
「ちっ…」
濃いグレーの遮光カーテン。毎朝朝日をシャットダウンしてくれるのに、昨夜の手抜きのツケか。小さく舌打ちして僚は筋肉質の腕を東側の窓に手を伸ばした。
「ん…」
微かな声に僚の手が止まる。僚の肩を枕にしていた香が小さく身じろぎをする。
「……うん」
小さな呟きに僚は息を呑む。そんな僚の肩の上で香は何度か頭を振り、頭がおさまる適当な場所を探し求める。「…んー」とおぼろげな声を漏らした香は、納得のいく場所を見つけて再び小さな寝息を立て始めた。
夜型の僚とは対照的に朝が強い香。そんな香が未だに夢の世界に住まうのは、昨夜寝るのが遅かったから。
「おまあが悪いんだからな」
むき出しの香の白い肩に黒い布団をかけようとして手を止める。朝日をきめ細かい肌が反射して、キラキラ光る粒たちが黒い寝具の上で大きく煌めく。その光景はまるで香を護る白い羽のよう。
「まさに、angleだな」
隣のビルに住む似非天使とは違う、新宿に住む闇の住人たちが恋い焦がれる天使の香。 クリスマスに大晦日。年末が近づくと『家族』を恋しく思う者たちは香を呼び止める。
その優しい声が聴きたくて、その甘い笑顔を一目見たくて。
裏稼業の人間たちが、人を殺すことを生業とする者すらが、ほんの一瞬の救いを求めて香を呼び止める。香だけが彼らを受け入れた存在だから。
「…俺のもんだ」
しかし素直になれない天邪鬼。
- 僚、クリスマスはどうするの? -
香の問い掛けに一緒に過ごすか、なんて僚は素直に応えられるわけがなくて
- どこのクラブのパーティに行くか、僕ちゃん悩み中 -
赤、緑、金色。豪奢に飾られた数枚のカードを香に見せる。 行きつけのキャバクラの社交辞令。僚にとっては年の瀬のお歳暮と同じモノ。それでもそんなのことを香が解かる訳が無くて、天邪鬼の心境を解かって欲しいというのは我侭で
- じゃあ、うちでクリスマスパーティするけど構わないわよね -
愉しそうな香にカウンターパンチをくらう。
- 美樹さんとかずえさんと企画してるの、ホームパーティ -
目の前に迫ったのは頷かざるをえない状況。『万が一、ナンパに失敗してもご飯は用意しておくから』という香の邪気のない笑顔に二の句も告げれず、クリスマスの雑誌を楽しそうに開く香を横目に見ながら 行く気の無い招待状に乗り気の振りをする。
クリスマス当日は『行ってらっしゃい』と 夕方早々いつも通りの笑顔で追い出され、ポケットに手を突っ込んで階段を下りればにやけた似非天使とすれ違う。
- 素直じゃない奴 -
うるせぇと言い残したものの、元相棒の言葉は僚の心をざっくり切り裂いていた。ただ、ここで折れて一緒にパーティ…が出来るなら
「もっと早くに『こう』なれただろよ」
僚は軽く香の白い肌に浮かぶ赤い華をなぞる。夜明け前に付けた赤い痕は未だ血の色で生々しく、火照りが治まった白いキャンパスで毒々しいほど赤く咲く。
「やっと手に入れた…俺だけのものだ」
香が寝てさえいればほんの少しだけ素直になれる。所有の証に唇をよせ、小さく出した舌でなめれば汗が舌を刺激する。
- 身体に悪いですよ -
アーモンドに塩を振りかけ、その塩辛さを味わっている僚にマスターが苦言を呈す
- おや、僚ちゃん? ‐
情報屋たちは冴羽商事のイベントもしっかり把握していて
‐ 今日はクリスマスパーティなんじゃなかったのか? -
にやつく彼らの顔に天邪鬼を刺激され、僚は居心地の悪さを味わう。自分と香の顔の広さを恨みながら新宿を横切り外れに向かう。キャバクラの明かりは遠く離れたビルの間にある古い木の扉が印象的な隠れ家的なバー。最近の行きつけ、一人になりたいときは此処に限る。
カラン
いらっしゃい、と 例にも漏れず情報通なマスターは少しだけ目を瞠ったが街でふらつく彼らよりは少しだけ素直に、黙って頷く僚に最初の一杯を作り始めた 。
「香…」
未だ薄っすらと紅い香に唇にそっと自分の唇を重ねる。隙間を埋めるとウイスキーのけぶる馨りが口内に広がった。昨夜バーで飲んだものより年代物のウイスキー、それは香から僚へのクリスマスプレゼント。
- お奨めを教えて欲しいって、香さんに頼まれたんですよ -
ウイスキーなんてあまり詳しくないから香はマスターに相談に来ていたらしい。
- 形に残るものじゃなくても良いのか…って聞いたんですけど -
僚の無言の問い掛けにマスターは小さく笑って続ける。想い出って心が覚えているものだから、と香は語ったそう。
突然兄を失った香。残ったのは銃を初めとした少ない兄の愛用品と幼い頃から共に過ごした数多くの優しい想い出たち。愛する人を失うのは突然で想い出の品すらも失われてしまうかもしれない 、それでも心(キヲク)は誰にも奪えないから。
「お前らしいよ…本当に」
僚は香の胸に手を当てる。トクントクン、と心臓の動きが僚の手を跳ね返す。この力強い鼓動がいつか動きを止めたとしても昨夜のことはきっと忘れない。僚好みの酒を飲みながら香を抱き締め、この幸運を身に刻んだ瞬間を。
いつの間にか僚の暗い心に棲みついた白い女。 僚の黒に染まりながらも自身の白を強固に守り、僚をそしてこの新宿に住まう多くの暗い心を白く染め始める。
決して真っ白にはなれないけれど、灰色になった心は多くの色で世界が染まっているのを見る。美しいと思える時もある。嗚呼、捨てたもんじゃないこの世界。 それは全て、彼らの天使が教えてくれたこと。
- 何だ、こりゃ -
バーを早めに出て言い訳を考えながら帰路につく。自宅の気配を読んで、未だ複数人いることを感知して、何と言って追い出そうか考えながら扉を開ける。
- 起きてるんだろ? -
傍で眠る三人の女性は無視して僚は男二人、ミックと海坊主に声をかける。
- バレタか。それじゃあ残りは各々でクリスマスパーティーだな -
クリスマスもあと40分くらい残ってる。 眠るそれぞれのパートナーを腕に男たちは帰って行き、残るのは小さく寝息を立てる香だけだった。僚は香にそっと口づける。
「りょう…?」
唇を離せば香が戸惑ったような目で掠れたハスキーな声で僚を呼ぶ 少し眉を顰めるのは喉が痛むからか酷使させた自覚がある僚は小さく笑って
「もう少し寝てろ、また水を持って来てやるから」
優しく髪を梳いてベッドから身を起こす。黒い寝具に白い身体を埋めた香の額に口付けると僚はベッドから離れて寝室を出て行った。パタンと扉が閉まった音で戻った静寂、香はカーテンの隙間から降り注ぐ光の粒を浴びて眠りの世界に旅立った 。
END
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