四つの恋模様(第4話) / 美少女戦士セーラームーン

四天王×四守護神

美少女戦士セーラームーンの二次小説で、四天王×内部四戦士のシリーズ(連作)になります。

今回はネフライト視点で、ネフライトとジュピターの前世(回想)が中心になります。

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ジェダイトとゾイサイトの年下の2人が想い人との距離感に悩んでいる一方で、ネフライトはまことのサポート役として仲良くやっていた。今もまことの政務室で植物に水をあげるのを見ていた。

植物好きのまことの政務室は棚という棚の上に植木鉢が所狭しといくつも並び、天井からも植木鉢がいくつも吊り下がっている。1つの鉢の水やりが終わっても順番を待つ鉢は終わりが見えず、水やりだけでも大仕事だった。

慣れた手際で水を与えていくまことを見ていたネフライトは「あっ」と声を出したが、それより先に天井から垂れていたツタに髪が絡まりまことは悲鳴をあげた。

「悪い、手を貸してくれ。傷つけたくないんだよ」

はいはい、と笑ってネフライトは手を伸ばしまことの髪から起用にツタを外す。昔と変わらない茶色の髪はネフライトの指に促らされてツタを離し、代わりにネフライトの指に巻きつく。心と同じように絡め取られる。

「俺も何か手伝おうか?」
「いいよ。私はこの仕事が好きなんだ」

名残惜しく思いつつ髪を離すと、礼をいったまことはまた同じ作業に戻る。まことが水をあげるたびに強くなる緑の香り。その香りはネフライトに前世を思い出させた。

その日ネフライトは地球国王からの書簡を預かり月の王宮にきていた。(やっぱり姫さんに似てるなぁ)と思いながらの謁見が終わると、ネフライトは月の王宮の散策を願い出た。月の王国の要と言える王宮だから良い顔はされないだろうと思ったが、意外にも女王は承諾してくれた。

「案内を断るんじゃなかったなぁ」

ネフライトの視界に広がるのは白一色。月の王宮は全て白い砂岩で作られていて、窓の外は白い空しか見えない。どこにも目印がなく、さらに人気もなかった。仕方なしにネフライトは不作法を承知で扉をあけていくことにした。

カギのかかっているか、がらんとした空き部屋が何度も続き、ゲンナリとしながら開けた扉の先の光景にネフライトは驚いた。そこには色があふれていた。誘われるように中に入ると、それらのいくつかに見覚えがあることに気づいた。

「これは地球の植物か?」

いままでの無機質な空間とは真逆の生命力に溢れた色とりどりの世界。惹かれるように庭園の奥に進みながら、ネフライトは天井が透明なドームになっていることに気づく。それと同時にひらけた場所に出ると、そこには木でつくられた机があり、その上には顕微鏡やシャーレがのっていた。

「ここは研究所か?」
「そんな御大層なもんじゃないですよ」

突然聴こえたのは女性にしては低い声。その声にネフライトは聞き覚えがあった。2組の目が合うと「なぜ此処に?」と目線だけで訊ねあい、分の悪いネフライトが先に迷子になったことを告げた。

「そういうわけで偵察していた訳ではないのです」
「ネフライト殿はそんな人ではないと分かっています。貴殿は細かいことが苦手そうですもの」
「あなたも似たようなものだろう」

雷神の娘と言われ、強固な城壁さえも雷一撃で壊してしまう彼女は月の戦士の1人。他の戦士よりも豪快な攻撃力を揶揄するように言い返すと彼女は驚いたような顔をして、一方で女性に失礼なことを言ってしまったとネフライトは後悔を顔に浮かべ、結局2人は同時に噴き出すことになった。温室に楽しい笑い声が響いた。

ぐううううううぅぅ

「…」
「…何時間迷子になっていたんです?」
「昼食を食べ損ねたのは確かです、ので、何か恵んで貰えませんか」

女王の今日の予定を思い出したジュピターは苦笑して、「良ければどうぞ」と笑って庭園の奥に足を進めた。ネフライトは植物の枝や葉を避けながらついて行くとまた開かれた場所があって

「ここは…菜園、か?」

あちこちに植えられて、一部収穫された野菜たちも見慣れたもの。窓辺にはハーブが乾燥させてあった。

「興味あったら好きに採っても構いませんよ」
「興味はありますが…とりあえず今は何か食べたいです」

未だ青いトマトをジッと見るネフライトに彼女は笑うと、「もう少し先にありますから」といって庭園の更に奥にネフライトを案内する。

先を歩く彼女を見ながらネフライトは彼女の意外な面に驚いていた。木星の戦士であり月の王国の内部守護戦士の1人である彼女はとても強い。それだけなら他の戦士たちも同じだが、彼女たちよりも頭1つ大きく広範囲に強烈な雷撃を繰り出す彼女を誰もが”雄々しい”と表現した。事実、ネフライト自身も彼女を”雄々しい”女性、猛々しい戦士だと思っていた。

この出会いはその認識、イメージを一気に覆させられた。

戦闘服ではなくシンプルなワンピース姿は彼女の女性らしい肢体を露わにし、その足取りも優雅で実に女性らしい。そして足取りに合わせるように揺れる彼女の髪。背が高いといっても男のネフライトに比べれば低く、目の前でふわふわと揺れる茶色の髪は誘っている様だった。

(…って、何を考えてるんだか)

そんな妙な考えをネフライトが振り払っていることも知らず、前を歩いていたジュピターは目の前に現れた木の扉を開ける。漂ってきたのはネフライトにも馴染みのあるトマトとバジルの混じった魅惑の香りだった。

「貴殿の舌に合うと良いんですが」
「これはあなたが?」
「料理が趣味なんです。パンも焼きあがったので座ってください」

ジュピターの指し示した椅子にネフライトが座ると、ジュピターは手慣れた様子で手際よく給仕し、ネフライトの前には次々と料理が並んだ。その料理は王都のレストランでよく見かける大衆料理だった。所謂”おふくろの味”というやつだが、貴族出身で生母も料理をしない人だったネフライトに懐かしさを誘う味など存在しなかったが、ジュピターの料理を食べたとき心がすとんと落ち着いた気がした。

胃袋を掴まれたネフライトは月に行くと必ずジュピターの温室に赴いた。ジュピターも毎度毎度現れるネフライトに「また来たんですか?」と呆れながらも、この時間をひそかに愉しんでいたので快く迎え入れていた。

「人の恋路なんて放っておいてやれっての」
「しかし…それは現在の月と地球の関係では難しいだろう」

2人の間から敬語が消えたころ、月と地球の関係は少しずつ悪化していた。「月の女に誑かされてはいないか」などとネフライトの部下辺りから報告を受けたらしい地球国王から先日糾弾されたりもしたが、それはジュピターには黙っていた。この頃自分でも妙によくいらだつと感じていた。何がそんな気持ちにさせるのか、以前なら笑い飛ばせたこともこの頃には怒りしか感じなかった。

「そうだ、今日もう少し月にいられるか?」

モヤモヤをどうにかしたいと足掻いていたときにジュピターの声が響き、ネフライトはハッとして顔を上げた。そしてジュピターの表情を見てぎくりと体を強張らせる。少し照れた期待するような表情、生母が新しい父親(候補)を紹介するときの表情。

「いまちょうど月の王宮に来ていて、もうすぐここに来ると思うんだけど」
「…月の王宮に来れるってことは相当信頼がある奴なんだな」
「もしかして自分のことを間接的に褒めてる?」

そういって楽しそうに笑うジュピターの様子が無性に勘に触った。脳が真っ黒に塗りつぶされる感覚がして、ジュピターの方に向けて伸ばした手も、間近に見たジュピターの驚いた瞳も、唇に触れた柔らかい感触も他人事のようだった。柔らかい肌に手を滑らせたネフライトをとめたのはこの隠れやにノックもなく、気安く入ってきた男の強い一撃だった。

ハッと我に返ったネフライトは「大丈夫か」と見知らぬ男が助け出したジュピターの顔を見たくなくて逃げだした。通いなれた道を逆にたどって、地球に向かう扉を潜ったところでネフライトは記憶を失った。

次のときには、ネフライトは白く輝く荒野に立っていた。

一瞬どこにいるか解らなかったが、嗅ぎ慣れたニオイと空に浮かぶ青い地球でここが月だと直ぐに分かった。そして軍靴の先端が焦げていることに気づき、それと同時に不自然なほど等間隔で地面に残る焦げた痕に目を向けた瞬間に記憶が戻り、周囲を見ると自分の部下たちが倒れていた。着衣のところどころに焦げ跡はあるものの、死んでいる者はいなさそうな様子にホッとする。

― 地球の者を傷つけたくはないが、そちらが害をなすなら容赦はしない ―

記憶に浮かぶジュピターの悲しげだけど力強い声。ところどころに残る丸い焦げ跡を見ると、これは夢ではないと、ネフライトの体にも雷の戦士である彼女と戦った感触が残っていた。

同時に自分が生きていることが不思議だった。

雷神の娘と畏怖されるように雷を自在に操る彼女にとって地球の兵たちなどいくら束になっても敵わない。そもそも四天王は彼女たち月の女戦士には敵わない、地球と月の同盟といっても月の好意に寄りかかっている状態。月の国がその気になれば地球など1日で壊滅させられるのだから。

― 主を守るのが私の使命。だから…友とも思える貴方を倒すことに悔いはない…でも生きて ―

雷の煌めく彼女の瞳からこぼれた涙、唇に触れた柔らかい感触。次の瞬間、まるでバラのツルに絡め取られるようにネフライトの記憶は途絶えた。

END

四つの恋模様(第4話) / 美少女戦士セーラームーン

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