美少女戦士セーラームーンの二次小説で、「永遠に想う」のスピンオフです。
クリスタルTOKYOのクイーンとなるため家族たちの記憶を消した衛とうさぎ。
「自分のために夢をあきらめないで欲しい」といううさぎに、これは自分の意志であることを納得させるため、内部戦士は記憶の操作を受け入れました。
今回は外部戦士たちの話です。
美少女戦士セーラームーンの二次小説です。 「#65 永想」で内部戦士が記憶操作を受け入れたのと同様に、外部戦士がどのように受け入れたのか書きたくて作りました。
イメージソングは安室奈美恵さんの「Hero」です。
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「彼女たちの記憶を……消す?」
「相談がある」とうさぎに言われてはるかとみちるが指定された店に行ったとき、そこにいたうさぎと衛の表情をみて二人は嫌な話だと直感した。それがあたってしまった。うさぎは美奈子たちの記憶を、自分で進む道を選択して後悔なく生きて欲しいから、月の力を使って消すと言った。
「僕たちも?」
「…3人はほたるちゃんの親だから」
- あなたから新たな使命をもらった -
そう言って嬉しそうに3人が去っていったことをうさぎは忘れていなかった。しかし一方ではるかの眉間に深いシワがよる。
「だから僕たちは特別扱いして記憶は消さない、と?僕たちがほたるを見捨てるかの知れないから?それは……ずいぶんと俺たちを見くびってくれたもんだ」
嘲笑まじりの温度を一切感じない冷たい批判にうさぎが怯む。うさぎの怯えた顔にはるかは舌鋒が鈍りそうになったが、気を引き締めて続けた。
「それとも…償い、とか?」
世界の終焉を迎えさせたことを言外に指摘されて怯んだうさぎの手を衛が握る。いくつかの歯車がかみ合わさった結果とはいえ、月の姫と地球の王子の恋はその終焉に向かう歯車のひとつだった。
しかし外部太陽系戦士の四人はうさぎたちと違った。例え死という結果だったとはいえ、うさぎは愛する人と共に死を迎えた。一方ではるかたちはたった一人、誰も知らぬ場で死を迎えた。その寂しさを想うたびにギャラクシアとの闘いを思い出し、その孤独を想像することさえもうさぎには耐えられなかった。
「だからあなたたちは甘いんだ」
「…はるか」
窘めるようなみちるの声に、はるかは厳しい表情をみちるに向ける。そんなはるかの責める視線を正面から受け止めて、「お二人は確かに甘いけれど」とはるかの意見を肯定しつつはるかを諌める。
「あなたは何もお二人に言っていないじゃないの」
言わなきゃわからないのだ。例え背中を預けるに足る仲間だといっても、言わなくても解かって欲しいというのはただの傲慢でしかなかった。そう指摘されてもはるかは腹の虫が治まらず、ぷいっと顔を背ける。
「…はるか」
「俺は知らない…みちるの好きにしたらいい」
こういうところはただの駄々っ子ね、とみちるは小さく笑ってため息を吐く。そしてうさぎに向き合い、その目を正面から見据えた。
「クイーン、いえ、いまはプリンセスと呼ばせて頂きますね」
うさぎの胸に巣食うのは過去の贖罪。だからいまはうさぎを”プリンセス”とみちるは呼んだ。
「私たちはあなたにただ…そうね、恋をしていたの」
「恋?」
「そう。憧れて慈しんで…何よりも大切に思っていた」
「ね、恋でしょ?」とみちるは笑う。
「でも…私はあなたたちのことを…」
「あなたが私たちのことを知らなくても別にいいのよ?そうね…あなたは昔から王子一筋だから解からない恋の仕方かもしれないけれど」
ただ影から見つめる恋があっても良い
ただ一方的に想う恋があっても良い
「私たちは一方的に恋をしていたの」
あなたが誰を愛していても良い
ただあなたを愛したい
この想いが報われなくても良い
それは知られようとさえしていない無償の恋だった
「私たちがあなたを知っていれば十分。あなたが私たちを知らなくても恋できるのよ?」
私たちはあなたの幸せだけを願っていた。だから月の王国の最後の日のことを知り悲しかったのは、恋するあなたが悲しい想いで死んでいってしまったから。だから切に願った、来世は幸せになって欲しいと。
「でも、いざとなるとやっぱり我侭になりますわ」
死を意識したとき考えた。考えてしまった。来世は恋したあなたの傍にありたいと。今世は存在さえも知られていない一方的な恋だったから、来世は存在だけでも知って欲しいと願ってしまった。
「クイーンは私たちの願いを叶えてくれました。だからいま、私はあなたの瞳に映っている」
みちるがにっこり笑うと、うさぎの大きな瞳の中に映るみちるも同じように笑った。あのときの夢はこうして叶ったと思いながら。
「あなたが私たちの記憶を消しても構わないわ。どうせ私たちはあなたに恋をする。それが私たちが望む私たちの運命だから」
そう言ってみちるは隣に座るはるかに微笑みかける。みちるの微笑みを見たはるかは肩を竦めてみちるの言葉に同意を示した。
「”母”としてほたるのこと気にかけて下さり嬉しいです。でも心配無用ですわ、あの子は大切なあなたから頂いた新たな宿命です」
あなたに恋する私たちが
あなたからもらった宿命を忘れるわけがない
「あなたが私たちの想いを疑うなら好きにしたらいい」
はるかの言葉は温かかった。私たちはいつもあなたを思ってる、とうさぎに伝える。それは運命に操られた想いなのか、想いが叶えた運命なのか。疑うならば証明してみせようとはるかは笑う。恋する人の曇った顔を見たくなかった。
口で言っても解からないならば、宇宙を総べるあなたの力に抗って証明してみせよう。
「私たちはこれが自分の意志だと証明するよ、必ず」
「どうぞ、好きにして下さいな」
「…良かったな」
「うん…未来は解からないけれど」
二人が自信あり気な微笑みを残して去ると、衛は俯くうさぎの頭を撫でた。先ほどの言葉はあくまでも今の彼女たちの言葉であり、記憶を失った彼女たちの決断はいまは解からない。でもあの自信が心細さで潰されそうなうさぎの背中を押してくれる。
「あの四人も同じことを言うぞ」
「うん…判ってる」
でもやらないと納得できない。納得できないまま長いときを過ごしたくない。怖くてもやってみなくてはいけない。
「…ありがとう」
「ん?」
「まもちゃんがいなかったら…こんな決断ができなかった」
うさぎにとって衛は自信の源。うさぎ自身が驚くほどの勇気を、泣き虫で怖がりな自分が一歩踏み出す勇気を衛はくれた。
「まもちゃんがいる、それだけで勇気がでてくる。まもちゃんは私のことを忘れないでくれるから」
「俺も彼女たちと一緒に記憶を消されても思い出す自信があるよ」
今までもそうだっただろ?と衛が茶化す様に笑えば、まもちゃんの想いの証明はまた今度ねとうさぎは笑う。それは泣きそうな顔で。
「”月野うさぎ”のことを忘れないでね」
「忘れるわけがない」
衛にとってセレニティも月野うさぎも全て大切な一人だった。泣き虫なのに強い、強いのにすぐに自分を犠牲にするうさぎを千年生きても絶対に忘れない自信があった。
「あなたが知っててくれれば構わないわ」
「嬉しいことを言ってくれるね………例え、嘘でもさ」
衛はさらりとうさぎの頬を撫でる。
「うさの仲間を最後まで信じろ。それまではこの腕だけで君を支えるよ。愛しているよ…何があっても。例え君を忘れても、俺はずっと君を愛しているよ」
君はそれだけを知っていて
それだけで俺は君のHeroになれる
Heroになりたい
君だけのHeroに
END
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