東京クレイジーパラダイスの二次小説で、あゆぽん子様からのリクエストです。
竜二×司というリクでしたが、第三者(浅羽椿)視点で仕上げてみました。
イメージソングはMr.Childrenさんの「しるし」です。紅月司は竜二にとっても浅羽君にとっても運命を変えた女だと私は思っています。
ベースは東京クレイジーパラダイスの最終巻に掲載されている特別編です。特別編は白泉社公式のマンガParkアプリで無料で読むことができます。
スポンサードリンク
「それじゃあ」
周囲には別れの涙を流す奴が多いというのに、目の前のこいつ、紅月司は相変わらずニカッと聞こえそうな笑顔で簡単な別離の挨拶を済ませてくれる。
まあ、俺も似たようなもんだけど。
湿っぽいのが苦手とかじゃなくて、それ以前、湿っぽい気分が全く分からない。
こういうところ同じだな、と思いながら紅月から差し出された手を握る。
男のくせに柔らかい手のひらの感触にドキッとさせられ早鐘を打つ俺の心臓。
そんな俺のピュアなハートのことなど全く知らず紅月は涼しい顔。
鼓動でさえ違うテンポを刻んでいる現実にいささか凹…いや、ないない。
こいつは男、女にしか見えないが男なんだ!
だから「ドキッ」とかありえない!!
「またな!」
小さな俺がのた打ち回る俺の心中なんて知らない紅月。
『さようなら』か『また会おうか』など、どんな言葉も嘘くさくなりそうで何て別れようなんて数日前から悩んでいた俺がバカなんじゃないかってくらいあっさりと別れの言葉が投げつけられる。
再会を誓う言葉なのにもの悲しく聞こえるのはなぜだろう……ああ、そうか。
「司」
白神竜二、この男がいるからだ。
「何をしている、さっさとしろ」
「悪い、悪い」
白神にとってクラスメイトなんて足元の石ころと何の代わりもないが、紅月だけは違う。
その証拠に白神のセリフ、言葉だけを読めば命令なのに声音はひどく甘い。
俺と二人でいる紅月に焦れたのだろう。
そんなぐい呑みレベルの度量に笑いたくなるが、…嗚呼、全然笑えない。
俺の目の前で、紅月の女みたいにでっかい目に白神がうつった瞬間にキレイな笑顔が花開くから。
嗚呼、やっぱり俺にはこいつが女にしか見えない。
やっぱり神さんは俺のお願いを聞いて紅月を女にしてくれたんじゃないかなぁ…それなら俺は神さんを一生信じる!
組の金の大部分を寄付したっていいのに。
「ほら、竜二も浅羽君と握手しに来たんだろう?」
いやいや、別れを惜しむなんて可愛らしい神経が白神に在ると思っているのか、お前は!!
紅月の鈍感さに関西人の性が刺激されて脳内は盛大なツッコミの嵐が吹き荒れる。
こんな俺の言葉は紅月に届かない……そう、俺の言葉なんて届かなくていいんだ。
だって紅月は俺のことを純粋に友だちとしてみている。
その俺がお前に恋してるなんて言ったら、お前ショックだろう?
そうさ、俺は恋を自覚したくなかっただけ。
必死に否定したって堕ちちまったものはしょうがないと今この瞬間は諦めた。
そして見事失恋……いや、失恋なんてとっくのとうにしていた。
その日俺は忘れ物をして教室に向かっていた。
生徒が下校し始めて約1時間たち生徒数が激減した中庭を最短距離で突っ切っているとき、目的の教室の中に白神と紅月がいるのが見えた。
俺の方に背を向けて、紅月は窓枠に座って白神と話しているようだった。
白神の顔は見えたが、いつものように無表情でどんな話題なのかさっぱり見当もつかなかった。
3階の高さの窓に腰かけていてもバランス崩れず危なげのない紅月に、いつも表情の変わらない白神に、ちょっと悪戯を仕掛けようと思ったのがいけなかった。
外から大声で呼んで脅かそうと開いた口はそのまま閉じず、俺の方が脅かされた。
白神と紅月はキスをしていた。
いや、確かにこの2人は妖しいと思っていた。
以前キスと見紛う瞬間にも立ち会った。
それでも俺は2人の関係に半信半疑だった。
半信半疑、それは俺が傷つきたくないと張った最後の予防線だった。
いつもの紅月なら「人前でするな!」と一蹴。
前回見かけたキスらしき現場だって紅月は何も反応を示していなかった…だけどこのときは違った。
このとき紅月の腕は白神の首に回る。
長いキスに供えるように紅月が顔の向きを変える。
白神を悦んで受け入れる紅月の仕草に思いがけないほど強いショックを感じ、「紅月は男だ」とか「俺はホモじゃない」とか考える間もなく失恋したと痛感させられた。
「紅月、違うって。白神は俺にヤキモチ妬いてんの」
「…へ!?」
紅月の背中を白神に向かって強く押す。
華奢な体はポスンッと白神の腕の中におさまる。
「よ、お似合い」なんてもう軽はずみなことは言えない。
何も知らなかった頃の自分が羨ましい。
白神の紅月への気持ちはよく分かる。
しかし九龍組と言えばでかいどころか日本一の極道、その組長が男色家など跡目争いの激化が必須だ。
2人の恋は茨の道となるだろう。
俺にできることは2人の友人でいつづけて、2人が困ったときには手を貸すことだけだった。
「東、あんた椿にまだ司君が女の子だって言ってなかったん?」
「え?いずれ分かることでしたし……必要、でしたか?」
キョトンと首を傾げる東に、「うちの男共はダメダメや」と首を横に振る浅羽椿の姉・菫がいたことは別の話。
「どうしたんだろ、浅羽くん」
さあな、と言いつつ俺は浅羽を背を視界の端に捉える。
友だち面をしているが時折感じる殺気に近い剣呑な視線をあいつから感じた…あのポリスといい、どうしてコイツは男心に疎いんだ?
「ま、いっか。近いうちに墓参りであっちに行くし」
あっさりと自己完結。男心に疎い原因を間近に見て、疎い方が良いとつくづく思う。
こうも純粋に「お友だちでいましょう」オーラで来られたら大抵の男は自信を失いズブズブと深く沈んで消えるだろう。
「お前は泣かないのか?」
俺はすぐ傍で泣いている女どもを指さす。
情筋が壊死している言われる俺と違って司は感情が豊かだ。
泣いたり笑ったり、チャラけたと思えば次の瞬間ゾッとするような修羅の顔を見せる。
どれがコイツのニュートラルなんて分からなくて、俺自身は司を知っているのかぐらぐらとした想いに駆られることも少なくない。
「何で泣くんだよ? 別に明日っからいなくなるわけじゃねえんだぞ?」
俺は俺、紅月司だと胸をはるなんとも漢前な女に、内心白旗を上げる。
結局俺はこいつのどんな顔を見たって惚れるだけなんだ。
俺の時を流してくれるのは司だけ。
俺の代わり映えのない灰色の毎日にあって、その鮮やかな表情で俺の1日を刻んでくれる。思い出は常に司とあると言ってもいい。
「そろそろ”死が二人を分かつまで”をやらんとな」
「”死が二人を分かつても”だろうが」
間違えんな、と竜二は司にどつかれながら卒業式の想い出は幕を閉じた。
END
コメント