東京クレイジーパラダイスの二次小説で、竜二×司です。
米津玄師の「感電」を聴いて思いつきました(拙者のクレパラ二次は渋谷×命子の要素もあります)。
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真っ暗な闇にチカチカと眩い光
労わる様に降ってきた光に
その優しさに縋るように手を伸ばせば
突然大きくなった光にパクリと飲み込まれると
「まだ くたばるなよ」
(なんてぶっそうな言葉だ)
呆れつつも本能が“何か”を訴えるから司は目を開ける
なぜか揺らめいている視界
咄嗟に苦手な水の中だと勘違いした体が空気を欲すると
開いた唇の間にぬるりと温かいものが入り込む
「ん……むぅ」
食い尽くすように口内を蹂躙する舌に
桃色にかすみそうな脳を叱咤した司はこの状況を思い出す
高級住宅が並ぶ一角にある白神邸
眩い中心地に負けまいと豪華絢爛に外壁や庭を輝かす邸宅もあるが、先々代の好みで渋くまとまっている白神邸の夜は静かでそれなりに暗い。邸の主が寡黙なせいか周囲を煩くると馬鹿みたいにみえてしまい、一通りの仕事が終わると屋敷内はシンッと静かになる。
(抜き足…差し足………って、なんで俺がコソ泥みたいな真似を)
夜が来た空を睨みつけながら、進む縁側の長さに悪態をつきながら、司は静かな足取りで忍者のような素早い移動を繰り返す。目的地は自分に当てが割れた私室、つまり司はこの邸の侵入者ではなく認められた居住者であるが
「何をやってるんです?」
「決まってるだろ、竜二に見つかるまえに部屋に行くんだよ」
「だ、そうですよ」
「そうか、それは残念だったな」
ふんっと鼻で笑う様な竜二の声に司が脱兎のごとく逃げようとしたが、一瞬先に伸びてきた長い腕がウエストに回り
「全く毎夜毎夜、懲りない女だな」
「毎夜毎夜、しつけえんだよ!」
「ほー、まさかお前が褒めてくれるとはな」
『俺も未だ未だ若いんだな』と精神年齢だけが40代の竜二はクククッと喉の奥で笑い
「まだ男盛りに足を引っかけたかどうかの年齢で何を仰っているのか」
そんな竜二の隣で渋谷が呆れたようにつぶやいた。そんな渋谷の視線の先でくるんっと器用に司を抱きなおした竜二。キャンキャンと小さな犬のように吠えていた司だったが、竜二が司の耳元で“何か”を囁けばピタリと吠えなくなり
(おやおや、まあまあ)
未だその表情の大半は初心な乙女のものだが、その中に確かにある匂いたつような女の色香に、綻び始めた艶やかさに渋谷は目を見張り
「それでは、お休みなさい」
『こいつも連れてけ!』と姦しく騒ぐ、ほぼ照れ隠しだと分かる女の声に背を向けて歩き出す。思わず誰もいない隣を見て
(“あの人たち”がみたら歓んで祝杯をあげたでしょうね)
無意味なタラレバに浚われそうになる心を叱咤して、『せっかくだから俺も』と渋谷は自室に向かいかけた足を止め、小さく笑うと医務室に向かって再び歩き始めた。
「ずいぶんと余裕だな、ペース上げていくか」
ポツリと降ってきた声にギョッとした司が抗議の声を上げる前にグッと圧迫感を感じ、一瞬後にまるで稲妻に感電したようにビリビリと体が震えた。
かはっと喉の奥に残っていた空気が吐き出されたあと、甘やかな艶声が琥珀色の空間を満たす。竜二の髪の先端から散った汗が、どんな美酒よりも竜二を酔わせる司のキメ細かい肌の上で爆ぜた。
余裕を失って、蕩ける瞳で虚空を見ながら、己の体の動きに合わせて淑やかに舞う司に竜二は目を細める。この女を助ける“あのとき”まで少年と思っていたなんて、といつもよりかなり短い呼吸の合間に竜二は笑った。
「まだイケるな」
ヒッと顔色を悪くした司に気づかない振りをして竜二はスピードを上げる。司は朦朧とした意識の中で何とか腕を伸ばし、何とかつかんだ竜二の肩につかみかかり置いて行かれないようにした。
溜めた息を一気に吐き出して正気に戻った竜二は、自分の下でくたりと脱力した司の顔から髪を払った。いつもより濃く紅色に染まった頬と唇に竜二は口元を優しく緩め、稲妻が遠のいた静かな空間を占める司の寝息に耳を傾けた。
夜の往来と同時に子猫のように逃げ出す司を捕まえて、力いっぱい構うのが竜二の日課。すっかり脱力して、竜二に寄り添って眠った司は、次の朝どろりと甘い蜜夜の記憶の羞恥に苛まれながらキャンキャンと子犬のように吠えては
― おぼえてろ! ―
漫画のような台詞を残して去っていく。これを挑戦状として受け取った竜二はまた訪れる夜を楽しみにしている…ことを司は知らなかった。
(洒落にならないほど…はまってるなぁ)
竜二にとって女は一過性のもの。もともと物に執着しないタイプだったから、来る女の顔も、去っていく女の顔も竜二は覚えることはなかった。
そんな竜二の隣に、つかず離れずの距離にいたのが司。お互いの親の家業が相いれなかったため、お互いの倫理観が邪魔して相いれることはなかったが、視界の片隅に何となくいた存在。
“あの日”溺れていた司を助けたのも単なる気まぐれ。
一度手を出した人命救助を途中で放り出すのも性に合わないと自分で自分に言い訳をして、自分と同じ制服に手をかけて胸元を寛げたら現れたのは自分と全く違う女の体だった。
あの日起きた変化から、ゆるゆると司の存在は竜二の世界を侵食していった。
侵食されて気づいた恋心。紆余曲折を経ていまは隣で眠る司の無防備な体に手を伸ばし、露出した胸に手を当てれば規則的に響く心臓の音。
この音が止まる瞬間には共にあろうと約束をした。
“それ”が本当に可能かどうかは2人がにわか程度にしか信じていない神様しか知らないが、そうでありたいと思う。
「明日も……いや、明日は西だったか」
世にいう出張を必要とする仕事ではないが、たまにある関西との会合。今回の開催地は大阪で、予定を見れば明日のうちに帰ってくることは絶対に無理で
「…次は明後日か」
思わず呟いた『明後日』。明日も知れない身だと痛感しているからこそ、『明後日』を口にしたのは初めてで
「これが永遠……悪くない、な」
小さな呟きに嫌そうな声を上げた司に竜二は顔をしかめたものの
「も………む、りぃ……もうねか……せて……」
夢の中でも自分に抱かれている司に口元を緩め
「また明後日な」
返事はいらないと、司の体を抱え込んだ竜二は隣の枕に頭を置いて静かに目を閉じた。
END
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