雨宿り / 美少女戦士セーラームーン

美少女戦士セーラームーン

美少女戦士セーラームーンの二次小説で、衛&うさぎ(まもうさ未満)です。

原作第1部の頃みたいな、まだ恋人になっていない二人のはなしです。Amazon Primeでセーラームーンのアニメ(無印)を見ていて思いつきました。

物語のイメージは久保田利伸さんの「LOVE RAIN~恋の雨~」です。

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「なんで突然降ってくるのよ~! 雨宿り、雨宿り!」

予兆もなく突然降ってきた雨にうさぎは視界を遮られ、雨が伝う前髪をサイドに分けながら走った。

幸い歩きなれた通学路。

雨宿りポイントの目星がついているうさぎは雨に濡れて重たくなったスカートを蹴るように、まるで霧のような風景の中を走った。

肌をしっとり濡らす霧のような雨

早く、早くと焦る気持ち

(前にもこんなことがあった)

月の者という不思議な猫『ルナ』と出会ってから、

いくつもの戦いを乗り越えるたび、

同じセーラー戦士に逢えた喜びを味わうたび、

霞のようなぼんやりとした記憶がときどき浮かぶ。

いつのことなんてわからない。

自分が経験したことかさえ分からない、

それは朧月のようなぼやけた記憶だった。

(それよりも雨宿り!あと、ちょっと!)

しかし考え事が得意でないのが『月野うさぎ』という少女であり、

いまこの瞬間は朧げな記憶より雨宿りの方が重要だった。

滝のような雨の向こうに目指している場所が見えた。

そこは二人くらいがやっと並べるくらいの雨宿りスペースだが、

幸運なことに未だ誰もいなかった。

(ラッキー……ん?…ゲッ!)

「よお」

気軽に挨拶するのは近くの名門私立高校に通う地場衛、

うさぎの目下の天敵だった。

雨宿りスペースに踏み込むのは残念ながら同時だった。

「お前も雨にやられたか。お互い、災難だったな」

『”お前”じゃないもん』と言うようにうさぎは衛の言葉を無視し、

ツンッと顔を背けて薄いピンク色のハンカチで濡れた体を拭く。

そんなうさぎは予想できたのか、

衛は小さく笑って自分も紺色のハンカチで濡れた制服から水気を取った。

そんな間も雨は強く降り続け、

二人の靴の数十センチ先で雨粒は元気に跳ねていた。

ガコンッ

雨の音を遮るように重い音がして、

うさぎが横を見ると衛が自販機の前でその長身を折りたたんでいた。

うさぎの視界の中で男性っぽい節くれだった長い指が缶コーヒーのプルタップを起こす。

「ああ、お前も飲むか?」

うさぎの視線に気づいた衛が自販機から一歩離れる。

うさぎを濡らさないための気遣いか、

避けた衛の制服の肩で雨粒が踊った。

「ありがとう、でも…いいや」

「何だ、金がないのか…やっぱり中学生だな」

衛の言葉を子ども扱いされたと感じたうさぎの眉が吊り上り、衛に対して『親に甘やかされた有名私立高校のお坊ちゃん』の精一杯の皮肉を返す。

しかしうさぎのボキャブラリーは少ない。

初めは確かに衛への皮肉だったのに、

やがて己の苦しい金銭状況の暴露しだし、先日もテストで赤点とって小遣いが支給されなかったことまで喋っていた。

(こいつ…素直っていうか、バカっていうか)

キャンキャンと精一杯吠えるうさぎに衛は内心で大爆笑し、うさぎをわきによけて自動販売機の前に立つと温かいミルクティーを買う。

「親に甘やかされたお坊ちゃんだから奢ってやる」

自分では絶対に買わない可愛らしい缶を放ると、驚いた顔をしたうさぎは不器用にも何とか無事に受け止めた。

「ちょっと!アンタに奢ってもらうなんて嫌なんだけど!」

「もう遅い。俺は甘いのは飲まないからお前が飲まないなら捨てるだけだ」

「…だったら要るか聞けばいいのに」

ブツクサ言いながらうさぎが温かい缶をぎゅっと握ると、

雨で冷えた身体に指先から体温が戻るようだった。

「ありがと」

小声で礼を言って缶を開けて一口飲めば、砂糖の甘さにうさぎの顔がほぅ…っと蕩けた。

(ふぅん…黙ってりゃキレイな顔立ちなんだな)

こんな静かなこいつは初めてだと、うさぎを横目で見ながら衛はひと口缶コーヒーを飲むと少し冷めた缶コーヒーは苦味が目立った。

(これじゃあクラスの奴らと同じじゃないか)

未だ少女であるうさぎの美醜を評価していた自分を冷静になった衛は内心で嗤う。

男子校に通う衛。

高校生男子といえば興味関心の大半は女のことで、有名進学校の生徒といってもプライベートな会話は女、女、女である。

容姿端麗、成績優秀、運動神経バツグンの衛はよく合コンのエサとして誘われた。

正直に言って衛としては恋愛ごとに一切の興味はないのだが、

生憎とそんなことをクラスメイトに言えば一気に変人扱いである。

男子校で波風立てずに平穏無事な生活をするためにはある程度の協調性も求められ、今日もそんな付き合いでエサ役を果たした衛は呼び止められる前に逃げ出したのだった。

(俺にはやらなくちゃいけないことがあるのに)

衛には探し物があった。

それを探し出さなくてはいけないことは分かっているけれど、

何のためにか分かっていなかった。

ただそれが大事なものなのはわかった。

衛の胸に巣食うのは魂の半分を探しているような焦燥感で、

『それ』が見つかればこのモヤモヤした感覚が消えると衛は信じていた。

― 銀水晶を探して ―

夢の中でだけ会える彼女。

彼女は濃い霧のヴェールの向こうにいた。

おぼろげな輪郭と長い髪だけしかわからない。

彼女の言う”銀水晶”が見つかれば『彼女』が誰なのかも分かると衛は信じていた。

(そういや、こいつも…)

ちらりと衛が隣を見れば、

うさぎが長い髪をギュッと掴んで髪から水をしぼっていた。

細くてキレイな指に黄色がかった髪が絡まり、

桜色の爪が見え隠れする。

それは美術の教科書に出てきそうな、

まるで女神が髪を洗っている絵画のようだったが、

夏の涼やかなセーラー服の袖が雨で濡れて肌色が透けて見えた瞬間

(!! こ、こいつ///)

セーラー服の濡れた生地を通して薄らと見えるピンク色の下着。

下着のレースが際立たせる肌色が艶めかしく、

衛は直視していた目を慌てて背ける。

自分の顔が熱を帯びて火照っていのが分かった。

(…気づいて、ないのか?)

「雨、やまないねぇ」

(……ない、な)

暢気に雨空を見上げては缶を啜るうさぎに衛は内心ため息を吐いた。

今日体育でもあればタオルを放ることもできたのだが、

自分が薄い鞄1つしか持っていないことを衛は恨んだ。

空からは未だどしゃぶりの雨が降っている。

この事態に気づいていないうさぎに『それ』を指摘して、

変にこの場を荒立てたくなかった。

それに本音を言えば衛は今のうさぎをキレイだと思ったから、もっとこのうさぎを見ていたいと思っていた。

(衣を奪って天女を地上に留めた男の気持ちが分からなくもないな)

例えて言うならば降臨した女神に目を奪われた人間の男。

イヤラシイ気持ちではなく、額に入れて飾っておきたいような、崇高な気持ちだった。

(中学生相手にバカなことを)

衛が思わず音にして笑うと、

それに気づいたうさぎが衛をじっと見て

「飲んじゃったなら捨ててきてあげる」

うさぎは衛の手からとっくに空になっていた缶を奪って、

衛に背を向けた。

衛の目からも見える位置にあるごみ箱だったが、

揺れる黄色い髪が遠ざかることに衛には我慢できなかった。

「待て」

衛は気づくとその長い髪の先を手に絡め、

引っ張らない様に自分が足を踏み出して、

自然にうさぎの体を抱きしめる。

髪を軽く引っ張られる感触に振りかえった瞬間だったから、

うさぎは衛の胸に顔をうめるように抱きしめられる格好になった。

人間は予想外過ぎることに直面すると思考回路が停止する。

まさか自分がこんなことをするとは思わなかったから、

抱きしめた衛も驚いていた。

抱きしめられているうさぎに至っては事態の把握すら難しかった。

固まった2人とは対照的に、

シトシトとリズムよく降る雨だけが時を刻んでいた。

「悪い」

うさぎの脳が再起動したのは、

衛の低い声が体を伝って響いたときだった。

しかしうさぎの脳は再起動しても大して役に立たず

「う、ううん……あ、あの……」

戸惑いを言葉に乗せることしかできなかった。

同じく衛もパニックを起こしていたのだが、

自分以上に緊張している人がいると返って落ち着くもので

「空が光った気がして…雷が、苦手なんだ」

「あ…そ、そうなんだ。あ、うん、気にしないで」

「そっか」とつぶやいたため息に安堵と、

残念な気持ちが混ざっていたことにうさぎ自身も気づかなかった。

ただ

「悪かったな」と言って離れていった衛の温もりだけが、

うさぎの全神経を占めていた。

END

雨宿り / 美少女戦士セーラームーン

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