美少女戦士セーラームーンの二次小説です。
みあ様からのリクエストでスモールレディ(ちびうさ)メインです。
スポンサードリンク
「ママ……だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ!マーキュリーにお薬を作ってもらうからね」
幼い娘に心配かけまいとうさぎは元気にVサインを作ったが、父親に似て聡い娘はなんとなく大丈夫じゃないことを感じ取っていた。
ドクドクと音を立てる心臓の音に恐怖を感じつつも作戦を考える。
「お休みなさい」
いつもと同じように寝た振りをして、うさぎのお休みのキスを額に受ける。
柔らかい衣擦れの音がして扉が開いて閉まる音がする。
廊下の床を叩くうさぎのヒールの音が遠ざかるとスモールレディは起き上がり、ふかふかのスリッパをはいて部屋を抜け出した。
ふかふかのスリッパで幼子は足音を消して、ヒールの音を辿って行く。
今日は未だ仕事が残っているのだろう、うさぎが階下に降りていくのを確認したスモールレディは急いで非常階段で下に降りた。
コツコツコツ
非常階段の出口でスモールレディが息を潜めているとすぐ傍の廊下を歩いて行くうさぎ。
こちらに気づかない様子にホッと息を吐いた瞬間、いままで規則的だったヒールの音調が乱れ「クイーン!」とうさぎを呼ぶ声がした。
ここで「ママ!」とスモールレディが飛び出しても問題はなかった。
ここは王たちとその側近しか入れないエリア。
両親と自分が幼い頃から面倒を見てくれている人たちなのだから、スリッパだろうがパジャマだろうが問題なかったのに
- ダメよ、あなたの知るべき答えはここにあるのだから -
母に似た、でもちょっと違う、例えるならば黒いベルベッドのような妖しい美しさを感じさせる声がスモールレディを押しとどめる。
トクン……トクン……
衛がうさぎを抱き上げて部屋の中に入り、その後を数人が追っていくのをスモールレディは隠れながら見届ける。
その後に無人になった廊下を軽やかに走り、衛が入って行った彼の政務室の隣にあるうさぎの政務室に入って行った。
スモールレディはこの2つの部屋が扉で繋がっていて、この扉がいつも開けっ放しなことを知っていた。
「銀水晶を停めて下さい。地球の守護は火星と金星が代わりますので」
「天王星の力を最大限にすれば太陽系に飛来する隕石は大分減らせる」
「でも……」
「警戒だけならば俺の黄金水晶の力だけで大丈夫だから」
(ぎんずいしょう…ママがおしえてくれたママのいし)
スモールレディの頭に玉座の間で白く輝く透明な石が浮かぶ。
その隣には銀水晶の対となる黄金水晶、そしてこの2つの間にある丸い穴を思い出した。
白銀と黄金の輝きの間で、何かを待ち焦がれるように存在した小さな穴。
「根本的な解決はない。銀水晶の代わりは10日、いや7日というところだな」
「分かっているわよ!でもやるしかないでしょう!!」
無情とも言えるクンツァイトの冷たい声に激昂するヴィーナスの声がかぶさる。その鋭さにスモールレディは小さく潜めていた体をビクッと震わせた。
「クンツァイトはヴィーナスたちの心配もしてるんだから。私も何かできるならしたいが、木星は地球から離れているからな」
「その分ジュピターは美味しい飯でクイーンを元気にすればいいだろ?」
「でも料理も私の処方した薬も一時的な回復しかできません。銀水晶の圧倒的なパワーをサポートするにはやはりピンク・ムーン・クリスタルが必要です」
「御子が生まれたことで銀水晶の力が大幅に減少。銀水晶の力が新たな星を生み出すのに使われたと考えるのが自然だわ」
-あらあら、まだ分からないふりをするの-
蠱惑的な声がとろりと蜜のようにスモールレディ―の思考に絡まる。
『ピンク・ムーン・クリスタル』
『覚醒』
スモールレディの頭の中で何かが爆ぜて大量の金、銀、黒の星でみちる。
- ママの病気はあなたのせいなのよ -
クスクスと笑う声。
こんな悪意に満ちた声を信じてはいけないと思っていた。
だけど。
うさぎの不調
周囲の人たちの何かを探るような眼
その他のいろいろな些細なことがスモールレディの頭に浮かび、そのたびに銀と金の星が黒い星に変わっていく。
残りは銀の星1つだけになったとき
「私はあの子を愛しているわ。銀水晶は愛の力、あの子の存在は私にパワーをくれる。あの子のためなら私は何だってできるわ」
パチン…と小さな音を立てて黒い星がまた銀色に変わる。
「あの子は大丈夫。私とキングの大事な娘、私たちの新しい希望。いつか必ずビンク・ムーン・クリスタルを覚醒させてくれる。それまで頑張れなくて何が母親?あの子の成長のサポートは私の大事な仕事なんだから」
うさぎの力強い、信頼に満ちた声が黒い世界を銀色に塗り替えていく。
うさぎの慈愛に満ちた優しい言葉が銀色を淡い紅色に染め上げていく。
- あーあ、つっまんな~い -
さらりと衣擦れの音がしたと思った瞬間に少しだけ見えたのは黒いドレスの長い裾と、それ以上に長いピンク色の髪の毛。
次の瞬間、黒い星が消えると同時に発生した濃い霧の向こうにふっと消える。
「そしていつかママみたいになりたいって言われるの。その言葉は私の勲章、銀水晶なんて目じゃない宝物になるんだから」
(ママみたいになりたい……はやく、はやく!)
淡い紅色たちが一カ所に急に集まるのを感じ、その先にスモールレディは期待と恐れを感じたとき
「なっ……なに、これ!?」
隣の部屋から驚いて慌てるうさぎの声がして、それに小さく笑ったスモールレディは意識を手放した。
「これって……やっぱりピンク・ムーン・クリスタルだよね?」
「俺はそう感じてる。マーキュリーとゾイサイトも同意見だ」
2対の目が見下ろすのはベッドに眠る愛娘の寝顔。
胸元で掲げられられるように薄紅色に輝くのはピンク・ムーン・クリスタル。
過去にちびうさが覚醒させたシーンを覚えているし、銀水晶と黄金水晶が呼応している点からピンク・ムーン・クリスタルだと2人には断言できた。
「寝惚けて…なんか夢でも見て覚醒しちゃったのかな」
「まさか(セレニティじゃあるまいし)。でも…幸せなら良かった」
「…エンディミオン?」
「君が銀水晶を覚醒させたときを…考えていたから」
うさぎを庇った衛の体が頽れた瞬間にうさぎの涙が銀水晶に変わった。
全身の力が抜けるのを味わいながら絶望に満ちた悲鳴が自分の名を呼ぶのを衛は感じた。
圧倒的なパワーを持つクイーンがいる限り、衛が黄金水晶を覚醒させたときのような”守りたい”といった気持ちがスモールレディのピンク・ムーン・クリスタルの覚醒のきっかけになるとは思えなかった。
覚醒のカギとして確実なのは銀水晶覚醒時と同等のショックをスモールレディに与えることだったが、あの慟哭を覚えている衛としては絶対に避けたいと思っていたことでもあった。
「これから頑張ろうね」
まだ子どもの心が生み出したクリスタルは小さく力も弱い。
これからたくさんの経験を重ねて育てていかなくてはいけない。
うさぎの頭の中で昏い瞳をしたブラックレディが浮かんだ。
「愛しているわ…大好きよ、スモールレディ」
言葉は大事。
どれだけ愛情を注いでいても相手に通じていなければ意味がない、それをブラックレディは教えてくれた。
あんな悲しい存在を生み出さないために、うさぎは出来る限りの手段で愛を伝えようと改めて誓った。
このときのうさぎはまだ知らなかった。
翌朝、目を覚ましたスモールレディの第一声が「まもちゃん」で、そのまもちゃん争奪戦がまた繰り広げられる光景に”ちびうさ”知る人たちが楽しそうに目を細めることを。
END
コメント