Serinette (3) /のだめカンタービレ

のだめカンタービレ

のだめカンタービレの二次小説で、真一×のだめの息子・奏(オリジナルキャラクター)が主人公の恋物語です。

この物語の主人公は「セリネット」と呼ばれる、謎の多い美しい少女で、千秋一家に保護されます。

第3話から少しずつ少女の過去が明らかになります。

<< 第2話

『のだめカンタービレ』のキャラクターが登場してきますが、もはや別の話で8~9割オリジナルの物語です。

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(来たばかりだけど…もう疲れた) 

真一の車で来たショッピングモール、滅多に足を運ばない混雑した空間に奏はげんなりとした視線を向けた。

「あ、あの…私のせいですみません」

ため息を吐いた奏に隣にいたセリネットが謝罪すると、ハッとした奏が慌てて首を横に振り苦笑した。

「君のせいじゃないから…元凶はうちの変わり者(父)だから」

奏の答えに納得しかねる風にセリネットに奏は困惑し、納得してもらおうと少しだけ本音を交える。

「ただ、もう少し人が少ないと良いよね」

弱音を吐くように奏は呟くとセリネットの手を優しくとった。

「迷子にならないようにしないとね」

繋がれた手に、のだめや響とは違うその大きさと力強さにトクンとセリネットの心臓が跳ねる。

緊張するのに話したくないこの矛盾した気持ち。

「行こう」

「あ…………はい」 

 (この感覚……どこかで)

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 ― 今夜ディナーに行くぞ ―

二人がショッピングモールにいる理由は真一のこのひとことだった。

のだめと響は歓声を上げたが、明らかに戸惑うセリネット。

千秋家にとって女性の賛成は決定と同じなので、奏は反対することもなかった。

「それでは今日のお昼は買い物デス。のだめ、新しいドレスが欲しいデス」

「響も」と同じ顔で強請る妻と娘に真一は鷹揚に笑い

「それじゃあ俺は2人の服選びに付き合うから、お前はセリネットに付き添ってやれ。セリネットはのだめたちと似合う服が違うからな」

「はいはい」

「あ…あの、私は服ならこれでも…」

「せっかくのディナーに奏のお古じゃな。かわいい子には可愛い服を着て欲しいからな、おじさんの願いを叶えてくれないかな?」

「えっと…あの…」

困惑するセリネットの視界がかげる。

前を見るとセリネットを守る様に、その視界を広い背中が占領していた。

「真一くん?どうしたんですか?」

「朝の奏の顔を思い出してな。あいつもあんな目をするようになったんだなぁ」

セリネットを守る様に立ちはだかった奏の目に浮かぶ光は、真一にとっては懐かしいの一言につきるものだった。

「俺も年取ったなぁ」

「あれ?奏くんに言われたときは反論していたのに」

― おっさんの自覚は結構。あなたの師匠同様、いつまでも若いつもりでいるのかなって危惧していました ―

「俺をあのエロ爺と一緒にするな」

「いや、でも朝の発言は立派にエロ爺だとおもいますよ。さすがミルヒーの後継者デス」

「そっち方面は継いでねえ」

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「セリネットはどういう服が好き?」

”好き”

奏の何気ない言葉にセリネットは悩んだ。

今まで自分の好みなんて考えたことも無かったからだった。

今日はこれを着ろと、丁寧な命令に逆らうことなど考えられなかった。

セリネットは人形だった。

だから服も食べるものも言われるままだった。

「ま、突然言われても困るか。先に本屋で雑誌を見てくればよかった…ミスったな」

困ったと言いながら周囲を見ていた奏は、ふとあることに気づいて、通りに面して窓が大きなカフェを選んで入った。

「あの…服を買うのでは?」

「まあ良いから、ここに座って。ここを通る子たちの服装を参考にしよう、雑誌代わり」

どうせ着るならセリネットの好きなものを着ないと、と奏は店員にコーヒーとミルクティーをひとつずつ注文した。

「それじゃあ早速、ああいう色はどう?」

 奏の指差した同じ年頃の少女が着た赤いワンピース 。

「もう少し柔らかい色の方が好きです」

奏はうなずき、 二人はしばらくカフェに居座り道行く少女の着る服を観察した 。

「大体こんなものかな。人込みも役に立つね。じゃあここからは僕に任せてもらってもいいかな」 

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 「どう……でしょうか?」 

30分後ピンク色のドレスを着たセリネットは頬を染めて奏の前で立っていた。

少し濃い目のピンク色は少女の銀髪に良く似合っていた。

 「うん、良いんじゃない?可愛いよ」

奏の甘い言葉にセリネットの頬が一気に赤く染まり、紅色に染まる白い肌は服と同じ色に変わった。

(う…わあ、可愛いなぁ)

『可愛い』なんて言葉で照れるセリネット奏にはこの初々しさが新鮮だった。

何せここはフランス。

その中心のパリに住む女の子は『可愛い』なんて言葉は当たり前のように受け取るのだ。

 「あ…ありがとうございます」

火照る頬を隠そうとする仕草に誘われ、奏は銀色の頭を優しく撫でた。

そんな奏にセリネットは物問うような視線を向ける。

「ごめん、ごめん。でも可愛いくって」 

撫でる手と向けられた瞳の優しさに、セリネットの心が音を立てて鳴った。

(嬉しい) 

胸に沸き上がる甘酸っぱい幸福感にセリネットの表情が自然に笑顔になる 。

「……っ」

目の前の少女のふんわりとした笑顔に奏は心臓を鷲掴みされたような感覚に堕ちた。

 (ま……さか、ね)

こんな幼い少女にあり得ない。

覚えのある感覚を奏は否定して、

「さ、もう一つのワンピースも着てみようか」 

躊躇するセリネットの手にクリーム色のワンピースを押し付けて、奏は彼女をドレスルームに押し込んだ。

触れた背中の温もりと

手をすり抜けた銀色の髪に

 触れたいと感じた事実に気づかない振りをして

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  「美容院?」

クリーム色のドレスを着たセリネットは戸惑う瞳を奏に向け、父からの伝言に従っただけの奏は苦笑を返すしかできなかった。

「チアキ様からご連絡いただいています。しばらくお待ちいただけますか?」

申し訳なさそうなスタッフの案内にしたがってソファに身を沈めながら、美容院まで気が回らなかった己の未熟さを奏は悔いた。

未だ父親にはかなわないのだと痛感させられる。

「 緊張しますね」

「大丈夫だよ。ほとんどまとめに来ただけだから…でも、勿体ないな」

さらさらと揺れる絹糸の様な銀の髪はとても美しく、軽く髪をひかれる感触に隣を見たセリネットは驚く。

そこには指にからめたひと房の髪に口づける奏がいたから。

「正式な場だから仕方ないね。ここまで来たら徹底的にやろう」

 そういってにっこり笑った奏が髪を離し店内に誘うまでセリネットは呼吸ができなかった 。

「Kanadeはムッシュ・チアキに似ているんですね」

突然始まる真一とのだめのラブラブにあてられて火照るセリネットにのだめは笑いながら、『あの瞳には勝てないんですよねぇ』と語っていた。

(あんな目で見つめられたら…)

情緒を育てるためと言われ、セリネットは読書することが推奨された。

中には少女ならば誰もが憧れる恋愛物語もあった。

「父さんに? それって褒められている気がしないな」

「…そんなにイヤなんですか?」

「正直に言えば悔しいだけ。血がつながっているゆえの苦労だよ」

肩を竦める奏の隣に座りながらセリネットは自分の手のひらをじっと見た。

(血、か…私のお母さんやお父さんってどこにいるんだろう)

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「どうです?」 

美容院の中、セリネットが座る席がよく見えるカフェで真一は前にいる老紳士に問い掛けた。

「チアキの言う通り本当にカナリアにそっくりだな」

緊張した面持ちのセリネットを一心に見つめながら老紳士の手はぶるぶると震えていた。

「でしょう?ふたりの面影が彼女の中にはありますよ。年齢からみて娘で間違いないかと」

「生きていた…か」

老紳士の瞳が涙でうるみ、視界の中のセリネットが大きく揺らいでぼやけた。

「あの小さな、私たちのお姫様が大きくなって」

”あの日”のことは昨日のように覚えている。

― 行って来きまーす -

元気に手を振る銀色の髪の幼子と

― ポルタ・ロッサへ指輪を買いに…なんて何処で覚えたんだか ―

― 娘に好きな子が出来たからって泣かないの -

仲良く出かけていった息子夫婦。

見送って数時間後、老紳士のもとには息子夫婦が事故に遭ったという報せを受けた。

急いで病院に駆け付けたもののすでに息子たちの体は冷たくなっており、そこにいない孫娘に希望を見出したが、あれからずっと消息が不明だった。

事故が起きた場所と状態を見て幼子は海に落ちて亡くなったという見解だったが…

「あの子は儂の孫娘だ」

「伯爵。DNA鑑定の結果は数日ででます。それからでも遅くはないかと」

『伯爵』という地位にあり、唯一の跡取りである息子を亡くして以来ずっと後継問題に揺れるフォーレ家。

伯爵家の未来を左右する判断に真一は慎重であるように提案したが

「神と君に感謝する、本当にありがとう」

「いいえ…きっとカナリアが守ったのでしょう」

― 私の宝物 -

セピアに薄れつつある過去の想い出の中でも鮮やかに微笑む銀髪の美しいひと。

まるで妖精のように華奢で吹けば飛ぶような嫋やかな見た目とは裏腹に、その中身は下町で強かに育った気風のよい姉御系。

― ノダメ、歌いたいから思いきり弾いて ―

束ねない銀色の髪を風になびかせながら、のだめの肩を抱いて楽しそうに歌う。

その声は儚げな見た目を裏切る重厚なもので。

「カナリアは神に愛された歌姫でしたから」

「あの子は神をも魅了し、娘を君に託させたのかもしれんな」

― チアキ、可愛いだろう。世界一の娘だ -

そういって赤子を抱いて見せたのはチアキの友人の一人。

世界が恋する歌姫に愛された男の優しい顔。

 「そうかもしれませんね」

 侯爵の言葉に真一は頷きセリネットを見た。

 「あの子のこと、どうしますか?」

「ゆっくりで良いから歩み寄りたい。協力してもらえるか?」

伯爵の言葉に真一は力強く頷いた。

「セリネットが二人の娘だと感じた瞬間からその心づもりでしたよ」

不審な点があり過ぎた交通事故

10年経って現れた少女

伯爵家の後継問題

 問題はまだ山のようにあったが老侯爵の目がセリネットを愛おしげに見たから

― あー、幸せだな -

その目が友人によく似ていたから。

「あの子も歌うのだろうか」

 伯爵の言葉に、母親の膝にのり拙い言葉で楽しそうに歌っていた幼子を思い出す 。

「声も母親譲りですよ。神に愛されし歌声がまた聞けますよ」

頬に一筋涙を流す伯爵から目をそらし、真一は新聞に載っていた男の顔を思い出していた。

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