男心 / 東京クレイジーパラダイス

東京クレイジーパラダイス

東京クレイジーパラダイスの二次小説です。

概要

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「散れっ!」

背筋がぞくっと弱まり不意に感じた最悪の予感。

叫ぶように命令を下し、

何度も訓練した通りにSPたちが竜二を囲むのを司は視界の端で確認すると同時に、

司の足元で銃弾が爆ぜた。

反射的に司は車の影に身を隠したものの一向に起きない変化に首を傾げる。

普通なら奇襲は一気に決めるもの。

闘いで培った知識と異なる状況に考えを巡らしたがいつまでもこのままでいられず

(とにかく…やるか)

司のやるべきことは<竜二を守ること>だけ。

背中のバックファームに手を伸ばしてチェーンの具合を確かめ、

ふっと息を短く吐いて車の影から飛び出して、

一番近い敵の気配に向かって鎖の先端を放とうとして

「…っ!?」

自分に真っ直ぐ向けられた銃に息を飲み、

真円を描く銃口が陽の光を受けてキラリと黒く光るのを見ながら判断に戸惑った。

司の視界で景色がやけにゆっくりと流れる。

体の全神経が避けろと警鐘を鳴らしているけれど、

飛び出したばかりの体は制御が利かず、

ゆっくりと動く景色の中でトリガーに掛かる指を見ているしかなかった。

司にできることは来る衝撃に備えることだけで、

司は視界を閉じてそのときを待ち構えた。

パア……..ン

空気を揺らす独特の音がしたのに、

身体を襲ったのは弾丸よりもっと大きくて、

そして体に馴染んだとても温かいもの

(う…………そ…………)

司の視界で舞う色素の薄い髪。

鼻腔を満たす良く知っている香り。

突然のことに受け身が間に合わず、

竜二の腕に囲まれても歩道に叩きつけられたら苦痛の音が思わず喉から漏れた。

「竜二!!」

司を守るように覆いかぶさる竜二の安否を確認し、

竜二の大きな身体がずるりと崩れると悲鳴のような甲高い声で竜二の名前を呼んだ。

とにかく竜二の顔が見たくて、

司の腕に力がこもった瞬間に

「待て! 動かすな!」

渋谷の厳しい声が飛んで

竜二の肩に触れた司の手がだらりと地面に垂れた。

駆けつけた渋谷がみたのはそんな司、

竜二の身体の下敷きになったままなす術も無く自分を見上げる司だった。

無防備に大きな瞳から涙を流す姿に、

どうしよう、と縋る司の姿に、

この世界で既に”ドゥルガ”と畏怖される女の片鱗は見えなかった。

「大丈夫だから」

医療にも通じているSPに竜二を預けて、

渋谷は泣きじゃくる司の頭に手を置き慰める。

「俺が……俺が………」 

しゃっくりを上げて、

息も絶え絶えになりながら、

ただ泣いて自分を責める司の姿に数日前のことを思い出し渋谷は心を痛めた。

「三代目、どうかしましたか?」

顰め面をして今日の狙撃に関する報告書を睨む竜二の険しい表情が渋谷は気にかかった。

何しろ竜二が命を狙われることは珍しくない。

今では日本一になった九龍組のトップに竜二は君臨しているのだ。

そんな竜二に狙撃事件など日常茶飯事、下手をすれば三度の飯よりも多いときがある。

「いや……ちょっとな」 

「何だよ、未だ気にしてんのか?」

何が気になっているのか聞き出そうとした瞬間、

呆れた様な司の声が渋谷の背後で響く。

「こんばんわ」と司が渋谷の脇を抜けると花の香りが漂った。

「ほら、コーヒー。超濃いめ」

他の者には決して出来ないが、

司はあっさりと竜二のパーソナルスペースに入って竜二の掛ける椅子の肘に座る。

そして竜二の持つ報告書を覗き込みケラケラと笑いぺちっと竜二の頬を叩く。

「気にし過ぎだって。こんな狙撃珍しいことじゃないだろ?」

そのときはこれで話は終わったが、

あれから数日後渋谷は竜二に呼ばれた。

「悪いがSPを増やしてくれ」

未だ気にしてたのか、と竜二の指示に渋谷は軽く驚きつつ、その細かい指示を確認すると眉間にしわを寄せてしまった。

「この警備体制は…つー坊が怒りますよ?」
「別に司がどう怒ろうと構わない」

珍しく強硬な竜二の態度、その意外さに渋谷の眉が軽く上がる。なにしろ司の仕事への誇りを一番知るのは竜二だった。それなのに司の確認なくSPを増員をすることは司の技量を疑うに等しい行為だった。

「様子見のためしばらくのことだ」
「…解かりました」

忙しいのに諍いの種を蒔かないで欲しい、と渋谷は竜二の判断に内心ため息を吐いたのだった。


「酷い顔をしてるわ」

突然視界に現れた紙コップに渋谷は驚いて現実に戻り、顔をあげると手術着のままの命子がいた。

「三代目は大丈夫よ…ある程度想定してたみたいだし」

命子の言葉に渋谷は唸り、紙コップを奪い取って中身を見ずに飲んだ瞬間に目をむいた。てっきり珈琲だと思ったのに、喉を刺激する酸味に咽ながら渋谷は抗議すると

「ビタミン入りプロテイン飲料。司君の分のついでにね」

してやったりと命子は意地の悪い笑みを渋谷に向けた。普段なら憎たらしいと感じさえするその笑顔に渋谷は妙な元気をもらい、渋谷は再びゆっくりと啜るようにして一口飲んだ。

「…つー坊は?」
「泣き疲れちゃったみたい。三代目のそばで寝ているわ。…今回の狙い、司君だったのね」

命子も疲れたのか、渋谷の隣に腰かけ大きく息を吐いた。

「…まさか、だよ」
「そう…まさか、よね」 

<そんなこと>あり得ないと思っていた。あの牙雅会との闘いでフレイア相手に死闘を繰り広げた司。伝説の再現に誰しも高揚し、彼女が傍にいれば竜二は無敵だと信じた。

ドゥルガは不敗の女神。彼女が九竜組を護る限り、九竜組の繁栄は永遠を約束されたと思われている。

「三代目はつー坊を信じてない訳じゃなくて…つー坊を護りたいって思ったんだな」

司は女神ではなく生身の女だと竜二だけが解っていた。不老不死の女神じゃないのだから、当然ケガをすることもあれば、場合によっては命を落とすことだってある。


意識が浮かびあがると同時に、その優秀な脳は自分の置かれた状況を竜二は理解した。ピッピッと電子音が規則的に鳴り、消毒液の臭いが鼻をくすぐる。

(ったく………ヘマをした)

僅かに動くと痛みが走るが、今までの経験から大したことないと解る。麻酔がきいているのか疼くで済んでいる腹部を撫でて、自分に血液を供給する輸血管を見て大量に出血したんだろうなぁと他人事のように竜二は考えていた。

(起きたら怒るだろうな) 

とっくに意識は司がいることを理解していて、視界の中で眠る司に苦笑する。とても怒っている証なのか、ドアの方を向いて眠る司の顔は見えずに規則正しい寝息だけが司が寝ていることを教えてくれる。

(どう宥めるかな…いつもみたいに誤魔化すことはできないし)

今回のSP増員の指示に司は烈火の如く怒った。自分がそんなに信用できないのか、とどこか傷ついた目で。でも己の予感を説明する気にならず、抱きしめて、キスをして、そのまま…うやむやにして……この事態を迎えた。

どうしたものか、と思案していた竜二の耳に司の声が届く。そしてもぞもぞと黒髪が揺れるのを見ながら「なるようにしよう」と腹をくくった。

(……………)

起き抜けのぼんやりとした司の疲れた目。その目は兎の様に真っ赤に腫れていた。「……竜?」と舌足らずな司の声が自分を呼んで、その瞳の中心に自分お顔が映ったとき

(……………マズイ)

竜二が内心で焦った瞬間、司の眼に涙が一気に盛りあがり凄まじい勢いで流れ出す。わあっと泣き出した司は両手に顔を埋め、その指の隙間からも涙が落ちる。

「お……おい…」 

声をかけても聴こえない様で、しゃっくりとあげながら司は拳で涙を拭う。そんなに心配してくれたのか、と嬉しさや愛しさも湧くものの

「おい…頼むから……な?」

泣いてるのをどうしたらいいのか 。圧倒的に経験の少ない状況に、どう対応しようかと困窮する。とりあえず名を呼んで、涙を拭おうと手を差し出してみたら

「…りゅ、う」 

竜二の腕がしっかり動くことに司は安心して、新しい涙が司の瞳に盛り上がる。オロオロと打つ手に困り、痛みをおして上体を起こして限界なく涙を零す目尻にキスをする。しょっぱい涙が竜二の舌を刺激し、司も口づけられたことに驚き涙が止まった。

「………」
「………」

しばし見つめ合い、司の感情の迸りがとまったことに竜二はホッとし

「大丈夫だからもう泣く…「竜二!」」

泣くな、と言う前にまた泣き出した司が竜二の首に抱きつく。どこからこんなに涙が湧くのか、と感心したくなるほど泣き続ける司。

(もう良いや)

とにかく落ち着くのを待とうと竜二は司にされるがままになって体の力を抜くと…ぷにょん

(……………) 

ぷくぷく

(……………)

顔を包み込む司の胸の感触。司が泣くのは嫌だけど、正直言ってこの気持ちいい柔らかいものを逃したくない。恋心と男心の狭間で竜二はぼんやりと揺れ続けた。

END

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