Serinette (5)

のだめカンタービレ

のだめカンタービレの二次小説で、真一×のだめの息子・奏(オリジナルキャラクター)が主人公の恋物語です。

この物語の主人公は「セリネット」と呼ばれる、謎の多い美しい少女で、千秋一家に保護されます。

第4話で少女は過去を思い出しました。

第5話では黒木夫妻の娘・露と、ジャン夫妻の娘・アンジュが登場します(どちらも奏LOVE)。

<< 第4話

『のだめカンタービレ』のキャラクターが登場してきますが、もはや別の話で8~9割オリジナルの物語です。

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「Serinette!!」

突然大きな声をあげ、演奏を放り出して走り去った奏を呆然と見送ったアンジュは、奏の肩の向かうにいる少女の揺れる身体に気づいた。

「キャッ」

倒れると思った瞬間、思わずアンジュは目をつぶって視界を遮断し、

ガタンッ

大きな物音にアンジュは身体を震わせた。

「奏!!」「奏くん!!」

  息子の名を呼ぶ叫ぶ真一とのだめの声、続く慌てた足音にアンジュは恐る恐る目を開けて、目の前の光景に目を瞠った。

「嘘…」

少女の銀髪が隠しているが、奏の手は少女の頭と床の間にあり

「痛っ」

奏は痛みに顔を歪めていた。

無意識に奏の名前を呼び、直ぐとなりに露が続くのを肌で感じながら二人で奏の傍に膝をつく。

「大丈夫だよ」

 心配そうな両親と幼馴染を心配させないように奏は笑みを浮かべて体勢を直したが、その手から銀髪の少女を離すことはなかった。

「大丈夫だって」

心配そうな顔を見渡して奏はまた笑って体を起こすと、奏の体と一緒に銀髪の少女の体が浮かび上がる。

そんな光景は初めて目にしたはずなのに、「無理はしないで」とか「他の人に運んでもらったら」とか当然出ても良い台詞が二人の口から出ることはなかった。

 「父さん、セリを寝かせてくるよ」

「解った」と頷く父親に奏は笑いかけ、リビングを大股で横切って出ていった。

その息子の後ろ姿を見送った真一は脇に立つのだめに顔を向けると、こくりと頷いてキッチンに向かったのだめの背を見送って、老伯爵に微笑みかけた。

「伯爵、何かリクエストはありますか?」

指名された伯爵の頭に不意に浮かんだのは、懐かしい息子夫婦の結婚式のワンシーン。

『何かリクエストは? 世界のマエストロが弾きますよ』

『お前、なにを勝手に』

結婚祝いよ、と言ってウインクしてきた美しい花嫁を思い出す。

「あのときと同じ、『愛の喜び』で」

「喜んで」

真一は手短にバイオリンの調律を済ませ、弓を弦にのせて弾く。

セリネットが消えた扉をジッと見つめる老伯爵と、

(これも神の…いや二人の導きかな)

大事な二人に向けて。

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「アンジュ」「露」

ヴァイオリンの音鳴る中で、演奏の妨げにならない音で名を呼ぶ声に少女二人は同時に顔を上げ、母親の胸に抱え込まれて表情を緩めた。

「ママ、カナデがあの子を助けたの。手、大事にしているのに…大事なケガをするかもしれないのに」

「…そうね」

「手…大事にしてるのに。絶対傷ついたわ」

「ええ」

同意する母親の声に少女たちは唇を噛んだ。

『絶対にピアニストになるんだ』

小さい頃から夢を違えず、ずっとそう言っていた奏。

 「ピアニストの手なのに…手は一番大事って言っていたのに」

溺愛している響を抱き上げるときですら、奏は手に気を使う。

いずれプロになるなら手は大事にすべきだと言っていた、その奏が手を傷つけてでも守った少女。

 「「あの子は奏の『一番]なのかしら」」

己の手が傷ついたことなど微塵を気にせず、ただ少女の無事に安堵したあの姿。

真一に預けるわけでもなく、自ら傷ついた手で連れて行った綺麗な少女。

「さあ…」

少女の問いに対する明確な答えを母親たちは持っていなかった。

「多分、奏も分かっていないと思うわ…いまは未だ、ね」

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「奏くん」

奏がセリネットをベッドに寝かせるとすぐ、のだめが現れ氷を渡す。

母親の目は誤魔化せないと苦笑いした奏は、強打した甲に氷を当ててその冷たさに眉をしかめた。

「痛いデスか?」

「まあ……結構。でも大丈夫」

折れてはいない、と痛む手をゆっくり動かしながらセリネットの目じりの涙を拭う。

「良かった、頭を打たなくて。 …母さん、何が目的なの?」

「…何がデス?」

目を逸らした母親に奏は苦笑する

「嘘が下手だね」

「……………解りましたよ」

 ため息をついてのだめは立ち上がった。

「ジャンたちと黒木くんたちが帰ったら説明します」

「判った」

「で、どういうこと?」

詰め寄る息子の真剣な顔に、真一はのだめをチラリと見た後、諦めのため息を吐いた。

「…落ち着いて聞けよ。セリネットはフォーレ家の孫娘なんだ」

「…孫娘?」

単刀直入に切り出された父親の言葉に、奏は目を瞠った。

『宜しくね、カナデ。仲良くしてあげてね』

生まれたばかりの赤子の脇で幸せそうに笑顔を浮かべていた女性が思い出される。

「アンヌ小母さんの…セリは『カナリア』の娘?」

『カナリア』の愛称で知られた歌姫を知らないフランス人などいない。

神に愛されし歌声をもつ歌姫。

10年前に交通事故で亡くなった若き天才。

「…セリが」

フォーレ家は千秋家と仲が良く、アンヌが抱く赤子に奏は何度も会いに行ったことがあった。

「血液鑑定の結果は出ているんデス」

 真一にウイスキー、奏に珈琲を渡したのだめが真一の隣に座る。

「99.9% セリちゃんはあの二人の娘デス」

「でも、あの子は小母さんたちと事故で一緒に」

母親の顔が歪んだので奏は言葉をとめた。

「ごめん」

 アンヌとのだめはとても仲が良く、親友の死のことを思い出して悲し気な顔をした母親に奏は謝り、

「のだめ」

唇を噛むのだめの頭を抱き寄せて真一は優しく撫でた。

「…大丈夫デス」

夫に感謝と息子に謝罪の笑みを向け、

「あの事故は未解決事件なんデスよ」

のだめは努めて冷静に話し始めた。

「事件?……じゃあ、あの事故は」

のだめは唇をキュッと噛んだ。

「怪しい点があると警察は言っていました」

見通しの悪いカーブで起きた事故

大型トラックと正面衝突した乗用車は3人を乗せたまま海に落ちたと報告を受けた。

「子どもは見つかってなかったんです。でも」

「状況が状況なだけに四歳の女の子が生きてるとは思えなかった」

唇を噛んだのだめの言葉の続きを真一が引き継いだ。

「でも生きていた…それがセリネット」

「そうです…最初あの子をみたとき驚きました」

白いワンピースに身を包んだ少女の、親友のトレードマークだった銀の髪が街灯に光っていたあの光景。

- NODAME! -

自分を呼ぶ声幼さがあるものの、その声はアンヌの呼ばれたときとまったく同じで

「顔はどっちかと言えば父親似だけどな」

「優しげな顔をしたおじさんだったよね」

『カナデ君』

「何となくだけど覚えてる」

奏は古い記憶を掘り起こす。

書棚に埋め尽くされた部屋の中、煙草を咥えて微笑む優しげな男性が頭に浮かぶ。

  「セリネット、父さんたちの書斎の匂いが懐かしいって言ってた」

「ああ、あいつは音楽の評論家で本の虫だったからな、その記憶だろう」

「アンリは真一くんと一緒でヘビースモーカーでしたしね」

煩いぞ、と苦笑する真一の顔がすっと真剣になる。

 「奏…ここからは想像の話だが」

自分を励ますように真一はウィスキーを飲んだ。

「多分、セリネットは最近まで誘拐されていたんだ」

「誘拐!? 誰に?」

不穏当な単語に奏の頭にカッと血が上り、父親から告げられたフランスの政治家の名を聞いてもその熱は下がることは無かった。

「あんの変態爺!!!!………あれ、でもあの爺は確か」

「ああ、先日火事で死んだ……不審火との話だ」

普段冷静な息子に驚く真一の言葉に奏は身体を強張らせた。

最初に逢ったときのセリネットの姿が浮かぶ。

怯えた瞳と、銀色の髪や白いワンピースから漂ったきな臭さ。

「まさかセリが…」

「それはない」

奏の想像を真一はきっぱりと否定した。

「火事が起きた場所とセリネットが監禁されていた場所は離れている」

「監禁?」

「…窓に鉄格子はめられた部屋があったらしい。そこには10代の少女向けの衣類が残っていた」

顔馴染みの警察から聞いた話で、監禁されていたと聞いたときは怒りが沸いたが、

『マエストロ。この火事について知っていることでも?』

『いや。この前この火事の渋滞に巻き込まれてね』

興味本位さ、と誤魔化して真一はセリネットを守ることに決めた。

「奏」

「…何?」

 「セリネットは倒れる寸前に伯爵を”おじいさま”と呼んだ」

「じゃあ記憶が?」

 奏の言葉に真一は唸った

「さあ…どこまで思い出したのか。何しろ4歳までだからな」

「4歳……10年も監禁を……」

奏は唇を噛んだ

人生で初めて何かを殴り倒したい衝動に駆られる

何かを耐える様にこぶしを握る息子を見て、娘の言う「ラブラブ」が真実なのだと分かって、

(マジかよ……これもあんたの仕業、か?)

『カナデ、この子のお婿さんになってね』

逢うたびにアンヌは奏にそう言い、腕に抱く赤子には

『ほら、未来の旦那様よ』

そう言っていて、

(あと2年は待ってくれよなぁ…はあ)

何しろ奏は18歳で、一方セリネットは(推定)14歳

 (あー……いざって時は別の犯罪性も考えないとなぁ)

シビアな悲劇を話していたはずだったが、不意に浮かんだ考えに真一はポリポリと頬を掻いた。

第6話>

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