イタズラなkissの二次小説です。
原作者様の早逝により原作が消化不良の状態で幕を下ろしてしまったので、僭越ながら「あの続き」を妄想しました。
スポンサードリンク
世界中でたった一人のあなたに出会えた
この運命を私は神様に感謝する
「琴子、お前妊娠してないか?」
直樹の言葉にその場にいた全員は数秒間凍りついたものの、アハハハと全員一斉に笑い出した。さすが仲良し家族×2。
「お兄ちゃんったら何言っているの」
かつて一度妊娠に関して(大)騒ぎがあった入江&相原家。全員すでに”妊娠”への耐性ができていた。
「お兄ちゃん。もしそうなら琴子が一番に気づくはずだろ」
「そうだよ、入江君」
「ないない」と直樹の弟・裕樹と琴子もケラケラと笑ったが
「・・・・・」
黙ってジッと見る直樹の迫力に圧された琴子は戸惑い始め、その戸惑いが全員に伝染して笑いが治まると『もしかして』の5文字が全員の頭に浮かぶ。
何と言っても妊娠の疑いを投げかけたのは”あの”直樹。前回の妊娠騒ぎの発端は直樹の母・紀子の勘違いだったが、今回は”あの”直樹の……勘?
「「「「「 ~~~~!!!!!!! 」」」」」
さすが仲良し大家族。直樹を除く全員が同じ結論に同時に達し声にならない叫び声をあげたあと、一斉に騒ぎ始める。
「ビデオ!! ビデオを撮らなきゃ!!」「ママ、落ち着いて」
慌てる紀子とそんな妻を諌めつつも大慌てな入江父。「妊婦に必要な栄養は~」と入江父の隣では相原父がこれからの食事の内容を悩む。裕樹は… 「わーわーわーわーわー」 …ひたすら騒いでいた。
「…意外なんだが……静かだな」
慌てふためく家族たちに呆れた目を送った直樹だったが、隣で呆然としていること粉を見下ろしてため息を吐くと大きく息を吸い
「落ち着け!!!」
直樹の怒声に周囲は一斉に動きを留める。
「お袋。タクシーを呼んでから琴子の温かい服を用意してくれ」「わ、解かったわ」
「裕樹、お袋を手伝ってやってくれ……絶対に暴走させるなよ!」
直樹に声を掛けられた裕樹はびくりと驚いたが、兄からの指示に落ち着きを取り戻し紀子を追いかけるように1階に向かい……
(お兄ちゃんには悪いけど全然自信がない……)
「孫娘よ~」と母が狂喜乱舞する声に裕樹はため息をつき、弟に貧乏くじをひかせた直樹は父親たちに何もせずじっと待つように指示をした。そして浮かれきった紀子に父親たちにしたのと同じ指示を出すと、全然聞く気がないのが分かる母親から琴子のコートを受け取り
「病院に行くぞ。話は結果が出てからだ」
「う、うん」
ベッドからは何とか降りたが足元が覚束ない琴子。そんな琴子に直樹はコートをかけると抱き上げて「い、入江君!?」と驚き降りようとする琴子をしっかり抱き直す。
「こっちの方が早い。気分が悪くなったら言えよ」
人一人抱えながらも直樹は難なく階段を降りて淡々と玄関から出ていった。その淡々とした様子はいつも通りの直樹だったが、琴子にコートを掛けるとき、抱き上げるときに見せた柔らかい表情、そして抱え直すときの優しい手つきに気づいた父親たちだけは『しっかりやれよ』と心の中で新米パパ(予定)にエールを送った。
「入江さん、入江琴子さん」
「は、はい!……あっ!!」
産婦人科で順番を待っていた琴子は呼ばれて立ち上がり、その拍子に膝に置いてあったコートを落ちて慌てる。そんな琴子よりも数倍早く動いてコートを拾い上げた直樹は「行って来い」と琴子の背を診察室に向かって押した。
「ふう」
後ろ髪を引かれる様に直樹をチラチラ見ていた琴子が診察室の扉の向こうに消えると、直樹は琴子のコートを琴子が座っていた場所に置いて座席によりかかると大きくため息をついた。
(俺が……”父親”?)
この予感は外れる気がしなかった。そして手が震えているのに気付いて両手をぐっと組み目をつぶった。
「妊娠……15週目だって」
直樹の予感が当たったのはそれからすぐのことだった。
「…またか」
― お兄ちゃんと琴子ちゃんなら ピンポンを二回鳴らすこと ―
インターホンにでかでかと貼られた紙。気づかなかったなんでできない存在感のそれ(紙)に直樹はため息を吐き、苛立たしさを隠さずに紙を突き破る勢いでインターホンを2回押す。
ピンポン…ピンポーン…と鳴り響いたチャイムは直樹の不機嫌を映しとったように不機嫌そうだった。
ドタドタ ドタッ
「どうだったの?」
「どうだった?」
「どうだったんだ、結果は?」
『どうした』の三段活用と勢い良く玄関に現れた3つの顔。その勢いと爛々と輝く目に直樹はギョッとして一歩退いたが
「15週目だってさ」
「まああああ!琴子ちゃん、よかったわあああああああ」
直樹の報告に紀子の顔が光り輝く。『お嫁さん絶対主義』というより『琴子絶対主義』の紀子。息子である直樹は放って琴子に駆け寄った。
「楽しみだねぇ、イリちゃん」
「そうだねぇ、アイちゃん」
嬉しそうに目を細める父親たちの後ろから裕樹と、お祝いだからと呼び出されたのであろう彼女・好美が出てきて
「おめでとう、お兄ちゃん」
「おめでとうございます」
「ありがとう、裕樹、好美ちゃん」
「お兄ちゃん………これからがすっごく、すっごく大変だね」
「……そうだなぁ」
盛り上がる3人のシニアを見て裕樹は同情し、そんな弟に直樹は小さく苦笑を返す。そして紀子と好美に囲まれて嬉しそうな琴子に腕を伸ばして抱き寄せて
「琴子、今日はもう上に行って体を休めろ」
きゃあきゃあと騒ぐ紀子。恋愛に憧れる年頃の好美といつもクールな兄のデレた激甘な姿に裕樹は顔を真っ赤にしていたが
「体を冷やすなよ」
「誰かに連絡したいなら明日以降にしろ」
「コーヒー?それなら後でカフェインレスを買ってくる」
「病院には直ぐに報告してできるだけ楽な担当にしてもらえ」
「直樹先生って意外に…」
「すっごく過保護…一番大変なのって琴子だったりして」
若夫婦の寝室の扉が閉まって直樹のお小言が聴こえなくなると裕樹と好美はお互いにポカンとした顔を向け合った。
「琴子、他に欲しいものはあるか?」「う、ううん、無いよ。ありがとう、入江君」
階下の裕樹と同じく、甲斐甲斐しい直樹に琴子も呆気にとられ
「俺は下にいるから何かあったら呼べよ」
直樹は枕元に電話の子機を置くとここまで聞こえる下の騒ぎを諌めるために出ていった。直樹が寝室から出ると顎の下までしっかりとかけられた布団をめくり、耳をすませて足音が小さくなるのを確認すると体を起こしてベッドボードに寄りかかる。何だかんだと両親に優しく、さらに相原父に頭が上がらない直樹のことだから酒の席に誘われれば付き合うだろう。しばらく母子の時間だ。
「私たちってすっごく大切にされているね」
お腹を撫でおろせばまだここはぺったんこ。子どもがいるなんて言われても正直信じられず、琴子には夢のようだった。それでも口からでたのは『私たち』、何も意識せず自然とするりと出てきた言葉。
「始めまして『入江琴子』です。ちょっとバカでドジなママだけど宜しくね」
お腹を撫でながら自己紹介してみる。次は父親の紹介というより自慢をする。
「あなたのパパは『入江直樹』。頭が良くってカッコ良くって、すごいお医者さんなのよ。普段は冷たい、クールっていうのかな、だけど、すっごくすっごく優しいの。ママはパパに一目惚れ。もうすっごくカッコいいんだから。……あなたはどんな人と出会えるのかなぁ」
まだ姿も解からない、影と形程度の子どもだと分かっているけれどその未来を想うと心が温かくなる。
「あなたの恋物語、ママにも聞かせてね。パパって意外に過保護だからなぁ…は反対するかもしれない。だ・け・ど!恋のことなら私、絶対にあなたの味方になって全力で応援するからね」
フフフと笑った琴子は再び横になり、階下から聴こえてくる賑やかな声に耳をすませて腹部を優しく包み込み
「元気一杯に生まれてきてね…素敵な家族みんなで首を長くして待っているから」
そう囁くとまぶたが重くなるのに任せて目を閉じた。
END
コメント