のだめカンタービレの二次小説です。
原作終了後で、オリジナルキャラクターで千秋(真一)とのだめの子ども、峰君の子どもが登場します。
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「寒いデスねぇ」
独り言のように呟きつつも、のだめはチラリと隣の真一を見る。そんなのだめを気にすることなく真一は前を向いたまま。
「寒いデスねぇ」
「…そうだな」
真一の口調は明らかに『渋々』という音だが、それでめげたらのだめではない。
「このままだと上手く弾けないかもしれません」
「…ほら」
ため息を吐いた真一はのだめの手を引く。
「うきゅきゅ」と嬉しそうに奇声をあげるのだめに「ったく」と呆れながらも、真一は自分のコートのポケットにのだめの手を入れる。
女性にしては大きめなのだめの手が真一のコートの内側でわきわきと動く。
「温かいデス♡」
「…ったく、何で手袋持って来なかったんだよ」
のだめは真一を見てにっこり笑う。
「嫌いなんデス。締め付けられるし、嫌な汗かくし」
「俺がいなかったらどうするんだよ」
のだめはそれ応えず、ただニコニコと笑うだけ 。
のだめの笑顔に勝てない真一はぐっと言葉を詰まらせ、内心で悪態をついて、ぷいっと横を向いた。
二人がいるここはアムール(愛)の国。
歌う様に甘ったるい愛の言葉をはくフランス人たちの中で、無骨で不器用な日本人の精一杯は幼げで微笑ましい。
「あんだよ///」
「何でもありません」
のだめはポケットの中で真一の手をぎゅっと握り、ワンテンポ遅れて真一の手ものだめの手を握る 。
「真一くんがず~っと、ずっと傍に居てくれれば私の手は温かいのデス」
のだめは嬉しそうに真一にすり寄る。
真一は何も答えなかったけれど、柔らかく甘く微笑みが返事だった。
時は過ぎ
「喉は冷やしちゃダメだっていつも言ってるだろ」
真一とのだめの息子・千秋奏(かなで)は自分の首に巻いていた黒いストールを外し、隣にいた銀髪の少女に優しく巻きつけた。
「ねえ、真一くん」
少し遠くから二人を見ていたのだめは、近くの赤いソファで譜読みをしている夫に声をかける。
「何だ?」
「奏くんって格好良いデスね」
「ああ」
お得意の生返事だ、とのだめは真一を睨むが、もちろん真一は気づかない。
真一はのだめに応える振りをして、その意識は100%楽譜に向いている。過去の偉人たる音楽家の声に耳を澄ますこのひと時は、真一の至福のひと時だった。
それをのだめはよく知っていたから
「真一くんよりも格好良いですね」
「ああ…………はあ!?」
お得意の生返事では済ませられない言葉に真一はペンの動きを止め『どこが?』と問う真一の自信と呆れの混じったドヤ顔を愛息子と見比べたのだめは力強く頷く。
「うん、やっぱり奏くんの方が格好良いです。あのマフラーをつけてあげる手つきなんて堪りません」
「…おい」
「笑顔も凄く甘くて優しいデスし♡」
のだめの周りで乱舞するハート。
愛妻の蕩けた瞳に自分以外が映るのは許せない、それがたとえ血を分けた息子でも決して許せない、許容力がノミレベルの真一。
「羨ましいデスぅ」
「お前、いつも自分のマフラー巻いていたじゃねえか」
嫉妬八割の真一の言葉にのだめの熱い瞳がすうっと冷め、その冷え切った視線が真一に向けられる。
「ポイントはマフラーそのものじゃなくて、あのすっごく優しい心遣いデス」
「俺も優しいだろうが……ってため息を吐くな」
真一の言葉にのだめは軽くため息を吐き、文句を言う真一の目の前で人差し指をチッチッチッと数回横に振る。
「思いやりってやつですよ…っ、て、うきゃ!」
奇声をあげたのだめの身体は真一の腕の中で、驚いたのだめの顔と向かい合うのはニヤリと笑う顔。
「こういう思いやりなら、得意だぞ」
「ちょっ…意味……違っ…っ」
のだめの背に回す真一の腕にぐっと力が籠り、背を反らせたのだめの唇と真一の唇が重なる。
混じりあう二つの体温。
重なり合う唇の摩擦で増す温かさ。
「…で?」
唇が離れた最初の一言は何かを問うもの。
未だ甘さの残る吐息を伴いながらのだめは首を傾げる。
「アイツと俺、どっちが格好いい?」
軽く開かれたのだめの目に呆れと諦めの表情がうつる。
「相変わらずネチネチですね」
「響ってやっぱりのだめの娘だよなぁ」
日本での仕事が大学時代の友人の峰龍太郎にバレ、遊びに来いって煩いからと真一は裏軒に来た 。
『パパとお出かけする』という愛娘・千秋響(ひびき)と二人きりの外出は久しぶり。
しかし、真一の御機嫌は裏軒(ここ)までの短いものだった。
「何か複雑だな」
真一の目の前では仲睦まじい青年と少女。
龍太郎に良く似た彼の息子・良太郎とのだめに良く似た響が寄り添い楽しそうに笑ってる。
「のだめとお前がイチャついてる感じ」
「おおっ!! 言われてみりゃあ、そうだなぁ」
龍太郎はニヤッと真一に笑いかける。
「結構お似合いじゃ…「響!!」」
龍太郎のセリフを戯言とぶったぎった真一で、名前を呼ばれた少女の母親譲りの淡い髪の頭がぴょこんっと動く。
「なあに、パパ?」
響の手は良太郎の身につけたコートのポケットの中で。
明らかに嫌そうに振り返る響に、明らかに不機嫌なオーラを振り撒く真一に、良太郎はため息を吐きたくなった。
「帰るぞ」
「え~……パパ、独りで帰りなよ。響、もう少し此処にいたい」
娘の心無い言葉がぐさりと真一の心を刺す 。
娘の反抗的な、というより冷たい対応に真一は口を開きかけたが、
「ねえ、パパァ」
次の瞬間パタッと閉じた。
目の前では可愛く甘える愛妻に良く似た愛娘。
「お願い」と少し潤んだ瞳で、上目遣いで、真一を見上げる仕草をするのは可愛くって仕方が無い娘。
「……解かった」
わあっ、と 歓声を上げた響はぎゅっと真一に抱きつく。
「パパ、大好き!!」と言う可愛らしい笑顔に混じるのは勝ち誇った表情。
その顔は母親よりも父親に似ているけれど、良太郎に走り寄って笑いかけて、メンズのコートに手を突っ込む響は昔ののだめを見ているようで
(遺伝子ってすげえなぁ)
龍太郎は呆れた様に笑った。
※ふたりの息子・奏の隣にいた銀髪の少女については次のシリーズで読めます。少し暗め、8~9割オリジナル設定です。
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END
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