のだめカンタービレの二次小説で、原作終了後で千秋とのだめは恋人同士です(婚約中)。
恋する万葉集シリーズで、イメージした歌は「恋ひ恋ひて 逢へる時だに 愛しき言尽くしてよ 長くと思わば」。万葉集にある大伴坂上郎女の歌です。
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「また先輩は仕事デスか」
のだめは溜め息を吐くと持っていたレッスンバッグをソファに放った。
ー 俺はお前と違って大安売り中だからな ー
千秋がそういって自嘲的に笑ったのは謙遜じゃなかった。本当に千秋はガツガツとエリーゼに馬車馬の様に働かされている。常に勉強か仕事、これが今の千秋の日常だった。
世界ののだめさんに追いつけないからな、と千秋は言う。
ピアニストと違って指揮者は有名になるまで時間がかかるのは千秋も知っているはずなのに千秋は努力する。お先に失礼しマス、と言ったのだめの為に。
「いえ、のだめの為だけじゃないデス。先輩は三度の飯より音楽が好きデスからね」
のだめは年齢より幼く見える顔を歪めた。
楽しそうですもんね、とのだめは机に積み上げられた譜面を突き バサッ…バサバサバサと譜面の山を崩すと「うきゃっ!?」と奇声をあげた。
慌ててのだめは散った譜面を拾う、「あわあわ」と静かな部屋に響くのはのだめの声だけで
「怒鳴り声でもいいから聞きたいデス」
何やってんだ!!、と怒る千秋の声でもいいからと、千秋の声を聴きたいとのだめは想い左手の薬指で光る指輪をジッと見つめた。
『沈黙は金なり』という人生の先輩から学んで千秋から手に入れた指輪。
約束くらいしていくよ、と確かにあのとき言っていたが。それでどこに行くのか、行ってしまうのか。
あの日以来千秋は世界中を文字通り飛び回り、部屋に帰ってくるのは寝るためと言っても過言ではない。「お前一人でどこまで行ってんだよ」と言いながら、「お前に追いつかないといけない」と言いながら。
「のだめはココにいますよ」
別に待っている訳ではない。
待とうものならあのプライドの塊である俺様男は怒るに違いないし、のだめも待ってるだけではいられない。
あの音楽狂は追い抜いたことも気づかずに周りを見ることなく突っ走って行くに違いないから。
「面倒な男デス」
だから待つだけではだめ、待つ”振り”をして美しい音楽を奏で、音楽馬鹿の千秋を引き寄せる。
言っても聞かないのだから、奏でて自ら罠の中にやってくるのを待ってやる。
「黙って待つのが良いんデスかね」
さすがに忘れられそうデスけど、と降り出した雨が寂しさを一層誘う。
両想いだと思うけど、状況を考えればどう見ても片想い。逢いたいと思っているのは自分だけ。
「真一くんの…バー…カ」
どうせ今日も帰って来ないだろう。だからのだめもピアノを弾いて待たない。そんな夜があっても良いだろう。
「一人で空けちゃいマスからね。一緒に飲む約束は時効デス」
冷蔵庫から取り出したのはピリッと冷えた辛口の白ワイン。今度一緒に飲もう、と約束したのは三ヶ月以上前のこと。
のだめは慣れた手つきでワインを開けると、お気に入りのグラスにドボドボと注いだ。
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