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いつも挽いたコーヒー豆が入っている缶を逆さに振るもパラパラとカスが落ちて来るだけ。
仕方ないと空き缶をいささか雑に放ってインスタント珈琲の瓶に手を伸ばしたが、一粒二粒の珈琲のカスをつけただけの透明な瓶に唖然とする。
「何でだよ!」
医局の珈琲が切れることは滅多にない。油が浮くほどドロリと濃いコーヒーは勤勉に働く医師のお供だ。
思い出すのはさっき直樹を出迎えた同僚の医師の、その手が持っていた大き目のマグ。それからはコーヒーの良い香りがしていた。
「お疲れって言うなら新しいやつを補充しておけよ」
理不尽な怒りに駆られながらロッカーから私物のバッグを取り出し、財布を探って小銭を確認する。此処まで悲劇を繰り返せば、向かった先の自販機が釣銭無しで販売拒否しかねない。
重い体を引きずって自販機のある休憩所を目指す。
いつも多くの人がいる場所だが、神様の温情か、ただ運が良かったのか、そこは誰一人いない静かな空間だった。やっと巡ってきた幸運に直樹はホッと息を吐く。
(さて…どれにするか)
甘いものも良いかと思ったが、内容に悩むのも面倒で直樹はブラック珈琲を購入したが
「…不味い」
念願の珈琲だというのに直樹は一口飲んで眉を顰めた。常飲している豆から淹れるコーヒーに逆立ちしても適わないのは仕方がないではない。所詮缶コーヒー、妥協も必要だと自分を奮い立たせたいものだが
(アイツの淹れた珈琲が飲みたい)
嗜好品の妥協は至極難しい。
柄にもなくそんなことを思っていたが、ふと直樹は何かを感じてそちらに視線を向けると
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