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「こ、琴子!?」
驚く直樹をよそに、直樹に気づいてもらった琴子は笑顔で扉から入ってきた。
えへへと笑う琴子の頬には真っ赤な跡。
琴子はベッタリとガラス戸に顔をくっつけ、自販機の前にいる直樹を観察していたのだ。
「…ったく、何やってんだ。体を冷やすなと言ってるだろう」
呆れのため息を吐くと直樹は琴子を室内に入れると、「ありがとう」と琴子は嬉しそうにえへへへと笑ったから直樹は視線だけで琴子にその理由を問う。
「やっぱり入江君はカッコいいなぁと思って、つい」
夫と妻という関係になっても琴子の直樹に対する恋心は変わらない。
例えその身に直樹の子を宿していても、琴子の直樹への恋心は一直線。
誰にもはばからず「大好きだ」と惜しげなく想いを言ってくれる。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「何も無いよ。運動がてら入江君の顔を見に来たの」
子どもに何かあったのかと訊く直樹に琴子はケロリと笑顔で返す。
いまも昔も琴子の原動力は直樹なのである。
そのことを嬉しく思いつつも、いまは心配が前に出る。
「だからって病院に…風邪の菌でも貰ったらどうすんだ」
「4日間も会えなかったんだよ。ちゃんとマスクしてきたし」
ポケットから自慢げにマスクを取り出す。
「それに外来時間が終わってから来たもん」 という琴子。
どうやら琴子は病院関係者という強みを活かして外来終了後に病院に来たらしい。
(昔だったら待たずに即だったよな…成長したんだな、こいつも)
予防措置をとって自分のもとに来た琴子に、母親となる自覚がちゃんとあることに直樹は感心した。
「…ん?」
ふと直樹は琴子の目が自分の手に、手に持っている缶コーヒーに注がれている事に気づいた。
「…飲むか?」
「え? いいの?」
「そんな物欲しそうな目で見られたらな」
目を輝かせる琴子に直樹は苦笑した。
妊娠が発覚して以来、琴子は家族全員からコーヒーを朝に一杯、夜に一杯しか許されていない。
嫁に激甘な紀子だがこの点だけは断固譲らなかった。
コーヒーを愛飲していた琴子にはつらい措置だった。
「少しだけだぞ?」
「ありがとう」
琴子は両手で受け取ると、まるで宝物に触れる様にそっと顔を近づけたとき、
ガタンッ!!
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