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きゃあああああああ!!
突然の生のキスシーンに扉の外のギャラリーから悲鳴が上がった。
これは直樹の予想の範囲内で、直樹は琴子の身体に腕をまわすとさらに強く唇を押し付けた。
「……///」
長い二人のキスシーンに一人
「…//////」
また一人と真っ赤な顔をした女性たちが去っていった。
『入江先生、入江先生。 至急、第三診察室に来てください。 繰り返します…』
二人の間に無粋な邪魔を淹れたのは直樹を呼ぶアナウンスの声。
直樹は大方を追っ払えたことも片目を開けて確認し、アナウンス放送終了後にそっと琴子から唇を離した。
「…はぁ」
琴子の口からほんの少しだけコーヒーの香りがする甘い吐息が漏れた。
吐息に誘われて直樹が隣を見れば目を潤ませて頬を上気させる琴子。
直樹とのキスの余韻か足元も覚束ない様子に直樹は苦笑した。
(こいつをどうするかな…このまま帰したんじゃ危ないよな)
仕事も大事だが琴子の身も大事なのである。
ましていま彼女は二人分の重みがある。
どうするかと思案する直樹の頭にある人物が浮かぶ。
「おい、お前もしかしてお袋と来たか?」
「え? え、お義母さん?」
琴子は甘い霧を追い払い、普段から出来の良く無い脳で直樹の言葉を理解してうなずく。
「えっと…私を此処まで送ってくれて……多分ロビーにいると思う」
(いや…ロビー”には”いないと思う、未だな)
直樹の深読みも正しく、そのとき紀子は必死にロビーに向かっていた。
もちろんその手には大きなカメラを持っていた。
「琴子ちゃん、お兄ちゃんとラブラブね~♪」
読みやすい自分の母の行動に。直樹は頭を痛めながらも直樹は琴子を連れてガラス戸を潜った。
「ロビーまで送っていく」
「え、大丈夫だよ。 入江君、仕事に戻らなきゃ」
「第三はロビー通っていくから、ついでだ」
「…第三って、何のこと?」
キスの余韻で蕩けていたため放送を聞いていなかった琴子が首を傾げると、直樹は説明するのも面倒で屈みこむと、
「黙ってろよ、舌を噛むぞ」
短い警告をした直樹は状況がさっぱり読めていない琴子を抱き上げた。
「いいいいいい、入江君!?」
「黙ってろって言っただろ?」
真っ赤な顔をした琴子の抗議を却下して直樹は足を踏み出した。
「この方が早い」
「で、でも」
「恥ずかしかったら下を向いてろ」
更に言い募ろうとする琴子をそう言って黙らせると、直樹はロビーに向かって足早に歩き始めた。
「まああ、お兄ちゃん♡」
琴子をお姫様抱っこして現れた直樹をみて紀子が目と、その手に持つカメラを瞬かせたのは言うまでもない。
END
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