浜辺とバレンタイン / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説で、獠×香のバレンタイン物語です。

概要

スポンサードリンク

「お帰りー……あれ?」

エプロン姿で駆けてきた香は一人で玄関に立つ獠に首を傾げる。

右を見ても左を見ても依頼人の姿がない。

「依頼人は?」

「さあ? 家にでも帰ったんじゃねえの?」

ピシャァンッ

平然と知らないという獠に香の怒りがハンマーに形を変えた。

「2ヶ月ぶりの依頼人だってのに!せっかく!」

「お、おいっ!」

「男だからあんたが嫌がっていたは知ってたけど私の居ぬ間に…「だからっ!! 話を聞けって!!」

獠の制止を無視して、『問答無用』と振り下ろされる100トンハンマー。

いつもならこれに潰されるところだけれど、

今日の獠はハンマーをいつものように受け入れる気はなかった。

ドオンッ

大きな音とともに老朽化が進む建物の天井からは埃が舞い降りたが、ハンマーの脇に立つ獠は『100t』の文字を叩きながら呆れたようにため息をつき、

「依頼は片付いた。依頼料もちゃんと振り込まれたから」

「…本当?」

この手の問題について獠に信用はない。

真意を探る様に香は獠の眼を覗き込んだが、そこにはいつもと同じひょうひょうとした顔に平然とした目。

無駄にキメ顔はしていないし、

妙にそわそわもしていない。

「そう」

数分経ってようやく納得した香が頷くと、

「……ぼくちゃん、そんなに信用がないのね」

「胸に手を当ててみなさい。心当たりだらけでしょう?」

獠の文句をふんっと鼻息で払った香だったが、困ったようにリビングのドアを見た。

(やっぱり、な)

「どうしよう。彼の分も作っちゃったのよね」

キッチンに並ぶ大小様々なボウルたちを見て眉間にしわを寄せる香の隣で、獠は内心ため息を吐く。

「まあ、俺が食うから気を落すな」

獠の言葉に素直にうなずいたものの、

香の表情から残念そうな色は消えなくて、

その香の表情に今度は獠の眉間にしわがよる。

(こーの、鈍感女めっ)

この時期の依頼人に香はいつもチョコレートを渡す。

もちろんそれが『義理チョコ』、

それも”ちょうど居合わせただけ”というやつだとだと獠も解ってはいる。

それでも獠は男で、

一般的に男が香のような美女からこの日に猪口をもらえば、

香自身に多少の好意はあって、

男にもチャンスがあるのだと喜んで誤解すると分かっていた。

恋する男は漏れなく誰もがバカなのだ。

「チョコレートは?作り終わったのか?」

「あとは冷蔵庫で冷やしてラッピングするだけ」

「それじゃあ出掛けようぜ」

「どこに?」

「お前にリクエストが無いなら適当。準備、手伝うか?」

ニヤッと笑った獠は香に向かって手を伸ばし、

香の細い腰で結ばれたエプロンの紐に手を伸ばして器用にほどき、

「一人で出来るわよ!」

ピシャリと叩き落された。

獠の『今夜のプレゼント』はエプロンの紐をしっかり縛り直すと、

手早くキッチンを片付けて着替えのために自室に向かった。

「海が見えてきたわよ」

「んー」

「気の無い返事ねぇ」

口では呆れながら笑顔で香は窓に目を向ける。

窓の外を見る振りして、

香はガラスに映った獠の端正な横顔を見る。

香の視線に気づかない男じゃないから、

窓ガラス越しにふたりの視線がからまる。

自然とふたつの顔に浮かぶ照れ臭そうな笑顔。

「降りてみるか」

照れ臭さを誤魔化す様に獠はハンドルをきってアクセルを踏む。

海に向かって伸びる長い直線道路。

陽が落ちて空の海も同じように真っ黒で、

まるで夜空を飛んでいるような錯覚をした。

「どうして海に来ようなんて思ったの?」

人のいない暗い浜を二人でのんびり歩く。

冬の所為か足跡ひとつ無い砂浜に、

男と女の大小の足跡が規則正しくついていく。

「人のいない方を選んできたら海に来ただけ」

「人のいないとこ?」

ほんの少し前を歩く香の言葉に僚は小さく笑い、

香から目線を外して誰もいない、

何もない海を見る。

「誰の目も無いところに来たかったんだよ」

「あら、珍しい」

獠の言葉に香はくすりと笑って

「確かに新宿は人の目が多いもんね」

「……鈍感女」

解ると納得した様子の香の背中に獠は呟く。

獠としては別に自分が見られるのは気にならない。

ただ香が他人の目、

とかく男の目に晒されるのが嫌だった。

(ぜーんぜん二人っきりになれなかったしぃ)

護衛の仕事で依頼人が居候すると、

気配に敏感な獠はいつも落ち着かなかった。

そして居候するのを嫌う理由が今はもう1つ増えている。

(仕事中は抱き枕にだってさせてくれないしなぁ)

「香」

獠の声に振り向いた香の顎に指を当て、

身長差の分だけ香の顔を上に向かせて。

鈍感と言われる香でも解からないわけじゃなかったけれど、

ここで?という戸惑いがあった。

「りょ、獠」

近づく獠の顔から思わず顔を背け、

おたおたとした表情を面白がっていた獠だったが、

そのおたおたが歓喜に輝いたことに首を傾げ、

「わあ」

紅い唇から音が漏らす香の視線の先を獠が追うと、

香の意識が一瞬で奪われたのが理解できるほど、

ふたりの頭上に拡がる星空は見事だった。

「見て、獠、すごくキレイ」

「…マイペースな奴」

ムードを壊した香に文句も言いたくなったが、

それも香だと諦観をため息で振り払うと、

そのまま香の肩に腕を回して一緒に空を見る。

「そんなに新宿から離れたつもりはなかったが星空は変わるもんだな」

「ありがと。獠が連れてきてくれたおかげだね。」

(ここでそんなに素直に礼を言われても)

獠はため息を吐き

「それじゃ香は空を見てろよ」

「…獠は?」

「俺は俺のしたいことをしてるから」

そう言って獠は香の首筋に顔を埋め、

ひゃっと悲鳴をあげる香を無視して肌をきつく吸いあげる。

「りょ、獠!?」

「気にしないで星見てろよ」

「いや、見れないから。気になるから」

「邪念ぐらい振り払えよ」

「お前が振り払え」

文句を言う唇を獠は自分の唇でふさいで

「天体観測が終わったら生物の授業にうつらないか?」

「…ちょっと待って」

「いや、保健体育かな」
「だから、待ってって」

ダンスを舞う様に優雅に獠は香を抱き上げると、

キョロキョロと辺りを見回して、

「この時期だ、空きはあるだろ。しっかし、冬の海は閑散としてて本当にいいなぁ……安心しろ、ここじゃ味見程度だから」

(帰ったらチョコもらわなきゃいけないしぃ)

獠は笑うと逃げ腰の香を担ぎ上げて、

ちょっと味見をするために愛車に向かった。

END

浜辺とバレンタイン / シティーハンター

pixiv30users入り pixiv50users入り pixiv未掲載 【シリーズ】Serinette いつもの二人 じれったい二人 オリキャラがいます クリスマス クロスオーバー スパダリ セコム ハロウィン バレンタイン パラレル ブログ移設後未修正 プロポーズ(求婚) ホラー リクエスト 七夕 上司と部下 両片思い 元カノ・元カレ 原作のたられば 原作終了後 告白 大人の恋愛 夫婦 妊娠 子世代 恋人同士 恋人未満 捕らわれの姫君 未来捏造 死別 溺愛 異世界 白馬の王子様 秘密の恋人 第三者視点 素直になれない天邪鬼 結婚式 艶っぽい 花火 誕生日 過去の因縁

コメント

タイトルとURLをコピーしました