美少女戦士セーラームーンの二次小説で、未来のキング、クイーン、スモールレディの話です。
ぽよ様、まもうさすき様からのリクエストです(イメージソングがなかったため合同にしました)。
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「スモールレディがお見えです」
「あら?御一人で?」
首を傾げる亜美に秘書官が頷き、スモールレディの訪問を拒否する理由も、うさぎが聞いたら怒るだろうが権利もなかったのでケーキと紅茶の準備をするように伝えて亜美自身が自室に受け入れた。
「忙しいところごめんね」
「いいえ、どうぞこ……スモールレディ!?」
招き入れるためにその肩に触れてギョッとする。慌てて医師として彼女を見ると頬が火照って赤い。
「クイーンとキングに急いで…「待って!」……レディ?」
「ママには言わないで欲しいの。大丈夫、薬飲めば治るし」
ニコッと笑ったが、いつもの母親に似た見ている方も笑顔になる元気がなく、強がりを言っていることが分かった。忙しい母親の邪魔をしたくない、それは自分が子どものときにも感じていたこと。
「んもう、まずは温かくするのが先でしょ。レディ、失礼します」
どうしようか考えあぐねていると短いノックと軍靴が床を叩く音。顔を向けると呆れた顔をしたゾイサイトが自分のマントを脱ぎながらスモールレディに歩み寄り、優しい手つきでその剥き出しの肩にマントをかける。亜美はほっと安堵の息を吐いた。
「…お願い、パパに言わないで」
「本当にそういうところがマスターに似ていらっしゃる」
明らかな強がりにゾイサイトは苦笑して、ケーキと紅茶を持ってきた秘書官にそれを置いて下がる様に伝えた。
「マーキュリー、レディの診察をして頂戴。私はジュピターのところにいって温かいスープを作ってもらう…安心して下さい。”私が”食べたいって言って作ってもらいます。私が戻ったら医務室に薬を処方しに行ってちょうだい」
それだけ言ってゾイサイトがさっさと出て行くと、亜美は与えられた仕事をすることにした。診断ができたところでゾイサイトがスープをトレイに乗せて戻る。
「ネフライトが今朝ジュピターに”ミネストローネ飲みたい”ってほざいたらしいわ。まったく甘え上手というか、ジュピターの人が好いというべきか…まあ、今回は良かったから不問に付すけれどね。それじゃあ薬とってらっしゃい」
入れ違う様に亜美が出て行くとゾイサイトはスモールレディにスープのカップを渡したが、受け取ったものの口を付けず、何か考え込む姿にゾイサイトは苦笑する。
「先ほどマーキュリーに言いましたがこれはネフライトが強請った結果です。ジュピターの迷惑になっていませんよ」
「うん……ごめんなさい、甘えちゃって」
「あなたのお立場的にはもっと甘えても良いと思いますが……”ちびうさ”の記憶が甘えるのを邪魔しますか?」
「ゾイサイトは…”ちびうさ”を知ってるの?」
「私たち4人はあまり。基本的に私たちはマスターの部屋にいたので、そこに訪ねてきたときに見かける程度ですね」
「…私に、似てる?」
「外見は瓜二つ、それは当然なのですが、中身は似ているところもあったり、似ていないところもあったりですね。でもあなたはあなた、無理に”ちびうさ”になる必要はないです。そもそも貴女があの”ちびうさ”になることは決してありません」
ショックを受けたちびうさの顔にゾイサイトは苦笑する。人のことを考えすぎて雁字搦めになってしまう性格は自分の主そのものだと思った。
「あなたは………ああ、もう来ましたか」
「「スモール・レディ!!」」
「パパ!? ママ!?」
言ったの?、と咎める視線にゾイサイトは肩をすくめ、それを見ていた衛は深くため息を吐いてから苦笑する。
「お前の不調は朝から気づいていたよ。でもお前のことだ、私とクイーンの仕事を気にして素直に甘えようとしないだろうと思ってね。仕事は超特急で終わらせてきた。だから存分に甘えておくれ」
「パパ……」
「おかげで書類仕事は全部キングにやってもらえちゃった」
「…ママ;」
ちびうさが感動と呆れが入り混じった表情を両親に向けていると亜美が戻ってきて、状況についていけない亜美の手からゾイサイトは薬を奪うと衛に渡した。その代わりに衛は分厚い書類の束をゾイサイトに渡す。
「スモール・レディがフラフラになってここに来たなんて嘘を言った罰だ」
「愛娘が病気だから仕事を替わってくれと貴方は言えないので」
苦笑した衛は娘を抱き上げて、うさぎの肩に腕を回して亜美の部屋を出て行った。
「…私以外みんな知ってたのですか?」
「四天王は全員知ってたわ、朝キングが言ったもの。あなたたちはみんな他の仕事があっていなかったでしょ?あなたには私から伝えるように言われたけれど……時間がなかったから」
普段誰にも甘えようとしない亜美が自分が来て安堵する貴重な瞬間を心に浮かべながら、「それじゃあ私は仕事があるから」といってゾイサイトは去って行った。
「んもう!どうしてあなたはこんなに我慢するの?私の娘なのに我慢強いというか…本当にこういうところはパパにそっくり」
「パパの性格でママが嫌いなとこ」とうさぎはにっこり笑って、火照った娘の顔でつんっと尖った鼻をつまむ。そしてちびうさの手から空になったスープカップを受け取り薬を渡す。
「少しはわがまま言いなさい」
「…私のわがままはママのお腹の中に置いてきちゃったんじゃないかな。でも……そうだな、デザートにさっき食べ損ねたケーキ食べたい」
亜美の秘書が持っていたケーキを思い浮かべた娘の答えに、そうこなくっちゃと言ってうさぎは出て行った。
「あれは自分の分ももらってくる顔だな」
「ママって自由……強いからかな」
「誰かに甘えるのは勇気がいるからな…私も苦手だ。ママの言う通り、そういう考えは私に似てしまったな」
「…いけないこと?」
「うーん…いけなくはないがお前を愛する者からするとちょっと寂しい。誰だって、特に男は、愛する人に甘えて欲しいからな」
「あ、それよくジェダイトが愚痴ってる」
「…あいつは十代の少女に何をやってるんだ」
腹心の側近の情けない姿に、いつも凛として真っ直ぐ前を向き続ける強い芯をもつレイを重ねて思い浮かべた衛は「そんな日は永遠に来ないかもなぁ」と思った。
「それじゃあパパは幸せね」
「そうだな………でも」
苦しそうに顔をゆがめた衛にちびうさは首を傾げた。
一方で衛も”これ”をチビうさに言うかどうか悩んだが、ちびうさの胸にかかるピンク色のクリスタルのペンダントをみて心を決めた。自分にとってつらい記憶を蒸し返すことになるが、月の力と地球の力を受け継いでいる娘のために言っておくべくだと決心した。
「ママは最後の最後は誰にも甘えない。自分一人の力で敵を倒そうとする……それだけの力があるからだが、みんなを護るために自分の身を犠牲にする」
衛の頭には、あれから何十年も経つのに忘れられない、聖杯を胸にかかえて空を舞ったうさぎの姿が浮かんだ。
「お前は絶対にそんなことをやってはいけないよ。みんなに甘えなさい。できないなら、まずはパパ相手に練習しなさい」
「…パパに?」
「お前は私には特に甘えない…昔は甘えてくれたのに、”ちびうさ”のことを思い出してから甘えなくなった。…甘え方が分からなくなったのかな?」
図星をさされたという顔をする娘のピンク色の髪を優しくなでる。
「お前の好きなように甘えて良いよ。どんなに甘えても、お前が”あの”ちびうさになることはない。勘違いして欲しくないが、”あの”ちびうさになって欲しくないわけではない。ただ私たちはお前が”あの”ちびうさにならないように努力してきた」
衛の記憶の中の、初めて会った頃のちびうさは警戒心に満ちた冷めた目をしていた。誰にも必要とされていないと、愛されていないと感じていた。
「愛しているよ」
「…なに、突然?」
「おや、小さい頃はこんなこと言われたら”私も”って素直に言ってくれたのに。反抗期かな?」
「…私も大好き」
「良かった」と衛は微笑む。ただその笑顔の中でも瞳は真剣で、ちびうさは思わず構えた。
「どんなに私たちが愛していてもお前に通じていなかったら意味がない…それを私たちは知っている。だから私たちはお前が分かるまで愛していると言い続ける。お前が私たちに愛されていると分かっていればお前はずっとお前のままだ……いまのお前がブラックレディになることは絶対にないよ」
「…分かってたんだ」
「当たり前だろう?お前のパパだぞ?」
「ママも分かってるかな」
「どうだろう?ママはお前がエリオスのことが好きだから私に甘えなくなったと意地悪を言ってくるよ」
「あ、それはある」と笑うちびうさの額を衛は笑って突き、ふたりは同時に笑った。
しばらくすると薬が効いてきたらしい。ちびうさの目がトロンッとしてくるのを確認した衛はピンクの前髪を優しく梳いて額にキスをした。「ママの分だ」といってもう1つ追加して。
「…君はお休みのキスはしないのかい?」
「あなたが私の分もやってくれたからね」
気づいていたんだ、とうさぎは肩をすくめながら娘のために淡いピンク色と白で作った部屋に入るとベッド脇のテーブルに持ってきたケーキを置いた。そして「やっぱりやっとく」といってちびうさの頬にキスを1つ贈り、顔を伏せたまま衛の手を取ると強く引っ張り部屋を出る。
ドンッ
胸に響いた衝撃に驚きつつも、衛は胸元に埋められた金色のお団子頭から伸びた長い髪をすく。
「あなただって人のこと言えないくせに!前世じゃ私をかばって死んじゃうし、転生しても私を護って死んじゃうし!私を死なせたくないからって”さよなら”いって私を一人にするし!…ギャラクシアのは不可抗力だから除外してあげる」
「…ごめん」
「じゃああなたも、もっと、もっと、もーーーーっと私に甘えて」
「……難しいな」
「私を愛しているなら努力して」
「…敵わないな」
「それじゃあこれ以上私に娘とエリオスの進展を聞かせないで欲しいな」と衛が言うと「それは無理」とうさぎは笑い、つられるように衛も笑った。
END
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