愛獣 / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説で、僚×香は恋人同士です。

概要

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「香」

いつも呼ばれる名前だからいつもと同じ音のはずなのに、『音色』とはよく言ったもので僚の声がいつもとは違う色で彩られている。

「香」

…狡い。女好きで、女性の依頼人には必ずもっこり報酬を強請るくせに。

「香」

どんなに嫌な想いをさせられても、こんな音で名前を呼ばれちゃったらどんな大きなマイナスだって帳消しになってしまう。

「…んっ」

太く逞しい腕で抱き寄せられれば心も蕩ける。銃器を扱っているくせに細くて長い指が髪をすくうと背筋がぞわっと粟立つ。病みつきになる甘い刺激。僚の手からすぐに解き放たれる私の短い髪じゃ物足りなくて、思わず『彼女』みたいに長い髪だったらと思ってしまうけど……伸ばさない。

あれはいつのことだったか。

「今度のコレクションのとき”これ”付けてみない?」といって絵梨子が持ってきた長い髪のウィッグをかぶってみたとき、遼が変な顔をした。似合わないのを嘲笑うような顔じゃなくて、仕事の邪魔になるというような戒めるような顔じゃなくて本当に表現しにくい顔。

強いて言うなら…僚にはあり得ないことだけど、何かを怖がるような顔。

「何を考えてる?」

耳だけじゃなく身体を通して伝わってくる低い声、責めているけれど極上な甘さの音が全身に満ちて背筋がゾワゾワと粟立つ。

「…ん? 気持ちいいなって」

薄暗い閨の中だから照れ屋な私でも気障なこと、いつも言えない台詞が吐ける。僚の温もりに融かされた体に理性などない。制止する理性のない口は甘い言葉をぽろぽろと際限なく溢す。そんな私の言葉で至近距離に据えられた僚の不機嫌な顔が男の自信が満ちた顔になる。

「今日は素直だな」

精悍な顔が野性味を帯びた瞬間に私の中の雌が歓喜の咆哮をあげる。獰猛な私の中の女を宥めるように僚が優しく私の頬を撫でると、ピリッと突っ張るような痛みが走り「んっ」と艶めいた声を漏らす。僅かな刺激は今の私にとって甘味に過ぎない。

生傷が絶えない仕事、頬に小さな切り傷なんて序の口。キズを負うことに迷いはない。キズを負っても、例え手足を失っても、これが自分で選んだ道だから文句などない。

それを知っているから僚は何も言わない。「大丈夫か」と負ったケガを労われるよりも、放っておいてくれるのが嬉しいなんて自分でも変わっている。でも

- 大丈夫か? -

転んだ『彼女』の頬から土を払う僚。あの優しさが欲しいわけじゃないけれど、僚の指が『彼女』の頬に触れることに嫉妬する。

『彼女』の頬には血の影もなく、古いキズの痕などなく細かいキメが白く輝いていた。私の荒れた肌と違って僚も触れていて気持ちいいと思っただろう。

僚は『彼女』の方がいいのかもしれない、と僚が私の頬のキズを撫でるたびにピリッと走る痛みが私をネガティブな泥沼に放り込むのに

「……んっ」

私の頬に添えられていた手に力が入り、まるで私の思考を罰するように、閨の中の仕草にしては些か強い力で上を向かせられて咬みつくようにキスされる。

嗚呼、この男は本当に狡い。

そう、優しく甘く女扱いして欲しいわけではないけれど多少気を使っては欲しい。こうして褥を共にする男の指が他の女に触れる光景を見てショックを受けないわけではない。

こんな文句ならば星の数ほどあるから、この長い夜が明けるまでじっくり話し合うこともできるのに、僚は言葉など1つも使わずに私を丸ごとたべるような獰猛のキス1つであっさり私の納得いかない気持ちを霧散させる。

「ふ…んっ」

私が苦しくないように呼吸を促すように角度を変えてくれること。ベッドに倒れ込む衝撃が少なくなるように背中に回る腕に力が籠ること。その筋肉質で重い体で私が押しつぶされないように四肢で自分の体を支えること。

嗚呼、この男はちゃんと私を女としてみてくれている。

たかがこんなことが嬉しい。これを悦ぶ自分もどうかと思うのだが、事実そうなのだから仕方がない。こうやって諦めてしまうのも、その四肢で私を閉じ込めるように覆いかぶさる僚のせい。

「香」

私の顔の両脇にある僚の腕に力が入ると、私の視界がふっと暗くなる。僚の香りが強くなったと思った瞬間、唇に僚の温もりが触れる。優しいキス。体が溶けたように力を失う。脳がしびれて雌の本能が体を動かし、上がった腕が僚の体に絡みつき、広い背中に精一杯まわされる。

「…僚」

温もりが欲しい。触れ合いが欲しい。私の中にいるのはネコ科の獣か、本能にそそのかされて僚に回った腕に力がこもると体を僚に摺り寄せる。浅黒い肌の艶やかさに二人の間を隔てる布の存在が煩わしくなる。『彼女』のように肌を露出させていればもっと僚の肌の感触を味わえたのに。

嗚呼、女の嫉妬は根が深い。

まだ『彼女』を気にしていることに小さく哂い、太い首に唇をあててその肌に吸い付く。ぴくっと揺れた肌を追いかけて、スキマが無いようにぴたりと唇をくっつけて、遼がやるように強く肌を吸う。

- 男にはそう簡単に所有印を押せねえぞ -

いつの記憶か。物を知らない子どもを哂う様な僚の声を思い出し、遼を見返すために唇が痛くなるほど強く、強く肌を吸いこむ……でも、だめだ。

僚はあっさりと私に紅い痕をつけるのに、僚の肌には辛うじて見える程度の薄い痕しかつかない。あっさりと僚に堕ちる私、私のものになりきらない僚、私たちを象徴する様な赤い痕。

私は一生敗北感を味わうのか………さすが猫科の獣。さっきまで私の中で牙をむいて唸っていた私の中の獣はコロコロと嫋やかに笑いながら『頑張りなさいませ』と他人事にようにエールを送る。その挑発する瞳に背中を押された私はもう一度僚の首に吸い付いた。

まるで縋るように俺の首に腕を回し、首に柔らかい唇の感触を覚える。珍しく積極的な香に暴走しそうな俺の中の獣のリードを必死に引っ張る。

嗚呼、いつものように茶化して状況を打破したいってのに。

探るように柔らかい唇が首筋に触れるたびに背筋が粟立つし、唾液で濡れた香の唇が銀糸を引くたびに…まあ、なんだ、いろいろな妄想が巡り暴走しそうになる。

香のこの行動のきっかけは分かっている。

俺は依頼人の『彼女』を褒めまくって香の女としての自信を削いできた。俺の性格もあるが、計算でもあった。香が自分の女に自信を持って、例えば冴子の様になったら俺は絶対に気が狂う。

- 女性の依頼しか受けないなんて我侭いわない! -

確かに女の依頼人の方がボディーガードをしていて楽しい。だが、男がイヤなのにはもっと別の訳がある。

俺は男の依頼人と香が逢うのだけでも嫌だ。我侭で結構。世間一般でみて、もちろん俺から見ても、香は女として魅力的だ。香の中の女は気まぐれで常に姿を見せているわけではないが、その分ふとした瞬間に見えた女に男はあっさり堕ちる。

だから俺は香の体に痕を、所有印を押す。見えるところに付けるなと香は文句を言うが、見せなきゃ意味がない。男が女に所有印を残す理由は大小あれどそんなとこ…女はどうだろう。俺の体に所有印を残そうと躍起になっている香の舌が俺の首筋をなぞり背筋がぞわぞわ粟立つ。

「…満足したか?」

欲望で掠れる喉を叱咤して聞けば、「ある程度」と香は赤く腫れた唇からこぼれた唾液を拭いとる。短い髪がサラリと揺れて甘く香る。俺の中で一度落ち着いた野生の獣がむくりと頭を上げる。それでも躾の行き届いた雄の、おそらくイヌ科の俺が香に飛びかかることはない。

しかし…香が使っているこのシャンプーはメガブランド商品。日本中で大量に消費され、街ですれ違う女からも漂ってくることが多い。この香りを嗅ぐと香の体温が蘇る。

仮に抱きつぶすように飽くほど抱いたあとでも、すぐにでも香を抱きたいと俺の中の獣が咆哮をあげる。

「なあ…シャンプー、変えれば?」
「……どうして?」

気に入っているのに、とキスで蕩けた潤む瞳が俺に訴える。嗚呼、やめてほしい。首輪もつけていない俺の中の獣を抑えるのだって限界があるってのに

「ま……おまぁが頑張るだけだから俺はいいけどね」

そんなに高価なシャンプーじゃないのに、と家計の問題だと盛大な勘違いをしている香を俺は優しくシーツに縫いとめる。捕まえた。野生の獣が牙をむくのを感じる。

「明日は休みでいいよな?」

勘のいい香は我が身大事で尻込みをする。片腕で腰を抱き留めて、香の髪に指を潜らせるとシャンプーのニオイに香のニオイが混じった。血を躍らせるニオイに理性を失った獣は荒れ狂い、香に飛びかかった。

END

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