言葉より指先 / 東京クレイジーパラダイス

東京クレイジーパラダイス

東京クレイジーパラダイスの二次小説で、竜二×司で結婚式前夜です。

 旧サイトで実施していた【お題リクエスト】から、ちはる様からのリクエストです。

イメージソングは Official髭男dismの「stand by you」です。

”Stand by you”は直訳すると「君の傍」とか「君の隣」で、ちはる様のリクが「二人が手を繋いで歩くシーンを購読したい(腕を組むのではなく恋人繋ぎ)」とのことだったので、ブンさん以下組員の方々には大変ご迷惑をおかけしますが深夜のお忍び(?)としました。

気に入っていただけると幸いです。

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特筆することのない、普通の1日が終わる。狂都市の中にあるというのに、その喧騒を遠くに聞く白神邸のテラスから司は夜空を見る。

不意に数年前、中学時代の修学旅行で初めて見た星空を思い出す。東京の空は大都市が出す汚れで淀んでいて、星空は覆い隠され、辛うじて月の光だけが地上に届く程度。ここで育った司はそれまで星空を知識でしか知らなかった。

知識としてしか知らないこと、それは無知とさほどかわらず、無知は時に罪とされるが幸運でもあると司は思う。

この狂った街は危険だと、司は警察でも特に凶悪事件を扱う両親から耳にタコができるほど聞いていた。両親が大好きだったから「わかった」と素直に両親の言葉を受け入れ、両親が教えることを護身術と信じて身につけた。

その結果、司の身についたのは戦闘力。護身術にしては行き過ぎ、しかし牙流会との戦争には必要だった力。つまり司が知らないだけで、両親の望みの裏に司の出生が、司の本当の両親のいざこざが関わっていたのだ。

ふぅ、と息を吐いた司は架空の相手に向かって拳を握り、相手の動きを想像して脚をくりだす。心が落ち着かないときの司の常。まるでダンスを踊るように架空の相手と戦う。

幼い頃の司の架空の相手は特撮ヒーロー、中学に上がった頃から相手は大嫌いなクラスメイト。大好きな両親の仕事、正義の象徴たる警察と対局にあるヤクザの息子が相手だった。架空の相手はそれから変わらず、いま司の脳内で形作り長い脚を繰り出して来るのは、一時間ほど前まで話をしていた、中学生のガキから青年に変化した白神竜二だった。

人生とは本当に分からない、と司は胴を薙ぐ竜二(イメージ)の脚を屈んで躱して、逆に竜二(イメージ)の脚を払う。竜二(イメージ)は崩れたバランスを片腕で立て直し、流れるように後転して少し離れたところで司に対面してニヤリと笑う。

司の想像の中だというのに憎らしい表情。それでいて自分に向けられた笑顔が嬉しい、愛しいと言う感情を司の心の中に浮かびあがる。

司の知識の範疇内にいてくれれば、恐らくいけ好かない元クラスメイトで終わっただろうが、何の人生の悪戯か、ポロポロと司の前にそびえていた無知の壁が崩れ出し、ガラガラッと崩壊して竜二が見えたと思ったと同時に恋に落ちていた。

サッとカーテンの揺れる音が、研ぎ澄まされた司の神経を刺激して、くるりと後ろを向けば開いたままの窓枠に体を預けて自分を見る竜二が視界に入った。

「悪い、起こしたか?」
「眠れないのか?」

司の質問に答えず自分の質問を投げつける竜二に、どうやら起こしたらしいと悟った司は小さく笑う。そんな司に竜二は大股数歩で歩み寄ると、流れるようにカーディガンを脱いで司に着せる。ピリッと指先を刺激した司のオーラに竜二は片眉をあげ

「気が立ってるな」
「まあな…どうもこう、落ち着かない」

グシャグシャッと司は頭を掻く。高校を卒業して以来伸ばしていた髪が司の指に複雑に絡まる。物心ついた頃には既に男の子として育てられていたのに、司自陣に興味がなかったことと周囲の無言の期待もあって切らずにいた長い髪がやけに滑稽に感じた。

「息苦しい……スゴイな、お前はこんな環境にずっといたのか」
「当たり前になれば空気と変わりない……少し出かけるか」

「出かけるってこんな時間に?」
「こんな時間だから邸を抜けるのも比較的楽だろう」

日本一の極道の頭が何を言っているのだと司は思ったが、竜二の提案は今の司にとても魅力的だった。逃げるわけではないが、ただ誰も自分を知らないところで想いきり体を伸ばしたかった。

「俺がまさかこんなときにプライベートな外出するとは思わんだろうよ」「待ちのごろつきに絡まれる程度だな」

その程度なら敵にもならない。2人の視線が同じ結論を出し、10分後に裏門で待ち合わせることにして、司は身支度を整えるために自分にあてがわれた部屋に向かった。

「深夜のデートに俺好みの服装をするとは感心、感心」
「深夜の街ならばこんなボンテージ系が一番自然だからな」

無表情で自分を哂う竜二の言葉を司は鼻息で弾き飛ばす。想定内の反応なのか竜二はそれ以上何も言わず白神邸の裏門から100メートルほど移動して古めかしい木の扉にたどり着く。他の門のカードキーとは違って竜二はアンティーク染みたカギをスーツの内ポケットからだし、南京錠のカギをカチャリと開けた。

「組の駐車場の隅に出る。遺品整理の時に親父の机の下で見つけた。親父は使っていなかったようだが、記録を確認すると爺さんは使っていたようだ」

「何でだ?」

「爺さんが使っていたのはこっそり秘密の愛人に会うため。その点親父は俺のお袋が死んだあとは愛人は山のようにいたが法的には独り身だったからな」

なるほど、と思いながら司は隣を歩く竜二を計るように見る。その視線に竜二は片眉をあげ、司の手を取り指を絡める。

「俺に愛人ができるかどうかはお前次第だな」
「安心しろ。お前が1分以上独り身になることは絶対にねえから」

にっと笑って絡めた指に力を込める。いわゆる恋人繋ぎというやつなのに、甘さを通り越して毒々しいやり取り。

「死力を振り絞ってお前の此処をかみ切ってやるよ」

そういって司は隙間なく重ねたの手を持ち上げて、竜二の手首に歯を立てるふりをして笑う。この深夜の冒険にかつて交わした『死ぬときは一緒が良い』なんて完成した詞は白けるから、ちょっと野性味を込めてふざけてみる。

「お前が隣にいれば俺の人生は退屈しないな」
「俺の人生、ここまでだって本にすれば即映画化、ひと儲けできるだろうよ」

「言えてる」と竜二は小さく口の端を緩める。

何しろ極道界で知らぬ者はいない影の聖妻の娘で、警察の中でも一握りの人間しか務められないコンポリの両親に育てられた司。キャラ設定はバッチリ。牙竜会との戦争でヒト型戦闘機・フレイアと闘うシーンなど某国の有名企業が真っ先に手を上げて映画化するだろう。

「14歳で関東一の組の頭ってもの結構いけるんじゃないか?」
「相手役には十分だな」

「お前、本の中でも俺の相手なわけ?」
「ノンフィクションなら当たり前」

クスクス笑ってバカ話。恋人繋ぎでがっちり結んだ両手は二人の間で適度に揺れる。人の騒ぐ声、漏れ聞こえる爆音、通りを走る車のクラクション。どれか1つでも十分喧騒といえる中にいるのに、隣り合った二人はお互いだけの世界にいた。

「いつものお前になったな……周りの期待は分かるがお前はお前だ。紅月司だ…それだけ忘れなきゃ他は何とでもなる」
「俺は俺…できんのかな、お前みたいに」

「俺はできる。ただし、お前がいれば、だがな」
「…竜?」

「関東一だろうが日本一だろうが関係ない。お前が隣にいなきゃ白神竜二は存在すらできない」

竜二の言葉に司は握っていた竜二の手を握る。細い指が硬い皮膚を貫くかのように強く食い込むから、竜二がわずかに眉を潜めた。

「ずりぃよ……俺はお前のトロフィーワイフかよって怒ろうと思っていたのに」
「…くだらねえ。そもそもお前が俺の隣で大人しく突っ立っていられる女か?」

「…ないな」
「…だろうが。『若桜の娘』ってブランドがオマケなんだよ。まあ、そのおかげで古参の奴らを黙らせることが簡単だったがな」

「いいとこどりして楽してんじゃねえよ」といつも通りの口調だったけど、司の言葉尻がわずかに揺れたから立ち止まった竜二が素早く屈んで司の顔を覗き込む

「でっかい瞳からぼたぼた涙が垂れてんぞ」
「……中坊のお前の方がぜってえに優しかった」

まだ恋仲になる前。オークション会場で変態親爺に売られそうになったとき、助け出されて安堵の涙を流した司を竜二は優しく抱きしめてくれた。あのときは司の涙におろおろしていたのに、今の竜二は平然としていて

「お前のマリッジブルーに付き合ってやってるだろ」
「俺一人じゃマリッジブルーにならねえんだから付き合うのは当然だろ」

どういう理屈だと竜二は内心呆れたが、何も言わなかった。確かにマリッジブルーになるには嫁になる必要があり、嫁になるには相手も必要。花嫁のマリッジブルーに花婿が無関係というのもおかしな話。

「素直じゃねえところも可愛いが……俺も手のかかる女に惚れたな」
「お生憎、俺は俺で変わることはねえ。一生、紅月司だ」

「そうだな。ただ一つ変わってくれりゃあ俺も文句はない」

どこだ?と問う司はファイティングポーズ。竜二の返答次第では殴る気満々の様。

(マリッジブルーってのは結婚における変化を怖がることを指す。そもそも、こんな殺る気まんまんの、変わる気なんて一切ねえ女が陥るもんじゃねえ)

それでこそ決めたら梃子でも動かない。一途といえば聞こえが良いが、ガンコな司は誓いを違えることは一生ないだろう。この一本気な性格も変わるはずのないところ、紅月司の紅月司たるところ。

「明日、白神司になってくれ。それ以外、俺は他に何も望まない」
「………ここでNOっていったらここ数日徹夜で頑張って準備してるブンさんに殺されるっての」

フンッと横向いた司は口でYESということはなかったが、その真っ赤にした頬も、繋いだまま未だ離れず絡まった司の指も、竜二には十分YESの返事になりえた。

END

言葉より指先 / 東京クレイジーパラダイス

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