Serinette (4)

のだめカンタービレ

のだめカンタービレの二次小説で、真一×のだめの息子・奏(オリジナルキャラクター)が主人公の恋物語です。

この物語の主人公は「セリネット」と呼ばれる、謎の多い美しい少女で、千秋一家に保護されます。

第3話から少しずつ少女の過去が明らかになります。

<< 第3話

『のだめカンタービレ』のキャラクターが登場してきますが、もはや別の話で8~9割オリジナルの物語です。

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セリネットはまぶたを通して感覚を刺激する朝陽を感じながら意識を浮上させた。

ここで暮らすようになって、ピアノやヴァイオリンの音に包まれて目覚めることが日課になった。

 (ピアノの音、この音はカナデさん)

よく知るのだめと似ているけど違う音にセリネットは耳を澄ませ、音を吸い込むように深呼吸して目をあけた。

 (何で怖いと思ったんだろう、こんなキレイな音なのに)

心の中がほっこりと温かくなる音を聞きながら、セリネットは穏やかな音を立てる心臓の上に手を置いた。

[Bonjour, Serinette」

着替えを終えたセリネットが扉を開けると、家主の真一とバッタリと出くわす。

 [Bonjour, Monsieur Chiaki]

優しい笑顔に安心させられながら、セリネットも朝の挨拶を返す。

– Bonjour (おはよう) –

朝の挨拶なんて普通のことだけど、最初は戸惑った。

だって、今までセリネットの周りにいる人は朝の挨拶なく、「さあ起きて下さい。歌の練習ですよ」とそういうだけだった。

挨拶なんて必要ないと言われた。

彼女に必要だったこと、望まれたことそれはただ一つ

” 違います。もっと伸びやかに ”

機械的な指示に合わせて、ただ『歌う』ことだけ。

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 「よく眠れたか? コンクールが近いから煩いだろ」

真一は中空を指差して奏のピアノの音を言う

 「いいえ、ピアノの音は好きですから」

「…そうか、それなら良かった」

最初の朝、ピアノの音に悲鳴をあげて起きた少女。

あのときの青白い顔ではなく、血色のよい顔に真一はにこりと笑った。

「それなら良かった」

そう言って扉をあければ、一気に華やかな音が二人の体を包む。

「おはよう 真一くん、セリちゃん」

 「おはよう、のだめ」

「おはようございます」

ニコニコと現れたのだめに二人は挨拶し、真一は屈み込んでのだめの頬に軽くキスをする。

愛の挨拶を受けたのだめは擽ったそうに微笑み、持っていたカップの1つを真一に渡す。

「はい。 真一くんには珈琲、かなり濃い目デス」

少し離れたところでも香る珈琲の匂いと一緒に差し出されるマグカップ。

「はい、セリちゃん」

そういってセリネットに差し出されたマグカップは奏と響と色違いのもの。

「Merci」

”お揃い”に未だ面映ゆそうにするセリネットの頭を真一は優しくなでた。

「今夜は何時頃帰って来る?」

「6時頃デスね。 約束は8時デスから大丈夫デスよ」

下準備もバッチリ、と胸を張るのだめに満足する真一、一方で、セリネットは紅茶をもって首を傾げた。

 「今日は何かあるんですか?」

「あれ? 言ってなかったか?」

「聞いてないよ」

セリネットに変わって、呆れたように答えたのは練習を終えた奏だった。

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「誰か来るの?」

 「黒木君とジャンの家族、あとフォーレ伯爵たちだ」

「フォーレ伯爵? 確か奥さんが体調悪いんじゃなかった?」

外出なんて珍しいと言う奏に真一はただ笑うだけで応え、その表情に何かを感じた奏はそれ以上何も聞かなかった。

「賢い息子で助かる」

「腹黒い父親で苦労したおかげだね」

仲の良い父子の掛け合いにセリネットが思わず笑うと、そんなセリネットの頭を真一がポンッと叩いた

「フォーレ伯爵夫人は優しい人で子供が好きだからな。お手製のケーキを持ってくると言っていた」

「ケーキ?」

真一の言葉に母親と話していた響が反応し、父親の元に駆けつけて腰に抱きつく。

「響、ケーキ大好き。セリちゃん、楽しみだね」

目を輝かせて自分を見る響にセリネットは戸惑い

「え、でも…私は部屋にいた方が」

 引き腰のセリネットが二階の自分の部屋を見たため、のだめは心配そうに顔を歪めた。

 「もしかして体調でも悪いんデスか?」

「いえ、そんなことないです。ただ、家族の集まりに参加なんて」

 『今日は旦那様のお客様がいらっしゃいます』

女性の低い陰気な声がセリネットの頭の中で響く。

『決して部屋から出ること無いように』

丁寧でありながら見下すような言葉、そう言われた夜は音楽を大きな音でかけて外の音が聞こえないようにした。

外の賑わいが微かに聞こえてくる長い夜、広い部屋や大きなベッドに一人でいると寂しかったから。

「んもう、何を言ってるんデスか」

暗い想い出をのだめの明るい声が吹っ飛ばし、何年間も聴き続けた陰気な声を霧散させていく。

「セリちゃんも千秋家の一員デス!嫌じゃなければ参加して下さい」

 「そうだぞ。俺とのだめが手によりをかけて料理を作るんだから」

興奮するのだめの頭に真一は手を置き、その傍では響が「呪文料理~♪」と嬉しそうに笑っていて、

(良いの…かな)

「セリも参加しなよ。きっと楽しいよ」

戸惑うセリネットの背を奏が押す。

ニコニコとほほ笑む四つの顔は、明るく自分を受け入れてくれる笑顔だったから、

「はい」

 セリネットは明るく頷いた

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 「わあ」

目の前であがる炎にセリネットは声を上げ、そんな少女に真一は優しく微笑んで注意を促した。

 「その鉄板は未だ熱いぞ。気を付けろよ、二人とも」

 「はーい」

「はい」

元気良く応える二人の少女に真一は笑い、味見と称して料理のいくつかを小さな皿に載せて渡す。

 「美味しい!」

「それは良かった。じゃあ、次は…「ただいま」…お、おかえり」

年相応の無邪気なセリネットの言葉に笑った真一の耳に、帰宅を報せる息子の声が届く。

その瞬間目の前の少女がはパッと銀色の顔を息子の声の方に向け、嬉しそうな表情を浮かべるのに片眉をあげてからクスリと笑った。

 「奏を迎えてやってくれ。ちょっと手が離せないからな」

 「あ、はい」

パタパタとかけていくセリネットを見送った響は父親を見上げ、

 「ラブラブ♡」

「お、気付いたか?」

娘の言葉に真一は笑う。

「だって響はフランス人だもん」

「そうだったな」

老いも若きも恋をする、それがフランスというところ。

響の小生意気な笑顔に真一は笑い、手元の料理を再開した。

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 「お帰りなさい」

帰宅した奏を出迎えたのは銀色の髪の少女で、家族ではないその存在に奏は少し胸がくすぐったく感じながら「ただいま」と告げた。

「今日はセリが出迎えてくれたんだね」

「はい。ムッシューは料理から手が離せないからって」

「響は料理から口が離せないんだろ?」

妹の食いしん坊を揶揄する奏の言葉に、セリネットはフフフッと微笑む。

「そうだ。セリ、いま忙しい?」

「いえ?ムッシューの料理を手伝っていたわけではないので。」

「父さんなら一人で大丈夫だよ。ちょっと楽譜探しを手伝って欲しくて」

了承したセリネットを連れて奏は両親の書斎に向かった。

「この部屋に入るの初めてです」

「あれ、そうだっけ?」

奏が扉を開けると、少しだけ湿気た紙の香りが二人を出迎えた。

においの元は壁一面の書棚にある新旧様々な楽譜たち。

 「えっと……確かこの辺にあったような……」

ゴソゴソと漁る奏の傍らで、セリネットは物珍しそうに部屋を見回した。

「…すごい楽譜の数」

感嘆混じりの声に奏は苦笑する。

 「うちは親が両方とも音楽家だし、僕も響も音楽の学校に通ってるから増える一方だよ」

そう言って肩を竦める奏の、その困ったような風情に

パチン

セリネットの頭の中で何かが弾けた

『また増やしたら怒られるよなぁ』

「え?」

 突然響いた声に、セリネットはキョロキョロと辺りを見渡した。

誰もいないはずなのに、

『僕たちの内緒だよ』

優しい声と温かい腕の温もりを感じ、セリネットの視界が揺らいだ。

一方で、

「セリ?」

突然少女の頬を伝った涙に奏は戸惑った。

さっきまで楽しそうに笑っていたのに、今はまるで何かを求めるように泣いていて

「私、この香りを知ってます」

戸惑う奏ではなく別のどこかを見ていて、その風景を閉じ込めるようにセリネットは目を瞑った。

自分の心に浮かぶ風景以外に決して気を逸らされないように。

「もう、また新しい楽譜を買って」

女の人の、愛情のこもった優しい音で叱る声。

『だって僕らも好きだし』

力強い腕が遠のき、代わりに包むのは優しく、それでも強く抱きしめる腕の感触。

『好きなの?』

自分に向けられたような温かい声は、あの部屋で聞いていた陰気な声とは違う優しい音、のだめに似ていて、のだめとは違う音。

「あなたは、誰?」

『二人が好きじゃしょうがないか、それじゃあリクエストに応えて』

諦めたような息の終わりから始まる優しい歌声。

「椿姫の、『乾杯の歌』が聴こえる」

テノールの男声ではなく、女性の伸びやかで華やかな歌声。

それに重なってくる、冷たい見下す瞳。

『椿姫の”乾杯の歌”を歌いたいだと? 何を馬鹿なことを』

自分のお願いを唾棄するように断る冷たい声。

温かな歌声が遠ざかるから、セリネットは必死に手を伸ばした。

温かい歌声の向こうに女の人が立っていて、

もやは徐々に形になり女性に代わる

”……”

赤い紅を塗った口が動き緩いカーブを描く

まるで記憶を探るセリネットを励ますように

「お兄ちゃん!!」

パチンッ

「…あ」

霧がパッと晴れたような感じにセリネットは目を開け、夢現のような感覚に陥りながら周囲を探る。

「カナデ、さん?」

 セリネットの目が響の口を塞ぐ奏でとまる

「セリ……大丈夫か?」

響の口を自由にして、ボーっとしているセリネットにそっと奏が声をかけると、セリネットは機械仕掛けの人形のようにこくりと頷いた。

「…とりあえず出ようか」

奏はセリネットの冷え切った指を手に取った。

「何か温かいものを飲もう」

 セリネットは奏に促されるまま書斎の出口に向かったが、心の一部を書斎に残したままだった。

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「奏、今度は私と一緒に演奏しましょ」

 黒髪の少女が奏の隣からいなくなると、その間を埋める様に金髪の少女が奏の隣に収まった。

その光景にセリネットの胸がチリリと痛んだ。

自分と年が変わらない少女たちだけど、彼女たちがセリネットの目には眩しく映った。

奏との演奏を終えた黒髪の少女は、新たなピアノの音が響く中、両親と思わしき大人のもとに行く。

パチンッ

物静かな雰囲気の黒髪の男性。

明るい雰囲気の、ロシア系の整った顔立ちの女性。

パチンッ

セリネットの頭の中で何かが弾けたが、突然肩を叩かれてそれは吹き飛び、

「おっと、驚かせたな」

振り返ると申し訳なさそうな真一と、年老いた男性が立っていて、

パチンッ

 セリネットは老人の目の中にも何かを感じた。

 「……セリネット、こちらはフォーレ伯爵」

「あ、初めまして」

(”初めまして”? あれ?)

言い慣れない言葉への違和感はずっとあったけれど、千秋家の友人だと紹介された人たちにも言ってきた言葉なのに

「家内が作ったんだが、ぜひ君に」

違和感に顔を歪めるセリネットに、伯爵はケーキの乗った皿を差し出す。

お店のものとは違って家庭的な、華美な飾りなどないシンプルなシフォンケーキ。

パチンッ

『またそんなに甘いものを食べて』

再び聴こえるのは女性の叱る声と、優しく抱きしめるさっきのとは違う温もり。

『少しは多めに見て欲しいなぁ、孫を甘やかすのは私たちの唯一の楽しみなのだから』

少しバツの悪そうな、いい訳じみた声。

「老人の唯一の楽しみでね。私の自慢のケーキさ」

パチンッ

パチンッ

(何、これ?)

温もりの中で聞いた声は目の前にいる人とよく似ていて、ふらりと揺れた視界の中、ケーキののった皿だけがやけにクリアに見えたから、

「い…ただきます」

千秋家で習った言葉を告げて一口放り込む。

なぜそうしたのか理由を問われても困るが、ただそうすることが自然に思えたから。

(あ…!)

口の中に広がる優しい甘み、懐かしい味。

途端に降り注ぐ記憶たち。

真っ黒な記憶がセピア色に、セピア色に染まっていた記憶が色を取り戻す。

それはとても温かい、懐かしい記憶たち。

「お……じい……さ……」

ぐらりと大きく足元が揺れると、次の瞬間視界に広がる天井。

「セリッ!!」

セリネットの耳に、真一の焦った声が遠くに聞こえる。

 意識が遠のくのを感じながら倒れていくような感覚をセリネットは意識した。

ガタンッ

薄れる意識の中で聴こえた大きな音に少しだけ顔を向ければ、

(カナデ、さん?)

奏の驚いたような目を目が合ったが、それを最後にセリネットは意識を失った。

第5話 >

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