彷徨う / 蒼の封印

蒼の封印

蒼の封印の二次小説です。

蒼の封印の中で彬の異母弟・楷が好きなので彼がメイン風に登場します。

ニッチな作品の二次小説な上にニッチな人物がメインとWニッチな作品となっています。

「 袖ぬるるこひぢとかつは知りながら おりたつ田子のみづからぞ憂き」

源氏物語で六条御息所が詠んだ歌です。彼女は強い嫉妬のあまり生霊となり、光源氏の恋人を殺したと解釈されている女性です。

スポンサードリンク

「幽霊が出た?」

何を寝惚けたことを言ってんだ、と言わんばかりの楷の声に報告を持って来た警備主任は羞恥で頬を染めながらも訴える。

「荒唐無稽な事なのは重々承知なのですが、何しろ気のせいだと言い切ってしまうには報告が多くて。気味の悪さに警備員の休暇申請も続々と…」

「なんと、まあ」

警備主任の報告に楷は呆れたものの 詳しい目撃談を訊くとその呆れ顔は真剣なものに変わった。

警備主任の言う目撃談はあるものに共通していた。

警備主任が退室した部屋で楷は報告書類を突いていたペンを止め 「知らないで何かあったら大変だからな」 言い訳をして受話器を手に取った。

 『幽霊探し?…そんなこと言えるほど暇なら俺の仕事を手伝え』

想定内のことを言われた楷は肩を竦めながら鬼の可能性を訴えた。

楷の真剣な声に彬の息を飲む音が重なったあと、彬は楷を自室に呼んだ。

「確かに古来は鬼と幽霊は一緒だからな」

楷の報告に彬は溜息を吐いた。

一般的に鬼は空想上のものだが、それが実は伝承だけの存在でないことを彬たちはその身をもって知っていた。

何しろ彼らはいつかの目覚めを夢見て富士の麓に大量に眠っているのだから。

「取り零した餓鬼か?」
「いや……それは無いと思う」

彬たちは鬼門全てが眠ったか確認出来ていないが、西園寺の権力を使って警察の情報を確認している。

今のところ人体の一部や何かが食い荒らした跡などと猟奇的な殺人事件の類は起きてはいない。

「行方不明者までは正直解っていないだろ?」
「お前なぁ…餓鬼が痕跡を残さないほど上品に食う…」

ぴたりと声を止めた彬の表情がさっと青くなる。

「まさか…高雄や緋子以外に生気を食らう鬼がいたと?」
「そう考えるのが妥当なんだよ」 

餓鬼は血や肉を現場に残してしまうが、生気を食らう場合は何も残らない。

生気を食われた人間は灰のように風に散り、何千、何万といる行方不明者のリストにその名が並ぶだけだった。

「報告によればすうっと姿が消えたってのもある」
「影、か」

確認できている中で、西家の長・白虎と北家の長・玄武だけが『影』の能力を使える。

いわば影は本体の分身で、生身ではないが会話や物体に触れたり、触れられたりすることはできる。

「高雄ということはないだろう」

鬼門が眠りにつくことは新旧の蒼龍によって決められたこと。

鬼門と蒼龍を何よりも大事に想う玄武の高雄が彼女たちの意に背いて動くはずがなかった。

何しろメリットも無い上に、最終的に蒼子にとって不利益になる。そんなことを高雄がするとは思えなかった。

 (では…別の鬼?) 

鬼門の生態でわかっている事はほんの僅かだと、西園寺の古文書にある鬼のことなど彼らのほんの一部だと彬は先の戦いで知った。

「狙いは? 俺か、それとも蒼子か?」

蒼子は東家の長で蒼龍と呼ばれ、最も美しい鬼と謳われた鬼門の女王だった。

彼女は蒼龍でありながら、人間の味方をする白虎の彬を愛した。

 (蒼子の奪還? それとも俺たちへの復讐?)

蒼龍には鬼を作る蒼魂を生み出す能力がある。

通常鬼は人間を捕食対象にしかしないが、蒼龍だけは鬼を作ることができた。

しかし蒼子にいま蒼龍の能力はひとつもない。

蒼子はあの日、鬼門全てを永の眠りにつかせた日、新蒼龍から追放された蒼子は彬に抱かれ、彬の腕の中でただの人間の女となった。

「どっちだ!?」
「いや、ちょっと待てよ!」

幽霊の話さえ先ほど聞いたばかりの自分に聞いても困ると楷は訴えた。

すまない、と謝る彬に楷は盛大にため息を吐く。

巷じゃあ日本経済の救世主と言われている彬だが、蒼子が関わるとただのバカな男だと再認識させられた。

「そもそも幽霊が鬼って決まったわけじゃないぞ?」

ハッとして口元を手で覆った彬に楷は苦笑し、彬の肩を叩いて力を抜くようにウインクする。

「疲れてんだよ。もう2週間くらい家に帰ってないんだろ?」
「……まだ10日だ」

「お前の場合は”もう”10日だよ」

異母であれ彬と楷は兄弟として面識はあったが、以前は涼しい顔で全てをそつなくこなす彬を楷は遠巻きに見るだけだった。

ロボットのようだった彬が今では一人の女に溺れて感情のままに動き、それを傍で見ている自分を楷はどこか滑稽に思っていた。

「とっとと蒼子を抱いてゆっくり眠れよ。欲求不満が顔に出ていて見苦しい」

「優しい言葉なんてかけてやるんじゃなかった」

彬の部屋から自分の部屋に戻って約1時間後。

自室で決裁をしていた楷の元に彬の秘書が書類の束を持って現れて「楷様でも決済が可能な書類です」と戸惑う楷を気にすることなく机にドンッと書類を置いて行った。

秘書から説明を受けると彬は急遽明日休みを取ると告げ、自分の代わりに楷を推したという。「御兄弟想いで」という秘書に楷は開いた口が塞がらなかった。

「ラスト……よくやった、俺」

自分の秘書も先に返し、一人残って彬の秘書が持ってきた書類を片付ける。ズキズキ痛むペンだこを指すって頑張った手を自分で褒める。

「帰るか」

仕事が終わったら即帰るのが楷のやり方。

ぐっと身体を伸ばして凝りをほぐすと、パチパチッと手早く部屋の照明を落として廊下に出た。同じフロアで灯りが点いている部屋は彬の部屋だけ。

(働き者だなぁ……いや、明日休みだから頑張れるんだな)

その分のツケが俺に、と楷は苦々しく思いながらエレベーターホールに行くと

「…あれ?」
「よう」

定時を過ぎているのに昼に会ったときのまま、ネクタイすら緩めずスーツをかっちり着た彬がいた。

鞄を持っていないところを見ると帰宅という訳ではないようだと楷は推測した。

「コンビニに行って何か買おうと思ってな」

楷の探る視線を察したのか、言いにくそうな彬の言葉に楷は噴き出す。

西園寺グループの総裁といっても、妾の息子で多少自由に育った彬はここら辺の庶民感覚を持っていた。

「どっちだ?」

このビルから近いところに2軒コンビニがある。1つは西の方、もう1つは楷のマンションや駅がある東の方。

「東の方が揃えが良いぜ」と楷が言えば、楷の食生活を心配した彬が近いうちに自宅に来るように誘った。

「あっちだとそのまま帰りたくなるから西の方に行くわ」
「そのまま逃げちまえばいいのに。蒼子が待ってるぜぇ」

「誘惑しないでくれ」と彬は楷の言葉にわざとらしく呻いたものの、蒼子の飯が恋しいと嘆いて楷を笑わせた。

窓ガラスに映る自分たちが目に入り、昔からは想像もつかない光景だなと彬も楷も思った。

「じゃあな」

正門前で2人は東西に分かれる。

正門を東に200メートルもいけば一気に街灯が少なくなってやたらと暗く感じる。昼間に幽霊の話なんてしたからか、風がやけに生温く感じた。

(車を呼べば良かったかな)

鬼だとなれば西園寺の1人として楷も気は抜けない。溜まった疲れと迫る闇が弱気にさせて、ちらりと背後を振り返ったとき

 「きゃあああ」 

生ぬるい風に乗って女性の悲鳴が聴こえた。

慌てて革靴を鳴らして正門に向かうと、重役の登場に警備員たちは見るからにホッとした。

「君は私と来てくれ。他は二人一組で周辺の確認をするように。怪しいものがいたら勝手に対処せずに連絡すること」

”怪しいもの”が餓鬼だったら遭遇したら危険だし、普通の危険人物だったら警察が行くのが最適。簡単な指示を飛ばした楷は警備員を1人ともなって声が聴こえてきた方に向かって走った。

楷には勝算があった。

声のした方、それは先ほど彬が向かうと言っていたコンビニのある方角だった。

 (彬がいれば鬼退治しといてくれるだろ)  

コンビニの灯りが見え頃、歩道に座り込んだ女性が二人抱き合って悲鳴を上げているのが見えた。駆け寄った楷に『幽霊が出た』と女性たちは訴える。

しかし、ここにいると思っていた彬はおらず、自分たち以外に男が駆けつけなかったかと訊ねれば女性たちは首を横に振った。

気づかなかったのか?と思いながら楷がスマホで電話をかけると『何だ?』という彬の声がすぐに聞こえたから幽霊が出た旨を報告した。

『どこだ?』
「コンビニ前、お前が行くって言ってたコンビニだよ。お前こそ今どこだ?」

『会社の部屋。何を言っている…コンビニ?俺はずっとここにいるぞ?』
「…はあ?」

『とりあえず行く』という言葉を最後に通話は切れ、ツーッと電子音しか流さないスマホを見ながら、マジかよと楷は頭を抱えた。

楷の予感は直ぐにあたった。

「楷…待たせ…「きゃああああああっ、さっきの幽霊!」…は?」

彬を指さして悲鳴を上げる女性2人に、やっぱりと楷は溜息をついた。

 「…楷、笑い過ぎだ」

翌日休みをとった彬の家を訪ねた楷。

ことの顛末を笑いを堪えながら報告する楷に彬は不貞腐れた顔を向け、その拗ねた様な表情が楷の笑いを更に誘った。

「だってよ、蒼子に逢いたくって生霊になるなんて」
「…俺も驚いているよ///」 

歯に衣着せぬ楷の表現に彬は頬を染め、その視線を同じソファに座る蒼子に向ける。

「知っていたなら教えてくれれば良かったのに」
「ごめんなさい、でも寝惚けて影になってここに来る彬って可愛くて」

蒼子は舌を出して頬を染める。

可愛いと言われた彬も顔が赤くなる。

「それに、すっごーーく甘い言葉で口説いて来るんだもの。甘いし、情熱的だし、もう嬉しくって」

喜ぶ蒼子に文句を言うこともできず

「すごく素敵だったわ」
「それはどうも」

死にたいほどの照れ臭さを感じながらも、こうも嬉しそうな彬を見たらそうとしか言えなかった。

蒼子の頬を染させる影の所業、それを彬も薄らと覚えていた。

それは夢だと思っていたのに。

愛しているよ

大好きだよ

お前がいれば何もいらない

蒼子に会えないフラストレーションが夢に現れたのだと、浮かれた彬は蒼子に蕩けるような台詞を吐き続け甘い時間を過ごした。

「しっかし影のくせに”コンビニに行く”なんて言い訳するとか…どんなにお前の秘書は怖いんだよ」

クククッと笑う楷の言葉は図星で、彬はそっぽ向くことしかできなかった。

「あー/// 格好悪い」

2人になった部屋で、ひたすらからかわれずっと赤かった頬を彬は冷まそうと躍起になる。

そんな彬に蒼子はクスクスと笑いながら寄り添った。実体で触れ合う温もりは実に10日ぶりのこと。

「まあ/// きちんと意識あって会うのは久し振りだな」
「そうね…あの人に甘い言葉を1万回囁かれるのもいいけれど」

続きを促すように首をかしげる彬に蒼子は甘く蕩けるようにその美しい顔を微笑に変えて

「やっぱりあなたに1回会える方がいいわ」

 蒼子は彬の唇に自分から甘く熱いキスをした 。

END

pixiv30users入り pixiv50users入り pixiv未掲載 【シリーズ】Serinette いつもの二人 じれったい二人 オリキャラがいます クリスマス クロスオーバー スパダリ セコム ハロウィン バレンタイン パラレル ブログ移設後未修正 プロポーズ(求婚) ホラー リクエスト 七夕 上司と部下 両片思い 元カノ・元カレ 原作のたられば 原作終了後 告白 大人の恋愛 夫婦 妊娠 子世代 恋人同士 恋人未満 捕らわれの姫君 未来捏造 死別 溺愛 異世界 白馬の王子様 秘密の恋人 第三者視点 素直になれない天邪鬼 結婚式 艶っぽい 花火 誕生日 過去の因縁

コメント

タイトルとURLをコピーしました