美少女戦士セーラームーンの二次小説で、原作終了後の未来のまもうさ(キンクン)です。
衛は未来でもうさぎに甘そうだと思って作りました。
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「まもちゃんって、甘いの嫌いなの?」
うさぎの声に書類から顔を上げた衛は生クリームを口の端につけたうさぎに苦笑して、食べかけのケーキを片手に持ったままのうさぎは首を傾げる。
「嫌いじゃないけれど、あまり好きでもないかな」
うさぎのように好んで食べたりはしないが食べないわけではない。疲れたときなど進んで食べたくなる。
「はっきりしないな~」
衛の回答が不満でうさぎはぶうっ不平を言う。
「下らないことだけど…好きな人のことは知りたいの!」
そんな可愛いことを言ううさぎに衛は飽きることがなかった。
衛もうさぎもお互いに公務で忙しい身。それでも午後のひとときは出来るだけ一緒に過ごしている。ただ同じ空間にいて別々のことをしているときもあって、実際にいまも衛は読書していて、うさぎはケーキを食べている。
二人で同じ空間と同じ刻を共有することが何よりも幸せだった。
「じゃあねぇ、猫と犬どっちが好き?」
「猫」
「白と青、どっちが好き?」
「白」
他愛も無い二択問題に、衛は本を読みながらもしっかり応える。まだ質問は続き、「それじゃあねぇ…」とうさぎが言ったとき
knock knock
「あーあ、もう時間か」
衛の襟についた鎖を引っ張って懐中時計を取り出したうさぎはため息をつき、「頑張ってこいよ」と激励する衛にぷうっと頬を膨らませた。
「何だ?」
「…何か愛情が感じられない」
さらに頬の袋を大きくするうさぎに衛は苦笑して、うさぎを手招きで近づかせる。トコトコとうさぎが歩み寄ると、衛はうさぎの腰に腕を回して優しく短いキスを落とす。
「…甘っ」
うさぎの口の中に残っていたクリームの甘さに衛が顔をしかめ、その嫌そうな顔にうさぎは愉しそうに笑う。そんなうさぎを見ると衛はいつも甘ったるいきもちになるから
「来月の会議の資料は俺が作っておくよ」
「ありがと!大好き!」
初めからそれが狙いだったな、といささか早いうさぎの返事に衛は苦笑する。そして用は済んだとばかりに仕事に戻るうさぎに衛は頬杖をつき
「愛情が感じられないって?それは俺のセリフだろうが」
くすくすと笑いながら衛も仕事に戻った。
「…流石に疲れたな」
新しい季節が始まったせいか連日書類の山が続く。クイーンであるうさぎが書類仕事を嫌うため衛の担当分が毎回何割か多くなっている。
最期の書類に判を押した衛は眼鏡を外してその場で大きく伸び、目を閉じたまま手探りでマグカップを探し当てるものの中身はカラっぽ。傾けても一滴も落ちず、底で乾いたコーヒーに長い時間が経ったのだと分かった。
書類の担当分が多くても脳の性能は衛の方がはるかに上で、おそらく未だ書類と闘っているであろううさぎを思い浮かべて衛は優しく微笑む。
「うさのところに行ってみるか」
朝も逢ったし、夜だって逢う。ただ今逢えないというだけなのに。「あそこなら甘いものもあるし」と自分に言い訳して隣にあるうさぎの政務室に行くと
「・・・」
そこにいたのは大きな座り心地のよい椅子に体を預けてすやすやと寝息をたてる眠り姫。午後の陽射しが気持ちよく、衛の政務室で食べたケーキで満腹になった体はあっけなく睡魔に降伏したのだろうと衛は容易に推測できた。
「全く…風邪をひくぞ」
うさぎの着た白いドレスの裾が寝息に合わせてふわふわと揺れる。むき出しの肩を労わる様に衛は来ていたジャケットを脱いでそっとかける。
あまりに気持ち良さそうに寝ているから起こすのは忍びないという気持ちが半分、衛はこうして眠るうさぎの姿を見るのが好きな気持ちが半分。
前世(むかし)は逢うことすら許されない二人だったから。現世(いま)は同じ星に転生して共に暮らし、夜は一緒に眠りにつき、朝は一緒に目覚めているのに、いまが夢かと不安に駆られた衛は夜中に目を覚ますことがよくある。不安に弾む心臓を宥めて安心させるのは、自分の腕の中で穏やかに眠るうさぎの姿だった。
- まもちゃんって、甘いの嫌いなの? -
さっきの会話を思い出した衛の目に、すやすやと眠るうさぎの砂糖菓子のような白い肌がとまる。
「この甘いのは大好きだけどな」
衛にとってうさぎこそが甘いもの。決して飽きのこない極上の甘さが病みつき。これ以上のものはないから、他の甘いものでは満足ができなくて。
衛はくすくす笑いながら、砂糖菓子の飾りのように可愛らしい桃色の唇をついばむ。軽く、何回も、甘さが衛の体に染み込んでいく。
「まも……ちゃん?」
目覚めたうさぎが眠気の残った掠れた声で衛を呼ぶ。その声が闇の中で味わえる最も甘いものを思い出させて、痺れるような甘さが衛の背中を駆け上がる。ちらりとうさぎのデスクの上を見れば小さくても立派な書類の山。
- クイーンを甘やかさないで下さい! -
側近の女性たちの怒ったような、呆れた様な声が脳裏によみがえったが結局全員がうさぎに甘い。
「書類…手伝ってやるから早めに仕事を終えて部屋に戻ろう」
「うん!そうしたらまもちゃんとたくさんイチャイチャできるね」
純粋で無邪気なうさぎの喜びに笑うだけで衛は答え、うさぎが手渡した全体の7割強の書類を受け取る。
「…絶対に甘いって怒られる」
「甘いまもちゃんが大好き!」
甘い声も、甘い身体も、共に過ごす甘い時間も
「俺も好きだよ」
はいはい、と呆れながらも受け取った衛にうさぎは上機嫌。そんなうさぎを横目に見ながら衛はソファに座って書類を片付ける。読んで、判を押し、書類の束をどんどん片付けていく衛とは逆に、読むのも四苦八苦のうさぎは頭を抱えながら書類を処理する。
「まもちゃーん」
甘い声が衛を呼ぶから、”そこに置いておけ”とジェスチャーで応えれば、「まもちゃん、愛してる!」といううさぎの声。
「俺も愛しているよ」
現金なうさぎに衛は苦笑しつつも、心の底から願った。
共に眠り、共に起きる。
この甘い幸せが永遠に続きますように、と。
END
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