女神の聖域 / シティーハンター

シティーハンター

シティーハンターの二次小説です。

旧題「不可侵」ですが、ブログ移転に伴い改題しました。

ミックにとって香は愛おしいけれど触れられない『不可侵の女神』だと思って作った作品です。ミック視点で話はすすみます。

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「…分かった」

100%ビジネスな会話を終えてスマホの『通話終了』ボタンを押す。

ウンともスンとも言わなくなったスマホを睨み、

俺はキッチンに向かってコーヒーを入れ始める。

細口ケトルの中の水が沸点に達した頃に彼女の気配が近づいてきた。

3…2…1とタイミングを計って

「Hi、カオリ!コーヒー飲んでいかないか?」

窓から顔をだし向かいのビルに駆け込もうとしたカオリに声をかける。

「ミック!」

俺の声にギクリと体を強張せたものの振り返って見えたのは笑顔。

笑顔だけど……うーん、バレバレ、かな。

目元の赤くなったままだし、

笑顔だっていつもの弾けるような笑顔じゃない。

腹芸が身について当たり前の裏の人間から見て眩しいくらい裏を知らない女(ひと)。

「せっかくだけど…」

「カズエの土産なんだよ。カオリにも飲ませたいって言ってたんだ」

カオリが断りにくいように言葉を紡ぐ。

お人好しで人の好意を無碍にはできないカオリ。

案の定カオリは俺の思惑通り頷き、

こちらに向かってくる姿に微笑み返しながら手早くメッセージを送った。

「お邪魔しまーす。 …あれ、かずえさんは?」

「かずえは教授のところ。カオリが来ると言ったら直ぐに帰ると言っていたから。ほら、座って」

カオリから着ていたジャケットを受け取って、

首の後ろの襟元からチラリと覗く赤い独占欲に気づかない振りをして、

椅子をひいてカオリを座らせる。

「あら…変わった味の珈琲コーヒーね」

「生姜とか色々なスパイスが入っているらしい」

嘘。

実はこのコーヒーにはブランデーを入れてある。

カオリが変に疑わないように俺の分にも入れているけど、

俺は何ともないがカオリが酔って寝てしまう程度の量の強い酒を入れておいた。

「ふうん…あ、慣れてきた感じ」

そういってカオリはコーヒーを疑いなく口にする。

他人が作ったものを安易に口にするなど、

裏の世界の人間としては不用心と言っても良い。

裏切りも裏切られも当たり前の世界なのだ。

一度受け入れ気を許した相手はとことん信じる性善説の信者のようなカオリ。

酒に適度に暖めておいた部屋

外にいて冷えた体を襲うWパンチにカオリは抗えずあっという間に眠りに落ちた。

「いいタイミングだな…全くレディを浚うのに大勢で」

寝入ったカオリの手からマグカップを取っていると、

外から車が数台走ってくる音が聞こえてきた。

窓をしっかり閉めて鍵をかける。

防弾ガラスは空間を密閉させて外の音を遮り、

この空間にはいろいろな機械の電子音とカオリの寝息だけが響く。

ああ、頭がおかしくなりそうだ。

俺にはカズエという愛おしい存在がいるがカオリは次元が違う。

命の恩人だからというやつもいるが、

いつ死んでもおかしくない仕事をして碌に執着していない命だ。

それを救ってくれたからとカオリをここまで思うことはないだろう。

陳腐なセリフだが、

俺にとってカオリは絶対不可侵の聖域にいる女神だった。

カオリは俺にとって唯一無二の存在。

何よりも神聖で、

何よりも愛おしくて、

それでいて…

「……ウ」

決して触れることが赦されない存在。

もちろん女神なんて比喩であり、

現実ではただの女であるカオリに触れることは簡単だ。

力づくでなら俺のものにすることだってできる。

今この瞬間(とき)俺とカオリの距離はほんの数メートル。

立って手を伸ばせば簡単に触ることができるのに、

俺は決して彼女に触れられない。

何をしようとカオリの心は手に入らない。

どんなに愛しいと想いを告げても、

優しい彼女は泣きながらも意志の強い目で俺の思慕を拒否するだろう。

彼女の思いはすでにただ一人の男のもの。

「…リョ、ウ」

夢の中でも泣かせることしかしない、

いけ好かない、

殺したくなる、

無粋で天邪鬼、

裏の世界ナンバーワンなんて気取ってんなよ、と言いたくなる男のもの。

まだまだ続くぞ。

女なんて欲がはららせれば十分なんて極悪非道なことをさらっとのたまい、

アジア系だけどワイルド!なんて言われていい気になっていた男のもの。

「…なんでアイツなんだ?」

いつだって香はリョウがいいと言う、

声に出さなくても、その目で、全身で。

リョウの過去を知ったときは揺るいだようだが、

腹を据えてリョウを選ぶともうぐらつきもしなかった。

「リョウなんて…ただこうして泣かせるだけの男だってのに」

ガチッ

重量級の短銃の撃鉄を起こす音が聴こえて、

俺はカオリの目尻の涙にのばしかけた手を引きホールドアップの状態になる。

銃を持った男の、

リョウの殺気がビリビリと叩きつけられる。

「んっとに、油断も隙もねえな」

「そうと分かっていて俺に頼んだってのか?物好きなヤツだな」

「キャッツの定休日じゃなきゃ誰が好き好んでお前なんかに」

そういえば今日はキャッツアイの定休日だったか。

カオリを妹のように可愛がるミキとファルコンならばそれはそれは安心だっただろう。

このいつも涼やかな顔をした男の額にくっついたひと房の前髪で、

この男が急いで仕事を片付けたことがわかる。

俺は直ぐ近くにあった灰皿をフリスビーのようにリョウに投げる。

リョウは片手で灰皿を受け取るとカオリの眠るソファの端に座り、

ローテーブルに灰皿を置いて煙草を探してくわえる。

ライターを探す仕草に俺は無言でライターに火を灯し火を付けさせてやる。

「いいキャバ嬢になれるぜ」

「それもいいかもな。女なら赦されそうだ」

「…赦さねえぞ」

「お前の赦しなんて要らないよ」

カオリの俺に向ける瞳の中の信頼と友情の光が無くなるほど怖いものはない。

そんなカオリを想像することは、

いま目の前で殺気を隠さずに睨む男の愛銃が火を噴くよりも怖い。

「良いオトモダチでいてやってくれよ」

そういってリョウは煙草をくわえたままカオリの顔に、髪に、我が物顔で指を這わせる。

『お前は友だち、俺は男』という言葉が聞こえてくる態度。

羨ましいを通り越して殺意がわく。

リョウだけに捧げられた自分には万に一つも与えられない赦しだから。

「お友だちとしてカオリにアドバイスしないと。あんな下半身のだらしない男は君を不幸にするよってね」

「いまは修道士並の下半身だぜ?アイツ相手にその反動がすげえけど」

「…これだからチェリーボーイは始末が悪い」

「あん?誰のこと言ってんだ?俺は百戦錬磨だっての。お前と違ってなぁ」

リョウの大きな声にカオリが小さく身じろぎし、

百戦錬磨を自称してカオリを手に入れた男は優しい目でそれを見つめる。

男の秋波なんて微塵も感じたくはないが、

何だってこの男はカオリに素直にこれを向けられないのか。

「惚れた女相手に磨いたテクを披露できないなんてチェリーボーイだろうが。で、カオリの涙の原因は解決したのか?」

答えは聞かなくても分かる。

リョウがいまここにいるということは、数日前から冴羽マンションに来ていた美女を今後ここで見かける機会はないということだろう。

「ようやくお前の禁欲生活は終わりか。4日…いや、5日間か。それまで連日連夜、リビングやバスルームでだって…ってのによく我慢できるな」

「……何で知ってる?」

地を這うようなリョウの声。

あのときのカオリを想像させることも赦せないらしい…本当に心の狭い男だ。

「観察眼の優れたジャーナリストなんでね」

「仕事しろよ」

「いつも開店休業中でいつもいつも閑古鳥を鳴かしている男が何を言うか。すぐにカオリに愛想つかされるぞ」

「閑古鳥の鳴き声なんて聞こえなくなるくらい泣かせてっから大丈夫だろ」

「凶悪だなぁ…カオリってば毎日でっかいシーツを洗濯してるもんなぁ」

「…ストーカーかよ。こんな危ないところからはさっさと退散すっかね」

リョウは煙草を押し消して、

眠るカオリを抱き上げて俺の家を出て行こうとする。

あっさりと俺が触れられないものに触れて、

自分の城に持ち帰る男に憎しみ混じりの嫉妬を覚える。

扉が閉じてリョウが出ていくと詰めていた息が漏れる。

曲りなりにもカオリの友人である自分が殺されることはなくても、

冥途の河を見るところまでは吹っ飛ばされそうなほどの敵意…

…いや、余裕のなさを感じた。

「まあ……赤い花はすっかりピンクになっていたしなぁ……ピンク……ピンク、かぁ。ついぞ見ることは叶わなかったがカオリのはさぞかし…」

ドンッ

銃弾を撃ち込まれた窓ガラスは防弾仕様で散りはしなかったが、

クモの巣のような亀裂を作って銃弾の重さでビリビリ震えるのを俺は唖然と見る。

Piriri

スマホがメッセージが届くことを報せる。

画面を見なくても送り主などわかる。

全身に硝煙をびっしり浴びて、

未だ熱い銃身を懐にしまう実に心の狭い男しかいない。

ため息をついてメッセージを開けば

『次はない』

「……勘が良すぎだろ」

いろいろな意味で不可侵の女神になっちゃったなぁ、と俺は一人笑った。

END

女神の聖域 / シティーハンター

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