親しき仲と礼儀

魔導具師ダリヤ

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「ダリヤ……?」

腕の中でずるりと脱力したダリヤを支え、顔を火照らせて荒い呼吸をしつつもくたりと気を失ったダリヤにヴォルフは苦笑する。

さすがにこの行為は「初等学院の学生の恋愛」の範疇から卒業したものであるが、成人してかなり経っている男の余裕をもう少し見せられたらとヴォルフは毎回反省していた。

残念なことに毎回「反省しているだけ」なのだが。

新進気鋭の商会長で次々と精力的に新たな魔導具を作り出す魔導具師といってもダリヤは普通の女性で、現役の騎士、それも魔物討伐部隊のヴォルフとは体のつくりが全く違う。

つまり、体力的にダリヤがヴォルフに適うわけがなく、毎度気絶するように強制的に眠りの世界に突入するのだった。

適温の湯が即時に提供される給湯器に感謝しながらタオルを濡らし、ダリヤが起きていたら羞恥で悶えそうなほど丁寧にダリヤの身を清める。

その白い肌に己が咲かせた紅い花に満足して、未だ少し赤い気がする細い足首に眉を顰める。

ー 商業ギルドの階段で足を滑らせただけだから ー

誰かの嫌がらせではないかと、すぐに「大丈夫」といって我慢しがちなダリヤを執拗なほど手を変え品を変え、最後には恋人になった特権を活かして甘く攻めて問い詰めると、

― 今日ヴォルフに会えると浮かれてて足を滑らせただけだから! ―

(ダリヤも逢いたいって思って理性がねじ切れた…って言ったら許してくれるかな)

いくつか置いてある自分のシャツを出してきてダリヤに着せると、自分は風呂場に向かった。

給湯器男爵といわれたダリヤの父が作った給湯器と配線、そしてダリヤが作った泡ポンプボトルが並ぶ風呂場は使い勝手が良い。

「ダリヤがつけると少し甘い匂いになるんだな」

ローザリアから贈られたという石けんを泡立てると、さっき香ったのよりも少しだけミントのような清涼感のある匂いを強く感じた。

今までダリヤが使ってた花の香りも嫌ではなかったが、男の身に断然使いやすい香りにヴォルフは義姉に感謝しつつも、塔で頻繁に風呂場を使うことを知られていることが、その理由も考えると照れ臭かった。

手で顎を撫でるとかすかに髭の感触。

迷いなく風呂場に設置された棚をあけて自分の剃刀と、フェルモがヴォルフ用に作ってくれた携帯用泡ポンプボトルを出して髭を剃る。

「これは遠征用にして、もう少し大きなボトルを買ってこようかな」

濃い髭の生えるタイプではないが、数回使ったら入れ替えが必要なサイズはやや面倒の方が強くなって、それだけ塔に居ついてる事実にくすぐったくなった。

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