東京クレイジーパラダイスの二次小説です。
原作終了から数年後の竜二×司で、二人は恋人の設定です。
”小説家になろう”で人気の「魔導具師ダリヤはうつむかない」の中に、男性が女性のどのパーツに惹かれるかで派閥がある話が面白くて(無断)借用してしまいました。
原作者の甘岸先生、すみません。でも、素敵小説を毎回楽しく読んでいます(コミックも読んでます)。
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「はい、おしまい」
九龍組のお抱え医師である命子の言葉に、司はほっと息を吐く。
定期的な診察を終えてシャツに包むその体は瑞々しくて健康的でありながら、少女から女性へと移り変わる匂い立つ艶やかさ。
「もう司くんを男の子と思う人もいないわね」
「髪のこと?竜二のヤツが切るなって五月蠅いからさ」
不満げなセリフを、満更じゃない声音で語る。
まだまだ恋に照れる初心な司を、命子は微笑ましく思った。
「三代目の気持ちも分かるわ」
女の命子でも時折目を引かれるキレイな長い黒髪。
その肩甲骨を越えるほどの長さは、この4年間の長さそのものだった。
命子が司に初めて会ったとき、司はいつも表情を乱さない竜二が若干慌てた表情でその腕に抱えていた。
もちろん、それより前に噂は聞いていた。
何しろ10代半ばで関東最大の組のトップに立ち、先代にサイボーグ改造されたと噂まである<あの>竜二が傍に置いているというのだ。
しかも男の子を。
グラビア雑誌の表紙を飾るような放漫な美女が裸で迫っても眉ひとつ動かさない思春期の男の子が、だ(竜二に対して「男の子」という表現は甚だ違和感があるが)。
女性経験が多過ぎてとうとう男色に?などと思ったものだが、診察のために司の服を脱がせて直ぐに分かった。
司は「女の子」だった。
両親の意向で男児として届出され、ここまで両親が願ったかは知らないが実にわんぱく坊主を体現したような「男の子」になった。
それからの付き合いなので命子は司を「司くん」と呼ぶが、司の前を知らない若い組員などは不思議な呼び名だと首を傾げている。
そう、いまの司をみて「男の子」と判断する人はいない。
それどころか、街を歩けば10人中9人が振り向いてじっとり二度見する美女である。
ちなみに九龍組組長側近の男から命子が聞いた話だが、男には胸派と腰派がいて、司はその両方の派閥を十分に満足させるほどの美女らしい(このとき命子は渋谷がどちらの派閥に属しているか問うたが濃密な甘い雰囲気に誤魔化されて答えてもらえていない)。
さらに余談だが、司に対する胸派と腰派の議論の内容が彼らの親分に知られたら血の雨が降るぞ、と渋谷は彼らにかん口令を厳命している。
(その司くんをただ傍においているだけなんて、三代目は何を考えているのかしら)
命がけの紆余曲折を経て、司と竜二は両想いになった。
「どこの馬の骨か」と煩い組の幹部たちが一瞬で黙り、掌返して迎合するほどの伝説的な血をひく司だ。
当時もいまも司と竜二の間を邪魔する者はいない。
さらには二人はすでに『死ぬときは一緒』という誓いを交わしているという渋谷の証言もとれている。
それなのに二人はまだ『清い仲』。
(若いうちにお盛んだったからもう枯れちゃったのかしら)
合法でも違法でも何でもありの狂都市・東京において一番ここがクレイジーだと命子は思っていた。
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「やけに気合入っているけど、竜二が自分の誕生日をそんなに喜ぶとは思えないんだけど」
組員にとって組長は「父親」である。
その父親がひと回り下でも彼らは「親」の誕生日は一年のどんな日よりも尊い日であり、盛大に祝うのが慣例だった。
そういう意味で司は唯一竜二を「親」としない者であり、熱意とやる気を全開にして会場を装飾する子どもたちにとって異端な存在だったのだろう。
ギンッと睨む大量の視線に怯むことになり、
「つー坊、三代目が呼んでいましたよ」
渋谷の言葉に縋るように「どこに行けばいいの?」と逃げ道を確保した。
「部屋だ」
「分かった」
警戒心ゼロの司の背中に向かって「明日、つー坊は欠席かもなぁ」と渋谷は呟いたことに司は気づかなかった。
「えっと…この状態は、なに?」
そして警戒心ゼロのまま竜二の部屋にのこのこ向い、照明を落とした薄暗い部屋の奥から聞こえてくる「入ってこい」を全く疑わず、
「うわっ」
竜二の間合いに入った瞬間に腕をひかれ、ベッドに組み敷かれる事態となったのだ。
「説明が要るか?」
照明を背に肉食獣のような獰猛な光を湛えた目で見下ろす竜二の、熱っぽい欲を溜めた声音に司は黙り込む。
ここで「うん」など言うのは愚の骨頂。
まあ、そのくらいしか今の司にできることはなかったのだが。
「…お前の言う『責任がとれるまで』待たされた甲斐があったな」
司の顔の横についていた右手を自由にした竜二は、シーツに広がる司の髪のひと房を指に搦めて口づけた。
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「誕生日プレゼントになる覚悟はできたか?」
そういった竜二はくっと口の端をあげて笑い
「4年もやったんだ、そりゃあもう十分覚悟はできているな」
竜二の熱を孕む声に全ての感覚を奪われ、その端正な顔が近づいたとき司は『食われる』と感じた。
弱肉強食のこの世界で負けるな、そんな両親の教えが司を動かす。
「さっきまでこんな気配全くなかっただろうが」
甘ったるい熱を孕んだ蕩けるようなキスの合間に、体の力が抜けるのを堪えながら司が問う。
そんな疑問を竜二は鼻で笑う。
「分かったらお前のことだ、脱兎のごとく逃げだしただろうが」
小学生の頃からの付き合いである。
少年として育てられた司が自分の中の「女」を意識させられることはアイデンティティーの崩壊であり、それを司が怖がっているのを竜二は知っていた。
「誕生日プレゼントをくれる女なら沢山いるだろ…」
小学生の頃からの付き合いである。
竜二の女関係のひどさを司は熟知していた。
自分の全てを与えることになるのだ。
歴代の彼女たちのように「私がプレゼント」なんて軽い気持ちで自分を明け渡してしまうわけにはいかなかった。
「確かにいるが、その手の贈り物は一切断っている。キスでもすれば鉄拳制裁をくらわす女のために酔狂だろう?」
そう言う竜二に司はため息をつき、竜二の胸を押していた腕を竜二の首に絡めた。
そんな司を竜二は軽く抱き上げて、ニヤリと笑う。
「18になった。結婚だろうが祝言だろうが、喜んで責任とってやるよ」
竜二の言葉に驚いた司の頭に浮かんだのは4年ほど前にのイザコザ。
関係を進めたがる竜二を拒否ったときのやりとり。
あのときの細かいセリフ、閨を共にする条件を問う竜二に「結婚して責任とれるならな!」言い放った自分の声が脳内でエコーする。
「律儀な奴だな」
「4年我慢すれば永遠にお前は俺のものになるからな」
喜んで禁欲してやる、と竜二に司は笑う。
あまりにも馬鹿馬鹿しい。
愚直な竜二の首元に司は嬉しそうな顔を埋めて隠して
「参りました」
甘く囁いた。
END
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