美少女戦士セーラームーンの二次小説で、四天王×内部四戦士のシリーズ(連作)になります。
美少女戦士セーラームーンの二次小説です。四天王×内部四戦士で、シリーズ(連作)になります。今回はクンツァイト視点で、クンツァイトとヴィーナスの前世(回想)が中心になります。
今回はオリキャラや『コードネームはセーラーV』のエース(設定を一部変更)がでてきます。イヤという方は読まないようにご注意ください。
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女性を初めて美しいと思ったのは、白いドレスの裾を赤く染めるほどの血だまりの中で佇む彼女を見たときだった。彼女の周辺に転がって辛うじて息をしている者たちを見ると彼らが何の目的をもって彼女と対立することになったかは明白だった。
「原因は分かってるって顔ですね。後始末はお願いします」
「手間をかけさせ申し訳なかった」
「いいえ…でも次は殺すしますから」
死なない程度に留めたとはいえ、冥界の河が見えるところまで行ったんじゃないかと思われる重症者たちにクンツァイトが眉を潜めると彼女は嗤う。
「プリンセスを弑逆しようなどと考えるだけで万死に値する」
長い間生きてきて彼女ほど『苛烈』という言葉に相応しい女をクンツァイトは他に知らなかった。彼女は愛の女神ヴェヌスの名前を冠する金星の姫。愛の女神に相応しい美しい容姿をもつ彼女の愛情は激しく、愛する者に敵意を向ける者に対しては一ミリの情も入り込ませない慈悲のなさだった。
彼女ほど月の後継者であるプリンセス・セレニティの守護者に相応しい者はいないとクンツァイトは常々感じていた。
「私たちは似ているな」
クンツァイトがそんな言葉を投げかけたのは地球の王子と逢瀬をするため月から降りてきた姫に護衛として彼女が来たときだった。護衛とはいえ若い恋人同士の逢瀬をずっと追いかけるのも無粋で、ほんの少し、二人から見えない位置に待機しているときのことだった。
「そうですね。私はエンディミオン王子が嫌い。あの方は姫を危険に晒す。同じ理由で貴殿は姫が嫌い」
ヴィーナスは嗤って腰から下げていたチェーンにその細い指を絡める。クンツァイトも同じように剣の柄に手をかける
「「あの方にそれを向けるならここで殺す」」
やっぱり似てますね、とヴィーナスはにやりと笑う。そんなヴィーナスにクンツァイトは今までかつてない、他の女に対して微塵も抱いたことのない親近感を感じ、自然とその金色の髪をひと房掴んでひっぱると、その紅の塗られた唇に口づけた。
「愛していない。だから禁忌には触れない」
この状況でそれを言うか?とクンツァイトは思った。それぞれ軍部をまとめるリーダーだったから、護衛の任以外でも、月と地球の合同会議の場でクンツァイトとィーナスはよく顔を合わせた。今日もその一つだった。
次の会議まで時間があくということでクンツァイトはヴィーナスを自分の政務室に招き入れた。月の戦士が行動を制限される地球での時間つぶしに付き合う程度にはこの頃親睦が深められていた。このときも部屋で茶でもふるまうつもりだったが、扉を閉めたとたんに長椅子に押し倒され、驚きと可笑しさで動かなかったクンツァイトにヴィーナスは馬乗りになる。
「いいのか?」と問うクンツァイトに対し、ヴィーナスは『もちろん』と言うように力強くうなずき、そして「愛していないから大丈夫」とあっけらかんと言いきった。艶めいた理由など微塵もなかったが、彼女の誘いに乗らないという考えはクンツァイトになかった。
「時間ね」
始まりに情緒がなければ事後も同じく。汗ばむ体を離したヴィーナスは一糸まとわぬその姿で堂々と体を伸ばしたあと身支度を整える。それはまるでスポーツを終えたようなあっさりとしたものだった。
「やっぱり貴方と私は似ているますね」
「そうだな。少なくとも俺は女がはしたない真似をやめろとは言わん」
「ここでそれを言ったら卑怯者でしょう?」
あなたも楽しんだじゃない、と彼女は屈託なく笑う。それ以後二人は逢瀬を重ねた。逢瀬というには色艶が足りず、2人にとって鍛錬の手合わせのようなものだったが。
逢瀬の数が両手の指の数じゃ足りなくなった頃、二人の関係に少し変化が生じた。このときクンツァイトは地球国の特使としてクリスタルパレスに来ていた。白亜の宮殿は美しく、クイーンとの謁見終了後に散策する許可をもらった。
白い宮殿の長い回廊を歩いているときクンツァイトはくすくす笑う女性の声を聞いた。それはヴィーナスの声で、そういえば彼女はここにいるんだっけと思い出す。肌を重ねる間柄にしては非常に淡泊なのだが、それでいいと互いに思っていた。
どうせなら彼女に案内してもらうかと女性の声がする方に向かい、最後の柱を曲がった先の回廊のベンチに1人の女性と3人の男性がいた。はだけた衣服などから4人の状況は瞬時に判断できたものの、クンツァイトは女性から目が離せなかった。
彼女はヴィーナスではなかったがヴィーナスに酷似していた。『何か?』と問う視線にクンツァイトは頭を下げその場を去るため体の向きを変える。謝罪ではないが、艶事に土足で踏み込んだような決まり悪さを詫びる気持ちだった。
「アフロディーテ様」
マントを翻してその場を去る寸前、男の一人が呼んだ名でクンツァイトは彼女の名を知り合点がいった。その後適当に4、5本柱を曲がったところでヴィーナスが笑って立っていた。
「あなたも迷子になったと連絡があったわ」
「”も”とは?」
「先日ネフライト殿が迷子に。いま月と地球の関係は微妙。マーキュリーを地球に置いている分この宮殿の警備は手薄よ。ヘタな真似は控えて頂戴」
「……わかっている。しかし俺もわざとではない。ここはどこも景色が似ている。よく覚えられるな」
「私も自分の使うところしか自信がないわ。この辺りは滅多に来ないし」
「姉御殿がいるからか?」
クンツァイトの言葉にヴィーナスはすうっと目を細め、クンツァイトの肩越しに回廊の奥を見るとふうっとため息を吐いた。
「あの女に逢ったの?」
「ああ、お前と似ていて吃驚した。まあ、こうして見ると見た目だけだな」
「………あんたもあの女に惹かれたってわけ?」
「お生憎だな。お前の元婚約者と俺は好みが違うようだ」
パンッと乾いた音が回廊に響く。
「傷口を知っていて抉るような真似は嫌いよ」
「すまん、口が過ぎた」
冷静さを欠いた自分を恥じるような気持ちでクンツァイトは内省すると同時に、なぜ自分がこんなに苛ついているのか不思議だった。首をひねるクンツァイトの脳内に突然さっきの光景が現れたが、男たちに絡まる女性はヴィーナスだと思った瞬間に脳が焼けたように熱くなった。
(……嫉妬?この女が他の男と、と想像しただけで?)
クンツァイトは今まで女に一途さや貞節を求めたことはなかった。なぜなら主を一番に思う自分のとって女たちは二の次。その心を彼女たちにそれを理解してもらおうと思わなかった。盲信に近いこの忠誠を解かってもらおうとするのは時間の無駄だと悟っていた。
その点ヴィーナスは自分と同じ揺るぎない一番をもつ者で、自分を理解してもらう必要も、彼女を理解する必要もなかった。
(俺は……彼女のことを)
クンツァイトはこの瞬間に自分の心の変化に気づいた。
「彼……アドニス、は…元気にしてる?」
その直後にクンツァイトは心をねじられるような焼け付く妬心を覚えた。ヴィーナスの顔を見れば彼女が婚約者に対して懸想ほどはいかなくても、心配する程度の想いを残していることに気づいた。
「ああ。さすがお前の従兄妹なだけある。女性ような容姿のくせにひとたび剣を振るえば俺たち四天王に匹敵するのだからな」
そんな風に応えながらクンツァイトはちょっと前のことを思い出す。その日ヴィーナスとの逢瀬を終えて一人王宮に戻るときクンツァイトは殺意に近い憎悪を感じた。その元に視線を向けると、さっきまで触れていた艶やかな長い金髪によく似た銀色の髪の男・アドニスがいた。
アドニスは金星から地球に来た男で、クンツァイトに来た報告では金星の妹姫の許嫁だったが、姉姫の色香に誑かされて破門になり地球に流れてきたということだった。
(ヴィーナスとあいつの婚約は大人が決めたと聞いていたが)
あれから顔を見るたびに感じる憎悪から推察するにアドニスはヴィーナスに懸想していることはクンツァイトには明らかだった。クンツァイトは自分の肩より長い銀色の髪に触れた。
(…いまほどコイツの顔を見たくないときはないな)
月の王宮で迷子になったクンツァイトをヴィーナスは地球に続く扉まで案内した。その間の彼女は一切口を利かなかったが、その憂いを帯びた瞳をみて元婚約者を想っていると感じ、地球につながる扉が閉まる寸前にその細く長い指が自分の銀髪に触れたのを見て確信に変わった。
「少しいいですか?大事な……お話があります」
「すまないが未だ仕事が残っている。ジェダイトかネフライトのところに行ってくれ」
「軍のことではありません。金髪の”彼女”のことです」
『何のことか分からない』といって躱すことも出来たが、アドニスの口から出てきた彼女の名がクンツァイトの神経をチリリッと焦がした。今思えばこの頃のクンツァイトは冷静さを欠き、些細なことに神経をとがらしていた。月でヴィーナスに余計なことを言ったのもそんな行動の1つだった。
アドニスを部屋に招いたクンツァイトは力を集中させ周囲に結界を張った。恐らくヴィーナスとの逢瀬に関することだから誰かに聞かれては面倒だと自分に言い訳したが、本音では今ここでこの男を殺しても誰にも分からないという狂気染みた考えだと自分では分かっていた。
「話とは何だ?」
「単刀直入に言いますが、俺の婚約者にこれ以上手を出さないで頂きたい」
「奇異だな。婚約者だったのは以前のことであろう?婚約者の姉姫に手を出して追放されて地球に来たと報告を受けている。愚かの一言に尽きるな」
「アフロディーテを目の辺りにすればあなたもそんなことを言えなくなりますよ。ヴィーナスと似た美しい容姿、清廉なヴィーナスにはない男を惑わす蠱惑的な媚態。いつも月の姫ばかり見ているヴィーナスとは違い、アフロディーテは俺を一番に見てくれる」
(…ガキか)
子どもの独り語りに付き合わされているような気分になったクンツァイトだったがすぐにアドニスの異変に気づいた。
「違う……ち、がう……俺はあの強い目が好き……使命は一番……俺は憎い、憎い、憎い!俺を捨てた金星が、俺をさげすんだあの金色の瞳が憎い!…違う、愛お……しい。あの女……が愛おしい。……触れ、たい………笑って、欲しい………なぜ笑う!なぜこの男に向かって笑う! ナゼ!!ソコニイルノハ俺ダッタハズナノニ!!」
「アドニス!!」
クンツァイトが制止を求める声も届かず、アドニスはその体のエナジーを一気に発散させて銀色の髪を逆立てるとクンツァイトの部屋を吹き飛ばした。その衝撃にクンツァイトの体が吹き飛び、政務机にぶつかるとその上のものがバラバラと床に落ちた。
まずい
机の上にあった小箱が落ちると、その中から紫色の石が転がり落ちた。クンツァイトの名前を冠する地球の石の1つであり、この地球の結界を築く柱の1本だった。石を守ろうとクンツァイトは手を伸ばしたが、黒いヒールの靴に阻まれた。
「………ベリル?」
視線を上げて靴の主を見るとそこには地球国の預言者であるベリルが立っていたが、最初それが誰かクンツァイトには分からなかった。なぜなら美しい彼女の黒髪が今は真っ赤に変わっていたからだった。紫色のドレスに緑色の装飾具を付けた彼女は禍々しく、思わず慄いたクンツァイトを嘲るように紫色に塗られた唇が歪んだ。
「よくやったわ、アドニス。これで地球はメタリア様のもの。あなたの愛する金の星の姫もあなたのもの…と言いたいところだけど、あの姫もなかなか、ここにもあの姫を欲している男がいるわ。四天王のリーダー、クンツァイト…いつもの冷静な顔も形無し、あなたの胸にも黒い闇がある」
それがクンツァイトの前世の地球での最後の記憶だった。
クンツァイトが意識を取り戻したのは乾いた砂の上だった。空には青く輝く地球があって、ここは月なんだとぼんやり思ったとき、クンツァイトの耳によく知る女の歌声が届いた。
(…ヴィーナス?)
力の入らない腕を叱咤して肘を使って体を起こすと、十数メートル離れたところに金色のドレスを纏ったアフロディーテがいた。
「あら、ようやく王子様の目が覚めたのね」
問いただそうと息を吸った瞬間に咳き込む。そんなクンツァイトにアフロディーテは「そんなに慌てないで。まだ少し、時間はあるようだから」と言ってころころと笑った。
「なぜ……どうして…?」
「”なぜ”自分がここにいるのか?”どうして”ここにあなたが、あなたの部下たちが血まみれになって転がっているのか?そうね、あなたの一番嫌な想像をして。それが答えよ」
アフロディーテの妖艶な冷たい笑顔にクンツァイトの背筋がぞわりと粟立つと同時に、地球での最後の記憶、ところどころ残る断片的な記憶がクンツァイトの最悪な想像を現実だと訴え始める。
「あなたはナゼここに?それにアドニスは…なぜ?」
「それが一番知りたいことでも無いくせに………これって殿方の悪い癖ねぇ。真実を知りたくないあまりどうでもいいことに執着するのだから」
でも教えてあげる、とほほ笑む彼女の膝には血の気を失ったアドニスがいた。心臓に真っ直ぐ突き立てられた剣と、アフロディーテのドレスを濡らす真っ赤な血の量を見れば彼が絶命していることが分かる。
「彼はヴィーナスが?」
「ヴィーナス?あらあら…女性に不自由しているようではないのに朴念仁な方。違うわ、彼は私が殺したの。曲がりなりにも金星の者だし、あのヴィーナスの姉よ?実はセーラー戦士に望まれたことだってあるんだから」
「なぜならなかった?」
「あらあら、時間もないのに本当にそんなことを知りたいの?可笑しな方ね。でもいいわ、教えてあげる。私ではヴィーナスのように月の姫を一番にするなんて到底できないからよ。この人を愛しているの」
「妹の婚約者を?」
「あなたは肩書きで愛する人を決めるの?愛が全て、愛には抗えない、愛する人を理屈や理性で選ぶなんて行為は愚かなことよ。あなたも見かけによらず朴念仁ね。いいえ、殿方は愚か者が多いのかもね。この人もそう」
アフロディーテはアドニスの前髪を優しく梳いた。
「アドニスはヴィーナスを愛している。私を抱いたのはヴィーナスの代わり、自分を見てくれない、触れさせてもくれない清廉なヴィーナスの身代わりよ……私の想いにもてんで気づかず、ひどい男」
「それでも愛してる」
「そう、愛する人を選べないもの。私も、この人も、あなたもね」
「ヴィーナスは?」「あなたたちと私を結界に閉じ込めて宮殿に行ったわ。あ、もちろん徹底的に、息の根を止める一歩手前まで叩きのめした後にね」
「…結界はなぜ消えた?」
「……答、えは……わかって……いるで、しょ…う」
ずるりと彼女の体が傾く。慌てて手を差し伸べて初めて、クンツァイトは彼女のわき腹が赤く染まっていることに気づいた。
「言った、でしょ?時間がな……いって。こ、っの人も…腕をあげたわ……刺、し違えなん……て三……文オ………ペ、ラ」
愛している男をその腕に抱いた女の最期にそれ以上触れられず、クンツァイトはアフロディーテを土の上に寝かせると一礼し自分は宮殿に走った。最悪の想像が現実となって口を開けていると分かっていたが。
「お前が最後の1人。地球国四天王が1人、クンツァイト殿。我が女王がお待ちだ」
月の宮殿の入口でクンツァイトを出迎えたのは灰色のネコだった。この猫はヘカテと呼ばれ、月の王国のクイーンの側近だった。さっさと背を向けたネコについて歩きながら、クンツァイトはこれが立体映像だと気付いた。ネコの足元には影がなかった。
玉座の間に足を踏み入れたクンツァイトはビクリと体を震わせた。折り重なるように倒れる月の姫と主である地球の王子。そして最後の死闘が想像つくように血だまりに倒れる四人の戦士。
そんなクンツァイトの意識を反らすようにクイーンの声が響き、玉座が輝く。クイーンも愛猫と同じく立体映像だった。
「よくいらっしゃいました、クンツァイト殿。ジェダイト殿、ゾイサイト殿、ネフライト殿、御無礼を申し訳ありません」
ぽうっと広間の一部が光ったと思うと名を呼ばれた3人が現れる。クンツァイトの視線の先で彼らが戦士たちに駆け寄ろうとしたところで次は四戦士の体と姫と王子の体が球に包まれる。
「結論を言います。クインベリルとメタリアはいずれ復活します。愛する娘を失った悲しみで私は強く心を保てず、完全に封印することは叶いませんでした。大変申し訳ありません」
「メタリアとの闘いでクイーンと私は没した。この映像は私たちの残留思念とでも思ってくる
強く言うヘカテをなだめるように映像のクイーンは優しくヘカテの首を掻いた。ヘカテは気持ちよさそうな、それでもどこか悲しげな瞳で女王を見る。
「私はもうメタリアと闘うことはできません。だから娘と、娘を守護する戦士たちに託します。そこでお願いがあります。滅した星は海に向かい新たな星となって生まれてきますが、タイミングが大事です。時機になるまで貴方方にに彼女たちのスターシードを護っていただきたい」
「メタリアの復活を感じたらマーキュリーたちを転生させるということですか?」
「さすがゾイサイト殿、理解が高い。そのときが来たら彼女たちのスターシードをコルドロンの海に導き転生させるのだ。女王が月の力を使って彼女たちに宿命を与えているからこのままでも同じ時・同じ場所に転生する可能性は高いが万が一があっては困る」
「ヘカテ。皆さまにはもちろん選ぶ権利があります。この任を負うということは今の生を捨て、魂となって悠久の時を選ぶということです」
クンツァイトたちはクイーンをじっと見たあと膝を折り、頭を垂れてこの任を受け入れた。こうして四人はその名を冠する石へと姿を変え、地球国の神殿の奥深くで魂となって悠久の時を超えた。
神殿の中央で光る6つのスターシードの灯りに包まれながら。
「お前は他の3人と違って前世を覚えているんだろう?」
クンツァイトの言葉に美奈子はギクリと体を強張らせ、きょろきょろと周囲を見渡すとクンツァイトをキッと睨むとその腕を引っ張って自分の部屋に連れて行った。意識を集中させて周囲に結界を張る。
「だから何なの?エース…アドニスが思い出させてくれたわ」
「あいつはそこまでお前を愛していたのか」
「そうね」と頷く美奈子を見ながら、地球国で最後にみた自分を憎悪する目をクンツァイトは想い出す。
「あんなに私のことを愛してくれたのに……どうして愛せなかったのかしら」
「…愛していなかったのか?」
「好きだったわ、幼馴染だもの。でもアフロディーテのように彼を愛することはできなかった」
「アフロディーテ…もしかしてお前はアフロディーテのために身を引いたのか?」
「…あんたって見た目の割に朴念仁ね。そんなわけないでしょう、何を聞いていたの?私はアドニスを愛していなかった、ただそれだけよ」
「でも婚約者だろう?」
「婚約なんて色々な理由でできるわよ!あんただって婚約者が2、3人いたでしょう?婚約者なんてどうとでも選べるけれど、愛する人は理屈や理性で選べないのよ!」
ふんっと胸を張る美奈子に、クンツァイトはかつて月の荒野で見たアフロディーテを思い出す。
「さすがに2、3人はいない」
「あら、1人はいたってことね」
「俺もいい年だったからな。理屈やいろいろな理由で周囲が選んだ婚約者だよ」
「ま、あんたにはキングがいるものね」
「ああ、お前にはクイーンがいるようにな」
「「あの方以外だれも一番にできない」」
二人同時に、諦めたような、腹をくくったような声で言う。
「私たちは似た者同士ね」
「それなら俺がどうしたいか分かるよな…いい加減辛抱の限界だ」
「あんた辛抱なんてする性質だっけ?」と美奈子はくすりと笑うとクンツァイトの長い銀髪を引っ張って
「今度はここから、ゆ~っくりと始めましょ。時間はたっぷりあるものね」
クンツァイトは近づいてきた赤い唇に自分の唇を重ねた。
END
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