恋遊戯 / 東京クレイジーパラダイス

東京クレイジーパラダイス

東京クレイジーパラダイスの二次小説で、竜二×司です。

ちはる様からのリクエストで、イメージソングは米津玄師さんの「Flamingo」。

男女の恋の駆け引きを描けていれば良いなと思います。

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「三代目、お久しぶりです」

艶やかな声。

触れていた竜二の腕の筋肉の強張り。

声のした方に顔を向けた俺は想定内の事態に哂う。

目の前には唐紅の髪飾りをつけた、乳のでかい美人。

竜二が名前を呼んだから彼女は同じ世界の住人だろう。

けばい化粧だな、なんて相手を批評する。

俺の中の”女”にはいつも俺自身驚かされる。

”女”は恋敵を察知するのが早い早い。

竜二を見るときはベルベットを連想させるしっとりした目つき。

俺を見るときは値踏みする冷ややかな寒い笑い。

お生憎だ。

この程度の攻撃で値を上げる可愛らしい精神はもちあわせていない。

そうじゃなきゃ竜二の隣に立てない。

竜二はとにかく普通じゃない。

〇〇組の組長、××組の組長、自分より何回りも年上のやつらから至上の礼を堂々と受け入れて、頭2つ分は高い位置から見下ろしている。

生まれつき薄い色合いの髪の毛が会場の照明を受けてキラキラと鮮やかに光る。

そんな男だ、女だって思いのまま。

以前は関東トップの組の組長、今では日本トップの組の組長。

夜の蝶も昼間の蝶も捕まる気満々でわんさか竜二に群がる。

鮮やかに舞うはずの蝶はその数の多さにうまく舞えず、そんな蝶たちをあざ笑うように竜二は蝶の間をするりするりと踊る様に進んでいる。

ふらふらと好き放題のひどい男だ。

目の前の女が俺に向ける目を見りゃ分かる。

竜二がこいつに遺したのは寂しさと嫉妬。

さて、竜二は俺は何を残すのか。

俺の顔を見てはおべんちゃら。

わけわからない理由で有り難がって、俺の適当な言葉に勝手に舞い上がる。

滑り出しそうな上っ面な笑顔を縫って歩いていたら聞き覚えのある声。

誰だか思い出しつつも気になるのは司の反応。

付き合いの長さは良い方にも悪い方にも作用する。

目の前の女を見れば司がこいつをどう判断したか分かるし、誤解でないことは間違いない。

それをどう思っているのか、無表情の司からは分からない。

何の感情もうつさない瞳、嫉妬でも何でもいいから感情を読みたくて漸く思い出した女の名を呼んでみる。

…無反応。

そんな司に並の女が太刀打ちできるわけない。

俺に、司に、目の前の女は虚しいほど虚勢を張って、口遊びで過去をにおわせていく。

狼狽してみるか、否、それで司は動かない。

俺が勝手に阿呆を晒したって結果になるだけ。

まったく…女の機嫌を取る手段は分からない。

女たちは上っ面の俺の言葉に勝手に喜んできたから、過去の経験で俺が積んできたのは泡銭程度の知識。

それだって司相手に通用するとは思えない。

こんな小金で落ちる女なら惚れやしない。

以前司に俺が関係した女の名前を紙に書く出したら門から玄関までの長い紙が必要だと言っていた。

そんな中でただ1つ光り輝くのは玄関扉までたどり着いた紙の端に書いた『紅月司』だけだというのに。

「積もる話があるようなので私は飲み物をとってきますね」

お嬢然と気取ってはにかんだ笑みを浮かべた俺は参加する気もない茶番劇にさよならを告げる。

「畜生め」

自分の価値を微塵も理解していない女。

”若桜の娘”ってばれてなければ気ままなもんさ?

俺の傍を離れたとたんに周囲の野郎どもの目の色がかわる、そんなことにも気づかない。

自分自身に魅力があるってことを考えもしない馬鹿な司に毒づいて、言葉と共に吐き出した唾が床に着く前に俺は司の後を追う。

「猿芝居は終わりかよ?」

竜二の傍を離れて会場の端の窓からそっと外に出る。

猫じゃらしで呼びつけてもいないのに、気紛れな猫のように女から女へ渡り歩く竜二は俺を追ってくる。

あいにくとこの程度で騙されてやるもんか。

「第二幕が始まると厄介だからな」

主演は俺かお前か分からない第二幕。

冬の風にさらされた司の肩に俺は脱いだジャケットをかぶせる。

これは俺の女。

死ぬ時も一緒と誓い永遠を約束した。

俺の生きる世界では約束は絶対。

放っておくと地獄の閻魔に身請けされそうなほどいい女。

一瞬たりとも一人にできない。

死後の裁判も一緒に受けて、地獄に引きずって行ってやる。

「いまの女で何幕目だよ?…ったく、何幕立ち会うことになるのやら」
「酔っちまえばいいだろう」

そう言って落ちてきた竜二の唇。

避けるのも面倒で受け入れたら舌が割り込みドロリと酒の味。

ごくりと勝手に動いた喉がかっと熱くなる。

「バカ野郎、酔ったらボディーガードにならない」
「このホテルに部屋をとってあるから心配ない」

俺の言葉の最後は聴こえなかったはず。

司の唇はもう寝息しか奏でていない…本当に酒に弱いやつだ。

ぐにゃんと力が抜けた司のカラダを抱き上げる。

でへへへ、と笑う酔いどれ。

さっきのお嬢様はどこいったと言いたくなるが、あいにくと用があるのはこっちの司。

「我ながら物好きだ」

きれいな張子のこいつに惚れるなら勝手にするがいい、俺は惚れた男でも遠慮なくぶん殴る女がいい。

「…もう少し大事にして欲しいがな」

俺の愚痴は気まぐれな秋風が浚っていった。

END

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