恋狂いのサロメ

薬師寺涼子の怪奇事件簿

薬師寺涼子の怪奇事件簿の二次小説で、泉田と涼子は恋人設定で、B’zの「愛しい人よ…Goodnight」をイメージしました(さくらねこ様リクエスト)

Salome(サロメ)は新約聖書をもとにしたオスカー・ワイルドの戯曲で、王女サロメが自分の愛を拒んだ預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)の首に口づけるシーンが有名です。

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「…泉田君?」

肩を抱く大きな手から力が抜けていく感覚に涼子が気怠い身体をちょっと上げて泉田の顔を覗き込めば、

眠らまいと努力しつつも今にも負けそうな顔をした泉田がいた。

「我慢せずに寝ったら?」

耳元でささやく涼子の声に誘われる様に泉田は目を閉じ、「ごめん」と謝る語尾は音にならずに寝息にとって代わられた。

「…珍し」

泉田のクセなのかどうかは解からないが、ベッドを共にしたときにいつも先に寝るのは涼子の方だった。だから甘い睦言の余韻が残るベッドで、泉田の寝顔を見るのは初めてのことだった。

(目元に疲労がたまってる)

「ご苦労様」と感謝と労いを込めて目元に唇をそっと落とし、静かなベッドルームに規則的に響く寝息を聞く。

何となく眠ることもできず、でも、身体を包む温もりから離れる気も無くて。ただそこに寝転がって薄暗い空間を見つ続けるとまるで時が止まった様に感じるけれど

「ん…」

小さく身動ぎした泉田が涼子の身体を抱き寄せて、涼子よりちょっと熱い肌が涼子の身体に触れる。

トク…トク…トク…

鼓膜に響く力強い心臓の音。時は確かに刻まれて、この音はまだまだ未来を生きていく証だけれど

(ここで時が止まれば永遠に私のもの)

愛しい人の首を取った王女サロメの気持ちが初めて分かったような気がして、愛と狂気の曖昧な境目に涼子は小さく笑う。

「永遠に一緒」なんて涼子にとっては夢物語。

生きている限り変化があり、変化があれば「このまま永遠」などということはありえないことは涼子にはよく分かっていた。

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(そもそもさ!この私だって努力してんだぞ?)

昼間ネイルサロンでケアした赤い爪をした手を泉田の胸に置き、絹の様だと褒めてくれた肌を泉田に密着させる。

エステで肌に摩り込んだ熱帯の花の薫りが強く香る。

― 薬師寺様の恋人は果報者ですわね ―

いつも担当してくれるエステシャンのリッピサービス。

涼子にとってエステはいつも自分のためのものだったのに、今は自分だけでなく泉田のことも考えてメニューを選ぶ自分を指摘された気がした。

この香りも涼子の好みよりもちょっと甘い、泉田がいつだったか好きだと言っていた香り。

強い女だったはずだった

他人の意見に左右されるなんて冗談じゃないのに

(それを赦せるのは泉田君だけなんだから)

恋って厄介だわ、と思いながら小さくため息を吐くと

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「…眠れない?」

頭上から突然降ってきた声に驚いて泉田の顔を見れば

「少しだけって言ったろ?」

聴いてないと抗議しかけたものの、大きな口を開けて欠伸する泉田の姿に口をつぐむ。どうやら未だ完全に起きていない様だった。

「寝てて良いのに」

そういった瞬間、頬に温かい大きな手が触れた。

「そうは言ってもね」

泉田の身体がゆっくりと動くと涼子の体は泉田の下に収まった。

涼子を組み敷いた泉田の瞳には熱が籠っていて、まっすぐと射抜く泉田の瞳に涼子の心臓が跳ねる。

「恋人を満足させてないなんて、男のプライドにかかわるだろ?」

そうささやく声に、首筋に唇が触れる感触に、涼子の背筋が粟立ち、強く吸われてチクッと走る傷みに涼子の身体が熱くなる。

快感も傷みもこうして触れ合っていられるからこそのもの。

「…切らなくても良さそうね」

手を伸ばし真っ赤な爪で泉田の首を真横になぞると、恋愛モードになっている泉田は察しが良かった。

「そんなことをしなくても俺は傍にいるよ?」

「…永遠に?」

「とりあえず今夜は」

「先を心配しても仕方がないだろ?」と囁いて、これで話は終わりだと言う様に深く口づけた。

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甘くて熱い時間が過ぎ、何度目かの微睡におちかけた泉田を涼子の、掠れた熱い声が呼ぶ。気怠い体をもちあげて泉田が涼子を見れば、予熱で潤む猫の様な瞳が薄暗い照明に煌めいていた。

「嘘でも良いから、なんて絶対に言わないから」

突然の宣戦布告に驚いたが、寝惚けていたのかと疑うほどすぐに眠り始めた涼子には何も言えず、泉田はポスリと頭を枕に戻す。

(何でそんなことを考えたんだか)

切らなくてもすみそう、と赤い爪が首元を撫でた感触を思い出し

「傍にいる努力はするから…悪い予感は捨ててくれ」

取り越し苦労で切られちゃ堪らない、と涼子の首筋に優しくキスを落とした。

END

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