四つの恋模様(3) / セーラームーン

四天王×四守護神

美少女戦士セーラームーンの二次小説で、四天王×内部四戦士のシリーズ(連作)になります。

今回はゾイサイト視点で、ゾイサイトとマーキュリーの前世(回想)になります。

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side ゾイサイト

(あの子は相変わらず本の虫ね)

衛に命じられて亜美のサポート役になった俺は、

ソファに座りながら小さく笑い手元の資料をパラパラとめくる。

亜美のような学者肌ではないが、

俺もかつては地球国随一の知恵者として名高く、この手の仕事は苦でなかった。

だからこそキングは俺を亜美の補佐にしたのだろうが、

正直居心地が悪い。

もぞりとソファの上で体を動かすと資料の文字がぼやけ、

俺の心は前世に向かった。

彼女に初めて逢ったとき、

彼女は10歳になるかならないかの少女だった。

四天王一のひねくれ者と言われていたが、

幼いマーキュリーとの議論は素直に楽しかった。

未だあどけない幼顔から飛び出す知識と知恵に、

俺は何度も舌を巻いてしまった。

彼女とはいい関係が築けていたと思う。

<それ>が壊れたのは地球と月の王国が一度滅びる1年ほど前のことだった。

メタリアの影響だろうがこの頃の地球王はおかしかった。

元は大らかで優しい人柄で有名だったのに、

常に疑心暗鬼で「月の王国が地球国を裏切る」という妄想に取りつかれていた。

息子である王子の言葉さえ聞き入れないのだ。

誤解だと月の女王が説得しても地球王は聞く耳をもたなかった。

そして王は月の戦士で女王の側近であるマーキュリーが地球に滞在することを要求した。

賓客としての厚遇を地球国は約束したが、

彼女が人質だということは誰の目にも明らかだった。

彼女は月の軍略の要だったので人質としての価値は十分あった。

彼女の幼い容姿が地球王の傲慢ともいえる要求にも拍車をかけ、

少女とはいえ月の戦士を地球国に留めるのに反対の声もあったが、

彼女が戦士としては最弱と言われていたため最終的に王の意見が肯定された。

しかし『弱い』といっても彼女も月の戦士のひとりだった。

地球に拘束されるようになってすぐ、

彼女の絶対の主である月の王女を嘲った者が彼女に瞬く間に叩きのめされた。

そこで王は考えをただして彼女を月に返せばよかったんだ。

しかし結果は地球王を逆上させ、

並の兵士では歯が立たないからと俺を彼女の監視役にした。

四天王の中で一番気心がしれているという理由だったが、

それは建前で、

本音は俺が平民の出だったからだった。

俺は王都の下町で生まれた。

幼いころに保護者たる母親に捨てられ、

スラム化した昏い街で犯罪紛いのことをしながら成長した。

住まいと食事の安定が約束された城の兵士募集に飛びつき、

俺はずる賢いから発達した知略と武力で順当に出世し、

四天王として選出されるまでになった。

俺が没落貴族から買い取った邸宅を住まいとしていたのは貴族連中への対抗心と言っても良かった。

「ここで好きなように暮らして。何か困ったら屋敷の誰かに聞いて。困らない程度には使用人ってやつを雇っているから」

「ありがとうございます」

「あと図書室ね。東の翼にあるから好きなだけ入り浸っていいわよ。何なら図書室で生活する?」

「それは名案ですね」

ゾイサイトは冗談を言ったつもりだったが、マーキュリーが真面目に頷くから思わず声を出して笑ってしまった。

でも未だこの頃は「やっぱりこの子は面白い」程度の認識だった。

「最近の旦那様はきちんと食事と睡眠をとられて良い傾向ですわ」

「屋敷に多感なお年頃の女の子がいるんだもの。残念だけど夜遊びは自重しなくちゃ」

ゾイサイトの言葉に使用人の老女はにこにことほほ笑み、

「どんな美しいお嬢様といるよりマーキュリー様とご一緒の方が楽しそうですわ」

そんな老女の指摘に俺は苦笑を返すしかなかった。

気心の知れた老女の言葉と違って、

王宮の人たちの陰口は悪意に満ちていた。

マーキュリーとの監視を命じた地球王に「月の者にほだされない様に」等と言われると、俺はげんなりとした。

「そんなに心配なら人質なんて最初っからとるんじゃねえ」

新月の夜だった。

本音を愚痴っても月にさえ聞かれることもなさそうだと思っていたから、

「私もそう思います」

静かな合の手の俺は心底驚き

お前、そんなとこで何してんだ!?」

庭園の池の中にぷかっと浮かんだマーキュリーの頭に向かって叫んだ。

「水浴びです。月と違って湿気があるからスッキリしたくて」

「水浴びなら庭にプールがあっただろ?」

「私はこっちの方が性に合うんです。泳ぎは得意なのでご心配なく」

その言葉を証明するように、

マーキュリーはドレスの裾を魚のひれのようにヒラヒラ動かして優雅に泳いでいた。

小休止なのだろう。

ときどき水面に四肢を広げて気持ちよさそうに浮かぶ。

水と戯れるニンフのようだと思った瞬間、

水から上がった彼女の姿に慌てて目を背ける

ほんの一瞬だけど、

あの光景は脳裏に焼き付いて数千年経った今も覚えている。

濡れたドレスが彼女の体にそって張りつき、

その均整のとれた女性らしい体を際立たせていた。

それは未だ子どもだと思っていた俺の認識なんて吹っ飛ぶ衝撃だった。

そんな俺に気づかないで、

マーキュリーは用意していたタオルで濡れたドレスごと体を拭き、

その大きなタオルで体を包むと警戒せずに俺に近づく。

「ゾイサイトの言葉づかいって地じゃなかったんですね。驚きました」

女言葉は本当の自分を隠す鎧だった。

本音を見せないことで常に自分を優位においていた。

彼女にその意図はないとしても、

鎧をはぎ取られて本来の姿をむき出しにされたことに、

それを指摘されたことに俺は苛立ちを感じた。

キリッと胸の奥が冷えると同時に、

氷のように冷たい感情が俺の心を占める。

この頃の俺はメタリアの影響もあり些細なことで苛ついた。

普段は何ごとも茶化していなしていた。

それがこのときはできなかった。

「ここは月と違って男もいるんだぞ

そう言うとマーキュリーの腕をひき、

その腕の細さに俺の弑逆心が刺激された。

頭のどこかで制止する声を無視して、

驚きで開いたピンク色の唇に自分の唇を重ねた。

さきほどまで泳いでいた彼女の唇は冷たくて、

気持ちいいと感じた瞬間にドンッと胸を強く押されて我に返った。

俺の腕から逃れて邸の中に走り去る彼女の後姿を見つめながら、

は彼女が好きなんだと気付いた。

それから俺は時間の許す限り月と地球の歴史について調べた。

マスターとプリンセスが一目で恋に落ちたときは物語のようだと感じたが、俺を含めた四天王たちも月の戦士たちにひかれているのを見て調べると決めた。

『なぜ月の人間との恋愛は御法度なのか』

わざわざ御法度とするには過去に何かしらの理由があるはずだったが、さかのぼって見つけたのは月の者が地球の貴族に嫁いだという記録だった。

どこの家とまでは書かれていなかったが、それが原因で爵位のはく奪などされず、子も産まれてその後も家は続いたようだった。

地球の男に嫁いだのではなく、貴族の男に嫁いだ。

爵位の返還などはない。

つまり当時の地球王もそれを認めたという事実に他ならない。

なぜ、を考えて煮詰まった。

そして多少の気まずさはあるものの、彼女に相談するべく十数日ぶりに自宅に戻ることにした。

「あらあら、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「主人を出迎えた第一声がそれか?」

「ほほほ。今日も戻られないと思ってお嬢様の分しかご飯はありませんよ?」

「そういうと思って買って帰ってきた」

「旦那様はお嬢様のような可愛らしさを身につけるべきですわね」

「彼女も特に可愛らしいところがあるとは思わないが?」

「あら、緊張が切れて熱が出るなんてお可愛らしいではありませんか」

「熱?」

「ええ、ちょうどお医者様を呼んだとことですの。まさか旦那様とは思わず出迎えてしまったのはそれが理由ですわ」

お前を出迎えるつもりはなかった、と言外に言われて俺としては怒りたくもなったが、

それよりも彼女の熱の方が気になった。

医者によると過労のような疲れによる一時的の熱だった。

環境の変化によるものかと思ったが時期が遅いと頭をひねる医者に、原因に思い至った俺は彼女のテンパり具合を感じて可愛いと思った。

「女性の寝室に男性は立ち入り厳禁」という老女のお達しに従って俺はマーキュリーに手紙を書いて老女に託した。

先日見つけた例の資料のことを書き記し、

しばし悩んで彼女への気持ちも綴ったもの。

報告書30%と彼女への想いが70%の手紙は、

俺が書いた最初で最後のラブレターだった。

もともと俺は恋愛事に悩むタイプではなかった。

好きだと気づいたなら言っておいた方が良いと思った。

良くも悪くも俺は自分のことが分析できていたのだろう。

好きと気づけば先日のようなことを必ずやらかすと分かっていた。

しかし手紙を書き終えた数時間後、

地球国王に呼び出された俺たち四天王は月への侵攻を命じられた。

突然の暴挙に俺は驚き、

他の四天王が反対しないことに二重で驚いた。

諫めることがままならない状況で思ったのが彼女のことだった。

だから俺は王子に秘密裡に城を抜けることを告げ、急いで邸に戻ると未だ体調が万全ではない彼女を担いででも月への扉へ連れて行くように老女に命じた。

「分かりました。命に代えても必ず」

信頼のおける老女の力強い返事を確認し、盟友である月への暴挙を諌めているであろう王子に助力するため王宮の門をくぐりった。

ここで俺は黒い霧に襲われて、

それ以降の記憶はない。

気づくと白く輝く荒野に立っていた。

自分がどこにいるのか分からなかったが、

空に浮かぶ地球をみてここが月だと即座に分かった。

ぴちゃり

一歩踏み出すと水音がした。

水のないはずの月面で軍靴が濡れていることをおかしいと思った瞬間、

― この先には絶対に行かせない ―

マーキュリーの優しげだけど意志の強い声が脳裏に響いた。

彼女と闘ったようだと思ってすぐ俺が周囲を見渡すと、

部下たちが倒れていた。

近くの兵士の首に指をあてて脈を測りながら、

そこかしこからうめき声が聞こえてきたことに安堵した。

安堵しつつも不思議だった。

彼女と闘って俺たちが勝てるわけがない。

月の戦士の中では弱いといっても、

月の戦士の一人である彼女の強さは四天王を軽く凌駕している。

ここにいる者は俺も含めて全員彼女に殺されていなければおかしかった。

その事実に彼女と対峙したのは夢なのかとも思ったが、

全身が水で濡れているため夢とは言えなかった。

付け加えるならば俺自身の体にも闘った感触が残っていた。

― 主を守るのが私の使命だから悔いはない…でも、貴方は生きて下さい ―

激しい痛みと共に彼女の声が響き、

おぼろげながら少しだけ思い出す。

彼女の瞳からこぼれた涙。

唇に触れた少し冷たい唇。

ここで俺の記憶は途絶えていた。

END

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