朧恋 ‐ hazy romance

美少女戦士セーラームーン

美少女戦士セーラームーンの二次小説です。

初めの頃に「衛→うさぎ」な感じがあってもいいな、と第1シーズン(無印)の衛の心境を妄想してみました。

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「あの」

帰ろうとして高校の門を過ぎたところで衛は突然女性に声をかけられた。

足を止めて振り返れば見覚えのあるような無いような制服を着た女子生徒。

何の用なのか容易に想像がついて「用事がある」といって言外に断ろうとしたら

「好きです」

他校の正門で堂々と告白とは。

大人しげな外観に似合わないと衛は内心驚きつつ感心していた。

スカートの前でかたく握られた小さな手をみればとても緊張していることも分かる。

周囲の好奇な視線から気を反らすように風が吹き、彼女の長く黒い艶やかな髪が衛の視界で踊ったとき

- 違う -

本能が脳に『彼女ではない』と告げる。

理由も根拠にもならないけれど、衛は本能に従い「ごめん」と断る。

俯いていた女生徒の細い肩が揺れ、しばし時を経て女生徒は一緒に来ていた友だちと去って行った。

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「ふう」

勇気を出してくれた彼女に申し訳なく思いながらも、疲れる空気から解放された衛は思わず息を吐く。

そんな衛の肩が叩かれ、振り返るとクラスメイトだった。

「……何だ?」

物言いたげな視線に衛は内心でため息をつきつつ問いかける。

彼の顔を見れば続く言葉は容易に想像ついたが。

「見てたぞー。  隅に置けないなぁ、色男」

「盗み見は趣味悪いぞ」

「正門前だぞ?  見たくなくても目に入るわ」

「それはそうだな」

頷いた衛は帰路につき、クラスメイトはそんな衛の後を追う。

隣に並びながらニヤニヤ笑い、「可愛い子だったのにもったいない」と言う。

そんなクラスメイトの言葉に衛は眉間にわずかにしわを寄せ

「…可愛かった、か?」

「お前……一体どこを見てたわけ?彼女、確か今年のミス十番高校だぜ?」

クラスメイトの雑学はサラリと無視し、呆れるような問いかけに衛は彼女のどこを見ていたのかを思い出そうと記憶を探り

「手と……髪の毛、かな」

「はあ?……大丈夫か? 親戚が脳外の医者だから紹介するぞ?」

「いや…どっちかと言えば精神科医の方がいいな。まあ将来医者になったら自分で治すとするよ」

そう言って衛はクラスメイトに別れを告げて道を別れる。

さっきの告白が尾を引いているのか、道を歩く女性の頭や手が衛の視界を占めていく。

色も形も似ているようで皆違っていた。

(俺には『それ』しか思い出せないんだ)

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” …ン ”

月の綺麗な夜は必ず見る夢。

衛は幼い頃からこの夢をずっと見続けていた。

何度も見ているのに、あの夢の中で衛は『彼女』の名を呼ぶ。

手を伸ばせば届きそうな距離に『彼女』がいるのに、記憶に残らない『彼女』の顔には深い霧がかかっていた。

夢の中では『彼女』に触れてさえいるのに、起きると記憶はぼやける。

れなのに『彼女』が泣いていることだけは覚えている。

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「何だ、また此処にいるのか」

衛の言葉に金色に近い長い髪の少女が振り返る。

それはとても嫌そうな顔で。

この少女は衛が初めて興味をもった人間であり、衛を少しでも知る人間ならば驚いただろうが、衛が自分からちょっかいを出すようなマネをしていた。

「お団子頭」

「私には”月野うさぎ”って可愛ーい名前があるんだけど!」

この少女を初めて見たのはいつだったか覚えていないが、見かけるのはなぜかいつもの帰り道の途中にある十番公園だった。

いつもはそこそこ人がいるのを見るが、少女を見かけるときはいつも人がまばらで衛はすんなり隣に立てた。

普段なら街で見かける人の一人になるはずだったが、初めて少女の泣き顔を見たとき衛は目を離せなかった。

彼女の泣き顔が妙に印象に残り、彼女の泣き顔に妙に本能を刺激された。

「何よ!」

少し過去を思い出していたため視線が虚ろになっていたが、じっと観察するような目を向けていたからか目の前の少女はケンカ腰に睨む。

もちろん見ていた理由なんて説明できず、それどころか衛は口を滑らせた。

「ちょっと泣いてみてくれないか?」

「はあ!!??」

返ってきたのは怪訝そうな視線と声。

軽蔑されても仕方がないことを言った自分を自覚した衛は軽く手を振る。

「すまん。忘れてくれ……疲れているんだな」

衛の言葉に少女が首を傾げると、金色に近い長い髪に陽光が反射する。

その光景を衛は素直にキレイだと思った。そんな衛の視界で金色の髪がふわりと舞う。

「熱でもあるわけ?」

少女は元々人見知りをしないタイプなのだろう。

衛に向かって気負いなく伸ばされた手に衛の方が驚いて身を引く。

拒否されたような理由が分からず少女が首をこてりと傾げたが

「悪い…その、用事を思い出した」

「ちょっと?」

衛は少女の制止を振り切り、逃げる様に公園から出る。

少女の白い手が衛の記憶に焼きつき、夢の中のおぼろげな『彼女』の手が少女の手に変わった。

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ふわりと音もなく降り立った自宅のベランダ。

衛が身に付けた漆黒のマントに街の明かりが煌めく。

カギを開けておいた窓から部屋に入り、プライベートで安全な空間にようやく息を吐いた。

照明を点けると大きな窓ガラスが鏡となって衛の姿を映す。

それは怪盗二十面相を彷彿とさせるタキシード姿。

” 幻の銀水晶を探して ”

夢の中でそういっていた『彼女』の願いを叶えるため、翌朝枕元にあった赤いバラを使って変身した衛はタキシード姿で夜の街を彷徨った。

銀水晶という名前ならば宝石だろうと見当をつけ、展覧会や社交界の情報を探ってはタキシード姿で見に行った。

今夜もある国の大使館の情報を聞きつけて出かけて行ったのだが

「…なんて顔をしてんだ」

外したマスクが衛の手の中で歪む。

窓ガラスに映る自分の顔がまるで他人のようだった。

見たこともない自分の、赤くなった逆上せた表情の自分。

冷ますために顔を洗おうと洗面所に向かえば唇の端に残ったピンクの口紅に気付き、顔が更に火照るはめになった。

月の光が降り注ぐ中で交わした口づけでついた紅。

御影石で出来た大使館のホールの傍の回廊で、月の光を浴びながら白く輝くドレスを纏って眠る少女にキスをした。

桃色の唇を薄らひらいて眠る少女はとても美しく、公園でみる元気な姿と重ならなかったが、むにゃりと顔がゆるむといつもの少女だった。

初めてのキスは衝動だった。

甘い吐息を感じながら軽く重ねた唇。とたんに心がしめつけられ、同時にふわりと温かくなった。

それは夢のようなひとときだったから、衛は思わずタキシードのポケットを探り夢でない証拠である一枚のハンカチを探り出す。

- 私には”月野うさぎ”って可愛ーい名前があるんだけど! -

可愛らしい白いハンカチには『月野うさぎ』と書かれていて胸がぎゅっと掴まれる。いつも逢う少女に心が奪われそうで、でもそれは夢の中の『彼女』を忘れてしまいそうで、衛はタキシードを雑に脱ぎ捨てると寝室に向かう。

今宵はキレイな月夜だから、『彼女』に逢うことを衛は強く願った。

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助けなければと思って理屈なく咄嗟に動いた自分の体。

貫かれた痛みよりも、全ての意識が少女に向かう。

少女はいつも薄桃色の頬が青くして、夜空を引き裂くような沈痛な悲鳴を上げた。

「タキシード仮面!!」

少女の声を衛はもちろん知っていた。

それは公園でよく聞く声だから、と思ったときに脳がずきりと痛む。

遠退きそうになる意識の中で少女の姿が歪み、夢の中の『彼女』とピタリと重なる。

” エンディミオン!! エンディミオン!!!! ”

(『彼女』は……『俺』は…)

” 君は『地場衛』君だよ ”

(違う………『俺』は…)

あの日病院で聞いた自分の名前よりもしっくりと心が認識するその名前は

- エンディミオン!! 目をあけて、エンディミオン!! -

『エンディミオン』。

夢の中の『彼女』が涙を散らしながら叫ぶように呼んでいた名前。

「タキシード仮面!! 嫌よ!!」

おぼろげな記憶の中の『彼女』のように、衛に触れる少女が涙を散らす。

月の欠片のような白く煌めく涙は月光に照らされ真珠のように光り輝く。

それは世界で一番美しいもの。

そして衛が世界で一番見たくないもの。

(泣かないで…)

夢の中で『彼女』に手を伸ばしたときのように、少女に触れかけた衛の手は力を失い空を切った。

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「まもちゃん!」

光が戻った視界で最初に見たのは『彼女』の涙で濡れた瞳。

既に泣いていた目に新たな涙がまた盛り上がったものの、『彼女』は笑っていた。

それは嬉しさや喜びが入り乱れた美しい笑顔で、瞳を濡らす涙を愛おしいと衛は感じた。

ふわりと温かくなった心に思わず手を置く。心の中には『過去』の自分と『現在』の自分がいて、目の前で光る真珠のような涙に二人の衛が喜ぶのを感じた。

- セレニティ -

それは太古の昔に自分が誰よりも愛したたった一人の名前。

- エンディミオン -

それは愛おしい女性が鈴の鳴るような声で呼ぶ自分の名前。

- やっと逢えた私たち -

彼女の体を抱き寄せる。

初めて抱き寄せたはずの体は懐かしい温もりがして、金色の髪の花のような香りも懐かしかった。

(今度は二人とも地球に住む者…もう掟に縛られることは無い)

やっと祝福される恋が出来る。

彼女が流す涙を堂々と拭うことが出来る。

愛してる、と抱き締めあう二人の体を冷たくも温かい地球の空気が包む。

それは二人を祝福するように。それはこれからの幸せを願う様に。

「もう…泣くな」

これは衛がずっと願っていたこと。

衛は伸ばしたその指でうさぎの目尻に触れると、真珠のような涙を優しく拭った。

END

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