コーヒーと休憩時間

イタズラなkiss

スポンサードリンク

「「ん?」」

驚いた2人がガラス戸を見ると、そこには女性看護師たちの山が出来ていた。

「え? 何?」 

皆の視線を浴びる琴子は慌てたが、正確に言えば彼女たちは琴子を見てはいなかった。

彼女たちの視線が集中しているのは琴子が持っていた缶コーヒー。

なんてことない普通の細い金属の筒だが、琴子がひと口飲んだため飲み口に桃色の口紅がついていた。

「な、何? 何なの!?」 

(今更夫婦の間接キスを見たところで何だってんだ!) 

状況が読めずにパニックになる琴子と状況を把握してげんなりする直樹。

苛立つ気持ちを抑えながら直樹は琴子から缶コーヒーを奪い取り

「あーー!!」 

琴子の抗議の声を無視し、ごくごくごくごくと喉を鳴らして一気に飲み干す。

呆気にとられる琴子はそっちのけ。

「行くぞ、琴子」と腕を引っ張って直樹は休憩室を出ようとしたが、呆然としていた琴子は動けなかった。

「どうした?」

「……珈琲、飲みたかったのに」 

その目は名残惜し気に直樹が缶を放った先のごみ箱を見ていた。

「飲んだだろ?」

「飲んでない…音に驚いて口を付けただけ」

(…鈍臭い奴) 

仕方ないと直樹はもう一本買おうかと思ったが、個人的にはこれ以上不味い缶コーヒーを飲む気がしなかった。

(でも…こいつに一本飲ますわけにはいかないし)

琴子のお腹の膨らみを見ながら思案した直樹は自分の口の中に広がるコーヒーの香りに気づいた。

チラリと休憩室の外を見れば未だに沢山の白衣の女性たち。

仕事はどうした?とも思うがこの際無視することにした。

(…あの女……あっちにも)

直樹はその山の中に数人の見知った顔を見つけた。

彼女たちは琴子が妊娠中だからと自分との浮気を是非にと奨めて女性たちだった。

(釘…刺しとくか) 

思い立ったら即実行。

こういうところは琴子に似てきた直樹だったから、

「琴子」

直樹は名を呼んで傍に歩み寄り、しょぼんと俯いている顎に指を添えて上を向かせると

「い、いり…?」

「いまは香りで我慢しとけ」 

「何が?」と訊こうとした琴子の言葉は直樹の口の中に消えた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました